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褒めちぎる

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 領地に向け2泊3日の旅路。
 私たち親子とエマ、リアンたち親子を載せた馬車2台で出発した。

 特に問題なく領地に付き、デリアが迎えてくれる。


「アンナ様、おかえりなさいませ!」
「デリア!」


 私は、何をさておきもデリアに抱きつく。
 1ヶ月半、側にいなかっただけで、もうずっと会っていない家族に会ったかの様な気持ちなった。


「元気だった?」
「おかげさまで、こちらでイロイロとさせていただいてました。
 あと……お客様がいらっしゃったので、そちらも……」
「あぁ、ノクトね。
 ノクトは、後でいいわ。
 それより、デリア、こっちで切り盛りして疲れたでしょ?紹介したい人がいるの!」
「アンナ様、これ以上は、お腹いっぱいでございます……」
「そういわないで……あなたが私の専属の侍女として戻ってもらうために必要な人だから!」


 私がやいのやいのとデリアに言っている後ろから、ジョージアがジョーを抱きかかえて降りてきていた。
 もうすっかり慣れたのか、仕方なさげに抱かせてあげているのよ!的な雰囲気を出してジョーは、ジョージアに抱かれていた。


「ジョー様も大きくなられましたね!お子様の成長は、とても早い。それに比べ、旦那様は……」
「えっと、何が言いたいか大体わかるから、それ以上は大丈夫です」


 侍女であるデリアは、ジョージアに辛辣である。
 まぁ、理由は一つしかないのだけど……キッと睨んでいるので、とりあえず、窘めておく。
 これから、ジョージアも共にあるのだし、それに、ジョージもこちらで育てることになる。
 そうすれば、おのずと、デリアの力を借りないわけにはいかなくなるのだ。


「まずは、報告を兼ねて侍女として雇う人の紹介をするから、部屋に案内して。
 あと、部屋の用意もお願いしたいのだけど……」
「かしこまりました。
 それは、ちなみにあちらの方に付くと思っていいですか?」
「えぇ、それでかまわない!」
「では、そちらに近い部屋を用意させていただきますね!」


 察しのいいデリアは、テキパキと指示を出していく。
 見るからに、完全に領地の屋敷も掌握してしまったようだ。
 私達が滞在していたときより、侍女やメイドの動きが明らかに違う。


「デリア、この1ヶ月半の間に、何かした?」
「何も?そうですよね?」


 そこらかしこで私達の荷物を運ぶ侍女やメイド、下男など頷くだけで作業を続けている。
 こういう動きをしているということは、これ以上は、聞かない方がいいのだろうということだ。
 案内される私の執務室へそそくさと向かうのであった。


 執務室の様子も少し変わっている。
 義父用に整えられていた部屋は、私が使いやすいように本宅の執務室と同じように整理し直されていた。


「使いやすそうね……本宅と同じような並びになっているから!」
「気付かれましたか?
 こちらにいる時間が増えるだろうと思い、少し手を入れさせていただきました。
 アンナ様が、考えるときに動き回っているのを知っていますから、同じような配置に変えてしまえば、
 どこかしらで打ち身をされることもないでしょうし!」


 あぁ、ソファや、机の角、ゴミ箱などありとあらゆるところでぶつかっていたことを思い出した。
 デリアとは、ここにいる期間が少ししかなかったのだが、そういうところまで見てくれていることに驚く。
 そして、そのように模様替えしてしまったことに感謝しかない。


「デリア、ありがとう!」
「いいえ、アンナ様、これくらいでお礼を言われては困ります。
 私は、アンナ様の侍女でございますから、主人がケガをしないように事前に整えることは当たり前
 なのです」


 それでも、嬉しいことに変わりはない。
 私のことを思って、ここまで整えてくれているのだから……この様子だと、寝室の方もきっと、本宅と同じような模様替えがされているに違いない。
 私は、デリアに近づき抱きつく。


「あ……アンナ様!?」


 突然のことに驚いているデリアに耳元でありがとうと伝える。


「お役に立ててよかったです!」


 はにかんだ顔で私と向き合った。
 後ろをほてほてとジョーを抱えたまま歩いてきたジョージアにもおかえりなさいませと挨拶している。
 ジョージアは、さっきと違う雰囲気のデリアに挨拶されたことに驚いているようだった。


「どうしたのですか?旦那様」
「あぁ、その……嫌われているかと……」
「発言いいですか?」
「あぁ、好きなだけ……」
「ありがとうございます!
 そうですね……個人的には、ものすごく嫌いです!
 でも、アンナ様が笑って隣に立たれるのであれば、私はジョージア様も主として仕える所存です。
 あくまで、アンナ様ありきですから、アンナ様に2度と悲しませるようなことがないようお願い
 します!」
「あぁ、今までアンナを支えてくれて、ありがとう」
「アンナ様を支えたのは、私だけではありません。
 ウィル様やセバス様、ナタリー様にニコライ様、あと領地でアンナ様を慕う領民や公都の本宅で働く
 侍従達全てです。
 それに、ジョージア様に言われなくても、私達はアンナ様を慕っているからこそ、側に侍っているの
 ですから、感謝なんていりませんわ!」


 デリアにも思うところがあって、ずっと我慢させてきていた。
 少しくらいのジョージアへの嫌味に関しては、私は窘めずにおく。
 むしろ、それを聞いて嬉しくて、デリアに微笑んでしまった。


「では、彼女たちを案内してきますので、少々お待ちください。
 少ししたら、別のものが、お茶をお持ちしますね!」


 デリアは、慌ただしく部屋から出て行った。
 うん、やっぱり、デリアがこの屋敷をきちんとしきってくれているのだと実感する。


「アンナの侍女は、強い子だね。
 それくらいじゃないと、アンナは支えられないのかもしれないけど……」
「デリアは、主想いのとてもいい子ですよ!
 私なんかの側に置いておくのがもったいないくらいの子です」
「確か、トワイスの王宮勤めをしていたという経歴があった気がするけど……
 アンナの間者だったりしてね?」


 私は、思わず笑ってしまった。
 ジョージアにしては、勘が鋭い。
 でも、そこは、黙っておくことにした。


「そうなのですか?
 王宮にもよく出入りしてたから……どこかで会っていたのかもしれませんね!
 あんなによくできた侍女は、世間広しと言えどいませんよ!」


 デリアを褒めちぎっているところで、お待たせしましたと扉が開く。
 入ってきたのは、デリアとリアンだ。
 さてさて、これからリアンをデリアに紹介するのだが……どんな反応を示すのだろうか……?
 主と言えど、こればっかりは予想できないでいるので……とりあえず、ソファにかけてもらうことにしたのだった。
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