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偽装妊娠の噂

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 ジョージアと私との間に子供が生まれたという情報は、瞬く間にローズディアの貴族全体に噂として流れた。
 ただ、私は、子供の名前と性別を明かさなかった。
 もちろん、ジョージアは、知らないので明かしようもなかったので幸いしたのだ。


 そして、同じ時期にジョージアとソフィアの子供のことも公開された。
 男の子で、名前は、『ジョージ』と名付けられたとのことだ。
 黒目の子で、ソフィアに似ているとかなんとか……


 私の方は、色々と公表を出し渋ったおかげで、死産だったのではないかとか、私の偽装妊娠だったのではないかとか悪い噂が目立った。
 でも、今現在、私の腕の中ですやすやと眠っているのは、紛れもなく私が生んだ子供であるし、他の誰がなんと言おうと、瞳を見ればジョージアの子供だとわかる。


 トロッとした蜂蜜色の瞳の子供は、アンバー家にしか生まれない。
 必然とこの子が次期当主となるのだが、今は、諸事情を鑑みても隠しておかなけばならない。
 命が狙われては、元も子もないないからだ。


 悪い噂があると言っても、貴族たちは、アンバー家の嫡子となる私の子供にこぞって祝いの品を持ってきては、子どもを見せてくれという。
 しかし、私には、到底そんな気になれなかった。



 とにかく、私が矢面に立てばいいのだから、子供が危険な目にあう必要はない。
 悪口は散々言われることになったけど、それは、仕方のないことだと割り切ることにする。



 だから、噂好きの貴族って苦手。



 公開されたソフィアの子供の側には、ジョージアがいるという噂も同時に流れた。
 当たり前だろう……本宅に住んでいないのだから。
 内部事情は、話さないが、それも広まる噂になりつつある。




『アンナリーゼ様は、とうとうジョージア様に見捨てられたと……』




 それを聞くたび、胸の奥がぎゅっと苦しくなるが、下を向いている場合ではないこともわかっている。
 毅然としていないといけないのだ。
 どんなことがあったとしても、『アンバー公爵夫人』としてあるべきだと思うから……



「アンナ様、ウィル様たちがお越しですが、どうされますか?」



 デリアに声をかけられ、久々にホッと心が緩んだように思う。
 ジョーの相手が嫌だとか、領地の勉強が嫌だとか、噂に負けそうとかそういうわけではない。
 ただ、心のよりどころが、実際ない状態で、ちょっと辛くなってきていたのだ。



 屋敷の侍従たちは、私やジョーのためによくしてくれる。
 母乳が出やすいように、ジョーに栄養がいくようにと考えられた食事や体調管理、部屋の整頓と何から何まで完璧にしてくれるのだ。
 たとえ、公爵に見放された夫人だったとしても、今までの私の屋敷での実績のおかげだった。



「着替えたら行くから、客間に通してくれる?
 ジョーも連れて行くから、スーザン、ジョーの服装も整えて!
「「かしこまりました」」



 二人の侍女は、テキパキと動き始める。


 私は、一人でもドレスなら着れるので、自分一人でいそいそと着替える。
 ジョーの方を整え終わったスーザンが、私の方を手伝ってくれる。



「アンナリーゼ様、そろそろ付けられますか?」



 持ってきてくれたのは、宝石箱である。



「ありがとう、じゃあ、薔薇をお願い!」
「かしこまりました。
 とてもお気に入りのようですけど……」
「こっちのルビーの薔薇は、幼馴染のハリーが結婚祝いにくれたの。
 こっちのサファイアの青薔薇は、ジョージア様の卒業式のときに
 私のために作ってくれたものよ!
 どっちも大切なものなのよ!」



 私が鏡越しに微笑むと、スーザンは寂しそうに笑う。



「大丈夫!
 スーザン、私は、弱くないわ!
 ジョーだっているのだもの!
 何にも負ける気がしないのよ!!」



 再度ニッコリ笑うと、今度はスーザンも笑ってくれる。



「お強いのですね……」
「強くはないけど、強くあろうとは思う。
 だって、私を支えてくれた人がたくさんいたし、今だって、支えてくれる人がいる。
 それだけで、裏切っちゃダメな気がするでしょ?
 人生を全うする諦めないって、私、決めてるんだから!」



 きちんと整えられ、すっかり公爵夫人になった私は、私室を出て客間に向かう。



「お待たせ!」



 部屋に入った瞬間、なんだか変な緊張感が漂う。




「どうかしたの?」
「あぁ、いや……
 姫さん、久しぶり!」



 ウィルとセバスが、なんだかぎこちなく笑っている。



「ご無沙汰しています、アンナリーゼ様!
 お子様を無事に生まれ、おめでとうございます!」
「ありがとう!ナタリー!」



 一緒に来ていたナタリーにおめでとうと言われ、嬉しくなって抱きつく。
 それを横目にウィルとセバスもごにょごにょっと「おめでとう」と言ってくれる。




「そうだ!ジョーに会わせるね!」
「!!!」
「その顔って、私が偽装妊娠だって思ってたってこと?」



 図星を言われたウィルとセバスは、視線をそらした。
 ナタリーは、実際、お腹を触っていたので、そんなことはあり得ないとわかっていて二人にバカなことをって怒っていたようだ。
 それで、不穏な空気が漂っていたようだ。



「スーザン、お願い」
「はい、アンナリーゼ様」



 私はソファに座り、そこにジョーを連れてきてくれる。
 三人ともよく見たい!と私の周りに寄ってきて視線を落とした。



「うっわ!ちっせぇー!」
「かわいいーわね!
 この手、ちっちゃい」



 ナタリーが、指でジョーの掌をつつく。



「セバスもなんか……」



 ウィルがセバスに向けて話しかけると、目が潤んでいるのか、唇をかみしめている。



「大丈夫?」



 私がセバスを覗き込むと、コクコクと頷いている。



「妹のことを思い出して……
 なんか、感極まっちゃいました……」
「そんなんで、自分の子供がってなったら……号泣じゃねーか!?」



 私とウィルとナタリーは、セバスがあまりに感動したことで笑ってしまった。



「で?ジョーと名付けたってことは、男?
 やばいよなぁ……男だと」



 ウィルは、私を見ながら訳知り顔で頷いている。
 何がやばいの?と、小首をかしげてみる。



「え……姫さん以上にワンパク小僧になるってことだろ?」
「失礼ね!!
 ワンパク小僧にはならないわよ!!」



 私は、ウィルに憤慨するが、そのいつもの調子が良かったのか、3人とも微笑んでくれるのであった。
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