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馬車の中
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アンバー領へ向かう馬車の中、1人きりで過ごすのは、この1ヶ月の間でも数少ない出来事だった。
私のちょっとした思いつきで、領地へと赴けば、『予知夢』よりひどい状況になったアンバー領に愕然とされたのは、まだ1ヶ月そこらの出来事である。
アンバー領は、今、一人一人の努力や私の領地を良くしたいという想いに賛同してくれた人々のおかげで、やっと領地改革のスタートラインに立てたばかりだ。
『予知夢』より1年早い改革の始まり、領地運営が機能していなかったこと、領地への資金横領、何故かダドリー男爵家の資金まで作らされていた現状に私は、戸惑いと焦り、不安が一気に掻き集められた。
「はぁ……この先、一体どうなっていくのかしら?
もう、私にはわからないわ……」
ここ5年程、私が見た『予知夢』のように物事が進まないでいることも多くなってきた。
どんどん、未来が更新されていっているのだ。
それは、いいことなのだろうか?
悪いことなのだろうか?
戦争が、早まるようなことは、ないだろうか?
頭の痛いことばかりであり、寒い馬車の中、不安を抱え1人きりで考えごとをしたため悪い方へと考えてしまう。
頭を軽く振る。
今日、夜会で倒れたとき、公世子の侍医に過労と睡眠不足、ストレスが溜まっていると診断されたらしい。
公世子を始め、倒れる程動き回るな!と叱られたが、今できることをと思うとどうしても私が動き回るしかないのだ。
指示だけ出したとしても、私が理想とするものではないだろう。
みんながきちんと考えてくれているのは知っているが、それでもやはり旗を振る人間は、必要なのだ。
馬車の中は、乱暴に走る馬車の音しかしない。
ウィルが、朝までに間に合うよう、馬車を走らせてくれているのだ。
時折ガタゴトと揺れるが、そこはご愛嬌だろう。
私は、このまま考え続けてもいい考えが出るとは思えず、領地に着くまで、少し眠ることにした。
起きていると、どうしても領地や領民のことを考えてしまって……ダメなのだ。
これから、領地に巣くうネズミの番の大捕物だというのに、そんな気分になれない可能性が出てきてた。
これでは、ウィルやデリアの命を預かることになるのに判断を間違えてしまうかもしれないのだ。
それだけは、あってはならない。
「一人になると、急に不安になるのね……」
誰もいない馬車の中で、私の声を馬車の走る音がかき消していく。
背筋を伸ばし手を前で組み、私は目を瞑る。
真っ暗だった馬車の中も、ほんのり明るかったのだとわかった。
目を閉じると黒く塗りつぶされたような真闇である。
ゆっくり、ゆっくり、呼吸を整えていく。
すると、意識が少しずつ遠のいていったのである。
目を開けると、未来だった。
あぁ、予知夢なのね?と周りを見渡すと、よく見慣れた本宅の食堂である。
奥にジョージアが座り、両方に食器が置かれている。
右側には、1つ、左側には、3つの食器が並んでいた。
1つの食器の前に背筋を伸ばして座っているのは、学園に行く前後くらいに育ったジョーであった。
「本当にジョージア様にそっくりね!」
愛しい我が子の成長が嬉しく、また、私は、この年まで成長したジョーを見ることができない寂しさに襲われる。
テーブルの端にいた私は、ジョーを見つめ、そっと後ろに立って頭を撫でる。
ジョーは、私に気づかないだろう。
だって、私の夢なのだから……
しばらくすると、ソフィアと黒髪黒目の兄妹が食堂に入ってきて、それぞれ食器の置かれている位置に座る。
上座には、もちろんジョージア、我が子の前に3つ並べられた食器の前にソフィアと兄妹が並んで座る。
ソフィアの視線が、ジョーを捉え睨んでいる。
「まるで、針の筵ね……」
思わず、手を差し伸べてあげたかったが……それすら叶わない私は、悲しくて仕方がなかった。
我が子の命は守れど、心までは守ってあげられないのだろうか。
隣にいてあげたい……そう思う。
「アンジェラ、学園に行く前に伝えておきたいことがある」
ジョージアの冷たい視線にさらされ、ぎこちなく返事をしている。
「アンバー公爵家は、ジョージが継ぐことになる。
そなたは、学園卒業と同時に、どこかへ嫁ぐか、違うところへ居を構えるように。
こちらは、今後ジョージのものとする。
今の部屋は、学園卒業までは、使ってもよいが、以降は出て行ってくれ!」
「お父様……かしこまりました」
ジョーの掌は、真っ白になるほどきつくきつく握られている。
本来なら、後継ぎはこの子であるのだ。
アンバーの血をひかない兄妹にアンバーを取られることをどう思っているのだろうか。
私は、そっとその拳に手を置く。
未来のあなたには、伝わらないでしょう……
でも、私は、ずっと味方よという意味を込める。
俯き加減に言葉を紡いだジョーに対し、ソフィアは、満足そうに笑っている。
「ジョージ、あぁ、ジョージ!
