上 下
211 / 1,480

石切の町

しおりを挟む
 翌日、私達が移動した町は、街道の石畳用の石切をお願いしている町であった。
 町の裏方には、大きな岩盤をさらけ出している山が見える。



「すごいわねぇー!
 ねぇ、見て、パルマ!」
「アンナ様、前を見て歩いてください!
 危ないですよ!」



 私は、山の方を指して騒いでいると、パルマに叱られ、前を向いて歩く。
 それにしても、すごい山だなと思う。



「ここも、町の人たちが、待ってくれるのね!
 おはようございます!」



 私は、元気よく集まってくれている町の人たちに声をかける。



「あぁ、おはようさん!」
「今日は、お掃除に集まってくれた方々ですか?」



 見渡すと、町の規模からしたら少ないが、そこそこの人がいることがわかる。
 いつものように挨拶と説明を済ませ、それぞれ場所に分かれて掃除にかかる。
 私は、一番汚そうなとこへ行くことにした。

 パルマは、私の後をついてくるしかないので、嫌そうだったが渋々ついてくる。
 無理してついてくる必要はないのに……そう思ってしまうが、私のことにも気を付けてくれているのだと思うと何も言わずに黙っておく。



「ここの町は、公爵夫人の申出で石切をしているところだよ」



 一緒に作業をしていたお婆さんが教えてくれる。
 なんでも、公爵夫人は、街道を石畳に変えたいと言っているとかで、町の男たち総出で石切に出かけているとか。
 おかげで、今は、潤っていて仕事もたくさんあるとのことだ。


 お婆さんは、年寄りですることがないから、参加したそうだ。
 それでも、町を綺麗にすることに興味を持ってもらえたのは嬉しい。
 この町は、私が落としているお金のおかげか、他のところよりは整っているので、正直あまり時間はかからないだろう。



「じゃあ、ちゃっちゃと始めましょうか!」



 お掃除隊の面々に声をかけ、お手伝いにきた町人たちにも声をかける。
 手慣れてきたからか、時間は思ったよりもさらにかからなかった。



 やはり潤っているところは、それだけ人に余裕が持てているということなのだろう。
 一番汚いところであっても今までに比べれば、たいしたことがなかったからだ。



「石切のところ行ってみたいのだけど……行っても大丈夫かしら?」
「お嬢さんが行くのかい?」
「そう……いや、いいけど危ないよ?」
「うん、でも、見てみたいの!」


 私の好奇心が顔に出ているのか、仕方なさげに町の人が案内するとかって出てくれた。
 お掃除隊をぶらつかせておくのももったいないので、パルマに言って先にユービスの仕切っている町へ行くよう伝えるとそちらに荷物をまとめて行ってくれる。

 そうそう、今日手伝ってくれた人へのお礼も忘れずにした。
 ただ、炊き出しをする必要がないので、少しばかりだが、食材を分けたのだった。


 一緒に行ってくれるお爺さんは、ワンダという。
 元々、石切場で働いていたらしいが、年もあって引退したのだそうだ。
 体つきを見れば、なんとなく職人とか体を使うような仕事をしていたのかなぁ?と思ったが、やっぱりということだ。



「公爵夫人には、全くの感謝だよ……
 ここいらの若いもんは、仕事に対してとっくに諦めていたんだ……
 だから、こうして仕事を与えてもらって、対価をもらえることでどれほどの感謝か」
「そうなの?
 例えば、石切の仕事が終わったとしたら、その後の街道整備とかも手伝ってくれたり
 するのかしらね?」



 私は、何気なくワンダに問うてみた。
 欲しい答えが返ってくることを祈りながら……



「えぇ、公爵夫人が、呼びかけてくれるなら、あいつらも仕事に向かいたいと
 いつもいってるさ!
 まぁ、これだけ、お金を落としてくれる方だ……少々の悪評があろうが、
 この町のもんはみんな味方だよ!」



 欲しい言葉以上のものが返ってきたことに言葉を無くし、目をぎゅっとつむる。
 お金をただばらまいているだけではあるのだが、誰かの生活に役立っているなら、よかった……と言えよう。
 味方だと言ってくれるその言葉は、私にはどれだけ響いたかワンダには計り知れないだろう。



「アンナちゃん、どうしたんだい?」
「うぅん、なんでもないよ!
 ちょっと目にゴミが入ったから、ね?」
「ハハ、そうか。
 もうすぐつくからな!」
「ワンダさん、案内ありがとう!」
「お安い御用だ!
 こんなかわいいお嬢さんとデートするなんて、わしの方がワクワクするわ!」



 たわいもない話をしながら、山の方へ歩いて行くと石切場へついた。



「親父!何しに来たんだ?」
「いや、アンナちゃんが、石切場を見たいというからな。
 連れてきたんだ!」



 私を見て、いぶかしむ男性。
 ワンダの息子らしい。
 さすがに、ワンダのいでだちと似ている。



「初めまして、アンナといいます。
 突然お邪魔して、すみません!」
「あぁ、そこの親父の息子でピュールだ。
 なんで、わざわざこんな石切場なんて……
 女なんだから、服とかもっと違うもん見とけばいいじゃないか!?」
「あーえーっと、石切りに興味がありまして!
 どんな風に街道用の石畳ってできてるのかなぁ?って……」
「そんなもんに興味ある女は、公爵夫人くらいものだと思ってたけど、
 あんたも変わってるな!」
「ハハハ……よく言われます」



