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お掃除隊集合

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 翌朝、マーラ商会の前は、沢山の人だかりができていた。

 昨日、アンバー領を守るはずの警備隊員たちのクビをきってきたからだ。



「へぇー結構集まっているな?」
「まぁまぁの人数よね。
 これ、私に御せるかしら?」
「姫さんならいけるんじゃない?」



 集まった人たちを見渡しながら私とウィルは、木箱を運ぶ。


 ちなみに、今日は、私も古着を着て作業しやすい恰好をしている。
 長い髪は、ナタリーにお願いして編んでもらいまとめてきた。



「ウィル、手貸して!」



 木箱の上に立つのに登ろうとしている私に、はいはいと言って手を貸してくれる。
 木箱に登ってみると、100人近い人が集まっているのがわかる。



 私は、あんまり吸いたくないけど……大きく息を吸う。



「おはようございます!!
 後ろの方も聞こえますか?
 聞こえたら、手を振ってください!!」



 大声で話し始めると、私に向かって最後列の女性が手を振ってくれた。



「今日、集まってもらったのは、皆さんにこのアンバー領を掃除してもらうためです。
 何かもらえるとかじゃないですからね!
 きっちり、働いてくれたら、そうですね……
 今晩の夕飯と宿がない人は、泊るところ、後はお風呂をご用意します!」



 私の声に呼応するように歓声が起こる。



「働かざる者食うべからずですよ!
 わかりましたかぁ?」



 はーいと軽い言葉が返ってくる。




「では、私から向かって右側に昨日の元警備隊お兄さん方、向かって左側に領地の方に
 分かれてください!
 そのあと、5人を1組に班を組んでください!
 あと、15歳以下は、今回のお仕事はできませんのであしからず!
 でも、帰らないで!
 このお兄さんが、そんな君たちにお仕事という名の勉強を教えてくれるよ!
 あと、料理ができる人は、私の前に集まって!」



 指示を出すと、それぞれわかれて班を作ってくれる。


 子供たちは、勉強が何なのかイマイチわかっていないようでソワソワしている。
 とりあえず、私は、そんな子たちをこちらに引き込みたい。


 木箱の上から見ていると、大体分かれてくれたようだ。



「では、班の中で字が書ける人が、紙を取りに来て!」



 やはり、隊員たちは、報告書を書いているだけあってすんなり取り紙を取りに来てくれるが、領民となると少ない。



「もし、班の中で字が書けない場合、手上げて!
 書ける人をそこに行ってもらうから!
 誰か行くまで、大変だけど、手は上げ続けててね!」





 結構な人数のが手をあげている。
 ウィルとセバスとニコライが、用紙を持って手を挙げた人たちのところに向かってくれる。



「今渡した用紙に、今日の日付と班の人の名前を書いて頂戴!
 そのあと、班の番号を言い渡すから私のところに持ってきてくれる?
 これから、作業に入る前に同じことをするから、覚えてね!
 ちなみに、私の名前は、アンナ!みんな、よろしくね!

 今から、仕事の説明をするけど、いいかしら?」



 今日からアンバー領の9つの町や村のお掃除をするのだ。
 もちろん、町も村も人もだ。



「やってもらいたい仕事は、町の清掃。
 みんなも気づいていると思うけど、ちょっとアンバー領は汚れすぎてる。
 お客様を迎え入れられる体制になっていないわ!
 私1人では、とてもできないから、皆に手伝ってほしいの!
 1週間以内に領地全部を綺麗にするつもりだから、ってそこ!逃げないよね?」



 抜け出そうとしている若者を見据えてニッコリ笑う。
 すると、元居た位置に戻っていく。




「言っておくけど、アンバー領のために掃除をして町や村を整えるのだから、
 領民に逃げられると……辛いのだけど……

 この領地をよくするために、協力をお願いします!
 どうか、みなさんの力を私に貸してください!」



 私の身分を知っている者たちは、木箱の上で頭を下げる私に驚いていることだろう。
 社交界での最上級の礼である淑女の礼ではないにしろ、ただの領民たちに頭を下げている。
 それも、皆に見えるようにしてだ。



「姫さん!」



 いち早く私に駆け寄ってきたのは、ウィルだった。



「何やっているんだ!姫さんは……」
「私は、アンバーのただの領民よ!」



 にっこりウィルに笑いかけると、悲しそうな顔をする。



「なんで……そこまで、領民に肩入れするんだ?」
「肩入れ?
 私は、当然のことをこれからするのよ。
 私が、私として歩ける間に、ジョーに道しるべを残してあげたいの。
 ニコライにも他の領民にも、アンバー領が出身であることを誇りに思ってもらいたい。
 ただ、それだけよ?」



 私達の話す言葉が聞こえていた人もいたのだろう。



「アンナさんは、一体何者だい?」
「私?私は、隣国からアンバー領へ嫁いできたものよ!」
「そんなあんたは、アンバー領を良くしたいと思っているのかい?
 領主に見捨てられたこんな土地を」
「そうよ!とっても素敵な土地じゃない!
 私は、まだ、この土地に来て間もないけど、魅力はあるわ!
 それにみんながアンバー領出身だって胸を張って言えるように、誇りを持てるように
 私は、お手伝いしたいの!
 でも、私一人じゃとてもとても……」



 話しかけてきたおじさんに笑いかける。



「だから、この領地にいるみんなにお手伝いしてもらいたいの!
 だって、みんなが住むこの土地をローズディアで1番の領地にしたいじゃない?」



 段々、私の話に耳を傾ける人が増えてきたようだ。
 木箱の上に、私は座り足を子供のようにプラプラと振る。
 そして、夢物語でも話すように話し始める。



「私、実は、魔法使いなの。
 だから、みんなにこれから魔法をかけるわ!
 しんどい作業をしてもらうんだけどね……これから……
 でも、きっとそれらが終わったとき、心からアンバー領に生まれてよかったと、
 アンバー領を誇りに思えるような素敵な領地に変えてみせるわ!
 一瞬で変えられればいいんだけど、みんながアンバー領を良くしたい!って
 思って行動してもらわないといけないよ!」



 座っていた木箱から降りて、その場に立つ。




「おじさん、私を手伝ってくれるかな?」



 覗き込むようにおじさんへ手を差し出して勧誘する。
 にこっとおじさんは笑って、私の手を取った。



「もちろんだよ!」



 そのあとは、私の話を聞いてた人から広まり、伝播していく。
 みながやる気をみなぎらせていく。

 私の肩にポンと叩かれる。
 ウィルが、この様子を見て苦笑いしていた。



「ほら、また、姫さんが誑し込んじゃったじゃん!」



 私の行動や言動を見て、大慌てで戻ってきたセバスもニコライも同じ顔をして、はぁ……とため息を漏らしていたのである。
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