お父様が、あなたを後継者にと選んでくれましたわ!
よかったわね!!」
わざとらしく、チラッとこちらを見ながら言うソフィアのネコナデ声に私は、とても腹が立った。
それ以上に、その決断をしたジョージアを怒りを通り越し憎しみすら湧いてくる。
「それと、プラム殿下と仲がいいようだが、ジャンヌの婚約者だ。
適度な距離は保つように。
そなたは、アンナと一緒で、節度というものがわかっていないようだからな!」
叱られてばかりいるのは、正直癪にさわる。
「節度って何よ!
ジョージア様が領主に選んだジョージは……」
「かしこまりました。
殿下とは、今後一切の関わりを持ちませんので、それでよろしいですか?
ご婚約も決まっていたのですね!
お父様、おめでとうございます!」
一度、下を向き唇を噛みしめてから、ニッコリ笑ってジョージアにお祝いを言う。
惨めだろう……私が、あなたを女王にと教育しているのだから……
実の父親から、悪いことをしていないのに叱られることばかり言われるのだ……
辛い、アンナ……助けて……
聞こえるはずのない声が私に届く。
助けられるなら、今すぐにでも助けてあげたい!
私の唯一の大事な子どもだから……
「一人にして、ごめんね……アンジェラ……」
後ろに立っていた私にジョーは急に振り替える。
そして、目が合い、ホッとしたように微笑んだ。
「見えるの……?聞こえるの……?
そんなこと、ないわよね……?」
さらに笑みが深まる。
口だけで『泣かないで!』と言っているのを見て、驚いた。
そして、ジョージアを見つめ静かに言葉を続けた。
「お父様、私のことは、何を言っても構いません。
ただ、アンナのことは、いくらお父様でも、失礼なことを言うのは許せません。
私は、真実を知っております。
お父様が、お父様のやりたいようにするように、私もアンナと共に自分の道を
歩んでいきますわ!
真実を知らないお父様は、お可哀そうに。
いつまでも、真実から目を逸らせるほど、穏やかな日々は続きませんよ!
ソフィアも、王族と縁付になってよかったですわね!
では、失礼します!!」
そっと席を立つと、ジョージアににじり寄るソフィアが見えた。
きっと、これから……一方的にソフィアに怒られるのだろう。
アンジェラが私に生意気なことを言ったとかなんとか言って。
それを考えると、私は、少し笑ってしまう。
「お嬢様……あれは、いくら何でも、これから住みづらくなりますよ?」
「エマ!
大丈夫よ!私、明日から部屋で食事はいただくし、表面上は、完全に引篭もって
生活しますから!」
「表面上はってことは……アンナ様と一緒で抜け出すってことですよね……?」
「あら、よくわかっているじゃない!
私は、見た目はお父様にそっくりだけど、中身は、まんまアンナにそっくりよ!
そう思わない?」
私の方を向いて、ニッコリ笑う。
その姿を見て、私も笑い返す。
「お嬢様、どちらを向いて話しかけているんですか?