 その公爵夫人が私だなんて、小汚い恰好をしているので、なんとなく言えなくて笑うしかない。



「アンナって言ったか?」
「はい!」
「中も見てくか?」



 変わっている私を気に入ってくれたのか、案内をかってでてくれるピュール。



「いいんですかぁ!?
 ぜひ、見せてください!
 あの、切り出すところとか、石畳にするところとか見たいです!」
「わかった、わかったから、あんまり騒ぐな!」



 ニコライに話は聞いていたのだが、やっぱり見てみるのはいい!
 想像しきれてなかった私は、実際の大きな切り出された石をみて感嘆する。
 それを、運び出し、段々と小さく注文通りの石畳のサイズに合わせていく!



「すごい、すごい!!
 こうやって、石畳ってできているんだね!」
「アンナ、騒ぐなって!」
「ごめんなさい……でも、すごいね!
 話は聞いたけど想像できなかったのよね……これは、見に来てよかったかも……」



 私は、作業しているのを危ないからと少し遠くから見学させてもらったのだが、とても驚いている。
 あんな大きな石が、あの石畳になるのだ……目の前で見ていても不思議で仕方ない。



「これも、公爵夫人の提案なんだがな、俺たち、これがなくなるとまた仕事が
 なくなるんだよな……」
「そうなの?」
「あぁ、今が稼ぎどきってやつだ!」
「じゃあさ、さっき、ワンダさんとも話してたんだけど、街道整備も手伝ってって話を
 公爵夫人がしてきたら、手伝ってくれるかしら?」
「あぁ、当たり前だ!
 何もしない日々の苦痛に比べれば、こうやって仕事があって体を動かして、
 母ちゃんや子供にまんま食わせてやれることの喜びは、ないからな!
 そんな仕事させてくれるなら、喜んで俺たちは仕事させてもらうぞ!」
「ホント!?
 ここの人ほど、石の扱いに詳しい人はいないもんね!
 土木工事とかも、できたりするのかなぁ?」
「土木工事か……?どんなのだ?」



 私の話に興味を持ってくれたようだ。
 こういう石切場で働く人は、結構な知識を持っていると聞いたことがある。
 岩盤が崩れないように足場や通りを作るのだ。



「治水工事とかってどうかな?」
「治水か……確か、得意なやついたぞ?
 この町もそいつが、簡易の治水工事をしたからな!
 俺は、見ての通り、現場監督しかできないけど、なんなら紹介しようか?」
「わっ!いいの?」
「あぁ、構わねぇが、アンナは何者だ?
 そんなことに興味持つなんて、変だぞ?」



 えへへっと笑って誤魔化す。



「まぁ、いいか。
 カノタ!ちょっとこい!」
「なんすか?親方!」
「治水工事に興味があるそうだ!紹介だけな」
「へぇー可愛らしいお嬢さんだ!いてっ!
 親方、何するんっすか?」
「客だと思って接してみろ!お前のパトロンになってくれるかもしれねぇ―ぞ!」



 こんなお嬢さんがパトロン?みたいな顔で私を見てくる。
 うん、こんな私だけど、現在進行形であなたたちのパトロンですよ!と心の中で呟く。



「初めまして!アンナといいます。
 カノタさん、治水工事の設計ができるんですか?」
「あぁ、そういうの考えるのが好きなんだ!
 元々川べりの家にいたから、決壊やらなんやらで苦労もしたもんで……」



 なるほど、身を守るために独学で身に着けたものだということを感じる。



「ほとんどは、独学で学んだんだけど、隣国のフレイゼンってとこに少しの間
 行っていたこともあるから、それなりには役に立つと思うよ!」
「フレイゼンに?
 私、そこの出身なの!」
「は?あんな高度なとこから、こんな辺鄙なところに来たのか?
 あんた、馬鹿じゃないの?」



 もう、返す言葉がなかった。
 フレイゼンは、学都だ。
 実験と称しイロイロ作ったりしている手前、何もかもが、きちんと整えられている。
 それに比べアンバーは、何もない片田舎な上、全く発展の兆しもない土地柄である。
 カノタのいうことは、もっともだと感じてしまう。



「フレイゼンをそんな風に評してくれて嬉しいわ!
 私もあの領地が大好きだもの!
 でも、私は、アンバーも好きよ!
 磨けば、フレイゼンにも負けじと劣らずだと思うもの!
 この2週間、領地を回ったけど、いい人ばかりだから!!」



 カノタは、ふんっと鼻を鳴らして物好きめと悪態をついている。



「これから、よろしくね!」



 そんなカノタに私は、握手の意味で手を差し出す。
 すると、意外と素直にこちらこそと握り返してくれた。



 治水工事の設計士と現場監督、あと現場で働く人を確保できたわ!と私は、心の中でほくそ笑むのであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...