上 下
185 / 1,480

第1回アンナリーゼ杯Ⅳ

しおりを挟む
「ウィル?」
「何?姫さん!
 ………………何か聞いたの?」



 私は、満面の笑みをウィルに向ける。



「いや、それ、俺の提案じゃなくて……
 あの、ほら、公世子様がね……って、聞いてる?」



 さらにニコニコと口角が上がっていく。



「だぁ!!!
 だから、景品にしない方がいいって言ったのに!」
「そこに座りなさい!」


 私の一喝で、地べたに正座させられるウィル。
 中隊長となったのに何をやらされているんだと皆の興味をそそったようだ。



「どういうことか、説明なさい!」



 私は、高圧的にウィルに説明をすよう要求する。



「いや、だから!
 元は、もっと身内的な試合だったんだ。
 うちの中隊員からも要望があったし、姫さん、この訓練場では人気ものだしさ!
 それで、近衛団長に試合形式で大会をしたいって相談に行ったんだ」



 腕を組み、仁王立ちをしながら正座したウィルを見下ろして、胡乱な目を向けながら頷く。
 ウィルは、逆に、怯えたような顔で、私を覗き込んでいる。



「それから?」
「近衛団長も姫さんに興味があると言い始めて、どうせなら、近衛全体の
 研鑽のために大会を開こうじゃないかって話になったわけよ?」



 そこまでは、納得できる。
 何故、景品が私なのだろう?



「で、そこで優秀な成績を収めたものには、公世子様の近衛になることにすると
 公世子様に進言したらしい。
 そしたら、元々アンナリーゼと試合をするための大会なら、いっそ景品に
 してしまった方が、士気も上がるし、よりよい人材も集まるんじゃないかって
 公世子様と近衛団長との話になっていったわけだよ!」



 俺、悪いとこなくない?とブツブツ呟やいている。
 確かに今のを聞くと、どこもウィルは、悪くないような気がする。




「俺が、優勝するからさ、許してよ!」
「なんで、ウィルが優勝するわけ?
 優勝は、私でしょ!?」



 素っ頓狂な声で驚く周り。


 うん、必ず優勝してみせる!
 だって、私の冠杯だもの!



「ねぇ?私が優勝したら、何もらえるの?」
「それは、しらないなぁ……」
「そう……」



 私は、正座しているウィルに手を差し伸べて立たせると、また、ニッコリする。



「私が勝ったら、ウィルとセバスをいただくことにするわ!」
「はっ?」
「元々、引き抜きしたかったのよね!
 お手伝いじゃなくて……あなたが、欲しいの!」



 人差し指で、ウィルの胸を突くと、ウィルは、顔を真っ赤にしていた。


 大丈夫?と、私はウィルを覗き込む。



「いや……熱烈な……」



 周りからは、何故か冷やかされ、さらにウィルは熟れたトマトのようだ。
 それ以上は、言葉にならなかった。



 4試合目のコールがされ、ウィルの出番となったが、ふらふらと試合会場に行ってしまった。
 本当に大丈夫だろうか?



「アンナリーゼ様……」
「エリック、どうしたの?」
「いえ……何故、ウィル様だけを?」
「正確には、ウィルとセバスよ!
 エリックは、浮かない顔しているけど……」



 エリックは、首を横にぶんぶんと振っている。



「アンナリーゼ様、僕も一緒にとは……ダメでしょうか?」
「それは、私に引き抜かれたいってこと?」



 エリックは、これでもかってぐらい、上下にコクンコクンと頷いている。



「ダメじゃないわよ?
 ただ、ここにも誰か信用のおける人がいてほしいと思うわ!」
「信用のおける人に、僕はなれますか?」
「しているわよ!
 あなたを一目見たときから、きっと、ウィルがそういう風に育ててくれるって
 確信してたから!」



 私の言葉に驚いているエリック。
 そんなに驚くほどのことではない。
 本当に、エリックを見たとき、感じるものがあったのだ。



「エリック、あなたは庶民からの叩き上げだけど、今では、ウィルの立派な副官だわ!
 若いのによく気が付くし、人を動かすのも、事務仕事もどれをおいても
 とても優秀だって聞いてる!
 どうせなら、頂きを目指しなさい。
 あなたなら、できる気がするの!
 ウィルも相当苦労しているみたいだから、決して、楽じゃないでしょうけどね!
 期待している!
 なんたって、ジョーの指南役になってくれるのでしょ?」



 私は、エリックにニッコリ笑いかける。



「覚えてくれていたのですか?
 笑い話の一つだと思っていました……」
「えぇ、覚えていてよ!
 私が見込んだあなたの腕を、子供にも伝えてあげてほしいの。
 だから、今後は、絶対、剣を握ったら、相手を見下さない、舐めない、
 手を抜かない、いつでも全力で叩き潰しなさい!
 その姿をみて、後ろからついてくる人もいるのだから!」
「わかりました!
 昨日は、どうかしていましたね……
 アンナリーゼ様が言われることは、もっともだと思います」



 私は、背伸びをしてエリックの頭を撫でる。
 嬉しそうにはにかんでいる姿が、まだ子供だなぁと思いながら、きっとエリックなら大丈夫だろうと思った。




 今日は、先にエリックの試合の方が先にコールされる。
 私は、取り残されてしまった。



「アンナリーゼ様は、ああやって人を誑し込んでいくんですね!」



 振り返るとパルマが、訳知り顔で頷いていた。
 その耳には、アメジストのピアスが光っている。



「誑し込むだなんて……
 私は、いつでも思ったことしか言ってませんよ?」
「そうなのでしょうけど、エリックは、きっと欲しかった言葉をもらえたはずです」
「そうかしら?
 そうだと、嬉しいわね!」



 パルマに向かって笑いかける。


「僕も、何故、アンナリーゼ様と同級生に生まれなかったのか……
 残念に思ったこともありますが、僕は、きっと年下に生まれて、
 あなたの側で勉強して、あなたの思うような文官になれるよう努力するため
 だったのではないかと最近考えています。
 アンナリーゼ様って、いつも変なことを言い始めるから……
 おもしろくて、たまりませんね!」
「おもしろいって、失礼ね!
 私はいつでも、本気だし、大真面目なんですけど!」



 私は、パルマに向かって、むぅっと怒っているのですよ頬を膨らませる。





「やっと勝てた……」



 そこにウィルが、帰ってきた。



「遅かったわね?」
「誰のせいだよ!
 俺、危うく負けるとこだった……」
「私のせいじゃないわよ!
 負けそうになったのは、ウィルが集中しなかったせいでしょ?」
「そりゃそうだ!」



 ウィルは、当たり前のことを言われたといい笑い始める。
 そこにエリックも帰ってきた。
 ホコホコ顔ってことは、勝ったのだろう。




 次は、私の番のようだ。
 試合会場から、コールが聞こえる。



「じゃあ、行ってくる!!」


 ウィルたちに手を振って、私は試合会場へ駆けていくのであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

そのうち結婚します

夜桜
恋愛
氷の令嬢エレイナはそのうち結婚しようと思っている。 どうしようどうしようと考えているうちに婚約破棄されたけれど、新たなに三人の貴族が現れた。 その三人の男性貴族があまりに魅力過ぎて、またそのうち結婚しようと考えた。本当にどうしましょう。 そしてその三人の中に裏切者が。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...