ほら、部屋に行きますよ!」
侍女のエマに先導され、部屋に戻るアンジェラ。
私の部屋の前を通ると、そっと扉を撫でている。
「アンナ、私、負けませんから!」
それだけ、私に言うと、私も頷く。
まずは、私が、頑張らないと……そう思わせる『予知夢』である。
すっと暗くなり今まで見ていた景色が黒一色になった。
しばらくすると、馬車が止まったのか、ガタン……と音がしたのであった。
私のちょっとした思いつきで、領地へと赴けば、『予知夢』よりひどい状況になったアンバー領に愕然とされたのは、まだ1ヶ月そこらの出来事である。
アンバー領は、今、一人一人の努力や私の領地を良くしたいという想いに賛同してくれた人々のおかげで、やっと領地改革のスタートラインに立てたばかりだ。
『予知夢』より1年早い改革の始まり、領地運営が機能していなかったこと、領地への資金横領、何故かダドリー男爵家の資金まで作らされていた現状に私は、戸惑いと焦り、不安が一気に掻き集められた。
「はぁ……この先、一体どうなっていくのかしら?
もう、私にはわからないわ……」
ここ5年程、私が見た『予知夢』のように物事が進まないでいることも多くなってきた。
どんどん、未来が更新されていっているのだ。
それは、いいことなのだろうか?
悪いことなのだろうか?
戦争が、早まるようなことは、ないだろうか?
頭の痛いことばかりであり、寒い馬車の中、不安を抱え1人きりで考えごとをしたため悪い方へと考えてしまう。
頭を軽く振る。
今日、夜会で倒れたとき、公世子の侍医に過労と睡眠不足、ストレスが溜まっていると診断されたらしい。
公世子を始め、倒れる程動き回るな!と叱られたが、今できることをと思うとどうしても私が動き回るしかないのだ。
指示だけ出したとしても、私が理想とするものではないだろう。
みんながきちんと考えてくれているのは知っているが、それでもやはり旗を振る人間は、必要なのだ。
馬車の中は、乱暴に走る馬車の音しかしない。
ウィルが、朝までに間に合うよう、馬車を走らせてくれているのだ。
時折ガタゴトと揺れるが、そこはご愛嬌だろう。
私は、このまま考え続けてもいい考えが出るとは思えず、領地に着くまで、少し眠ることにした。
起きていると、どうしても領地や領民のことを考えてしまって……ダメなのだ。
これから、領地に巣くうネズミの番の大捕物だというのに、そんな気分になれない可能性が出てきてた。
これでは、ウィルやデリアの命を預かることになるのに判断を間違えてしまうかもしれないのだ。
それだけは、あってはならない。
「一人になると、急に不安になるのね……」
誰もいない馬車の中で、私の声を馬車の走る音がかき消していく。
背筋を伸ばし手を前で組み、私は目を瞑る。
真っ暗だった馬車の中も、ほんのり明るかったのだとわかった。
目を閉じると黒く塗りつぶされたような真闇である。
ゆっくり、ゆっくり、呼吸を整えていく。
すると、意識が少しずつ遠のいていったのである。
目を開けると、未来だった。
あぁ、予知夢なのね?と周りを見渡すと、よく見慣れた本宅の食堂である。
奥にジョージアが座り、両方に食器が置かれている。
右側には、1つ、左側には、3つの食器が並んでいた。
1つの食器の前に背筋を伸ばして座っているのは、学園に行く前後くらいに育ったジョーであった。
「本当にジョージア様にそっくりね!」
愛しい我が子の成長が嬉しく、また、私は、この年まで成長したジョーを見ることができない寂しさに襲われる。
テーブルの端にいた私は、ジョーを見つめ、そっと後ろに立って頭を撫でる。
ジョーは、私に気づかないだろう。
だって、私の夢なのだから……
しばらくすると、ソフィアと黒髪黒目の兄妹が食堂に入ってきて、それぞれ食器の置かれている位置に座る。
上座には、もちろんジョージア、我が子の前に3つ並べられた食器の前にソフィアと兄妹が並んで座る。
ソフィアの視線が、ジョーを捉え睨んでいる。
「まるで、針の筵ね……」
思わず、手を差し伸べてあげたかったが……それすら叶わない私は、悲しくて仕方がなかった。
我が子の命は守れど、心までは守ってあげられないのだろうか。
隣にいてあげたい……そう思う。
「アンジェラ、学園に行く前に伝えておきたいことがある」
ジョージアの冷たい視線にさらされ、ぎこちなく返事をしている。
「アンバー公爵家は、ジョージが継ぐことになる。
そなたは、学園卒業と同時に、どこかへ嫁ぐか、違うところへ居を構えるように。
こちらは、今後ジョージのものとする。
今の部屋は、学園卒業までは、使ってもよいが、以降は出て行ってくれ!」
「お父様……かしこまりました」
ジョーの掌は、真っ白になるほどきつくきつく握られている。
本来なら、後継ぎはこの子であるのだ。
アンバーの血をひかない兄妹にアンバーを取られることをどう思っているのだろうか。
私は、そっとその拳に手を置く。
未来のあなたには、伝わらないでしょう……
でも、私は、ずっと味方よという意味を込める。
俯き加減に言葉を紡いだジョーに対し、ソフィアは、満足そうに笑っている。
「ジョージ、あぁ、ジョージ!
お父様が、あなたを後継者にと選んでくれましたわ!
よかったわね!!」
わざとらしく、チラッとこちらを見ながら言うソフィアのネコナデ声に私は、とても腹が立った。
それ以上に、その決断をしたジョージアを怒りを通り越し憎しみすら湧いてくる。
「それと、プラム殿下と仲がいいようだが、ジャンヌの婚約者だ。
適度な距離は保つように。
そなたは、アンナと一緒で、節度というものがわかっていないようだからな!」
叱られてばかりいるのは、正直癪にさわる。
「節度って何よ!
ジョージア様が領主に選んだジョージは……」
「かしこまりました。
殿下とは、今後一切の関わりを持ちませんので、それでよろしいですか?
ご婚約も決まっていたのですね!
お父様、おめでとうございます!」
一度、下を向き唇を噛みしめてから、ニッコリ笑ってジョージアにお祝いを言う。
惨めだろう……私が、あなたを女王にと教育しているのだから……
実の父親から、悪いことをしていないのに叱られることばかり言われるのだ……
辛い、アンナ……助けて……
聞こえるはずのない声が私に届く。
助けられるなら、今すぐにでも助けてあげたい!
私の唯一の大事な子どもだから……
「一人にして、ごめんね……アンジェラ……」
後ろに立っていた私にジョーは急に振り替える。
そして、目が合い、ホッとしたように微笑んだ。
「見えるの……?聞こえるの……?
そんなこと、ないわよね……?」
さらに笑みが深まる。
口だけで『泣かないで!』と言っているのを見て、驚いた。
そして、ジョージアを見つめ静かに言葉を続けた。
「お父様、私のことは、何を言っても構いません。
ただ、アンナのことは、いくらお父様でも、失礼なことを言うのは許せません。
私は、真実を知っております。
お父様が、お父様のやりたいようにするように、私もアンナと共に自分の道を
歩んでいきますわ!
真実を知らないお父様は、お可哀そうに。
いつまでも、真実から目を逸らせるほど、穏やかな日々は続きませんよ!
ソフィアも、王族と縁付になってよかったですわね!
では、失礼します!!」
そっと席を立つと、ジョージアににじり寄るソフィアが見えた。
きっと、これから……一方的にソフィアに怒られるのだろう。
アンジェラが私に生意気なことを言ったとかなんとか言って。
それを考えると、私は、少し笑ってしまう。
「お嬢様……あれは、いくら何でも、これから住みづらくなりますよ?」
「エマ!
大丈夫よ!私、明日から部屋で食事はいただくし、表面上は、完全に引篭もって
生活しますから!」
「表面上はってことは……アンナ様と一緒で抜け出すってことですよね……?」
「あら、よくわかっているじゃない!
私は、見た目はお父様にそっくりだけど、中身は、まんまアンナにそっくりよ!
そう思わない?」
私の方を向いて、ニッコリ笑う。
その姿を見て、私も笑い返す。
「お嬢様、どちらを向いて話しかけているんですか?
ほら、部屋に行きますよ!」
侍女のエマに先導され、部屋に戻るアンジェラ。
私の部屋の前を通ると、そっと扉を撫でている。
「アンナ、私、負けませんから!」
それだけ、私に言うと、私も頷く。
まずは、私が、頑張らないと……そう思わせる『予知夢』である。
すっと暗くなり今まで見ていた景色が黒一色になった。
しばらくすると、馬車が止まったのか、ガタン……と音がしたのであった。
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