ハニーローズ ～ 『予知夢』から始まった未来変革 ～

旦那様

　屋敷に帰る道中、ジョージアの足取りはとても重いものになった。
　どうしたのだろうとチラッとジョージアへ視線を向けると、俯き加減で悲しいような寂しいような顔になっている。


「どうかされましたか？」
「いや、何でもないよ！」


　首を横に振っているジョージアを不思議そうに見ていると、なんとも寂しそうに笑う。


「やっぱり変ですよ！
　さっきまでと、雰囲気が違います。
　屋敷に帰りたくないとか……？」
「そういうわけじゃないんだ……
　アンナ、その……」


　とても、言いにくそうにしているのだが、なんなのだろう？
　はっきり言ってくれた方が、すっきりするのだが……


「じゃあ、当てましょう！
　当たるかな？」


　私は、公園ぽいところにベンチがあるのを見つけて、そこに座り始める。
　もちろん、手を繋いでいるので、ジョージアも必然と並んで座ることになった。
　私は、うーん、うーんと唸り始める。


「じゃあ、ソフィアの妊娠についてですか？」
「あぁ、それもアンナが知っていることに驚いた……」
「それもってことは、違うのか……」


　私は、さらに悩み始める。


「ソフィアの方は、出産準備をしていたからとか？」
「それも……違うけど、アンナの方は、していなかったことを
　申し訳なく思ってるよ……
　気が回らなくて、ごめん……」
「いいのですよ！
　私の方は、ディルやデリアが張り切って準備もしてくれますから！
　気になさらないでください！
　これも、違うのですね……」


　ありがとうと、ジョージアは小さく呟いている。
　なんだか、責めているようで、こちらはあまりいい気分ではなくなってきた。

　じゃあ、いったい何なんだろう……？
　ジョージアをこんな寂しそうにしている原因は……？


「なんでしょう……？
　屋敷に戻るとマリッジブルー復活とか？
　私の顔を見てると、申し訳なくなるとか？
　違う気がするな……」
「いや、マリッジブルーは別として、アンナを見てると
　申し訳なくなるのは……本当かなぁ……
　俺、アンナに甘えてばかりだ。
　本来なら、もっとアンナのことを気遣うべきなのに……」


　私は、そんなこと？と、思ってしまう。
　でも、そんなことを考えてくれていたのかと思うと嬉しい気もする。


「いいですよ！
　私は、私のやりたいことをさせてもらってますから！
　大事にされているって自覚は、ちゃんとあります！」
「それだといいけど……
　それじゃ、ダメだとも思ってる。
　アンナは、何でも一人で解決しちゃうから……
　飲み込んでる気持ちもあるんだろうな……って、今日気づかされたよ」



　俯いたままのジョージアは、また、大きくため息をつく。



「ジョージア様は、そのままで大丈夫ですよ？」



　そう言った瞬間に、今まで俯いていたジョージアと目が合う。
　やっと、顔を上げてくれたのだ。
　ん？っと、小首をかしげる私。


「どうかされましたか？」
「いや、その、もう名前を呼んでもらえないのかと……」
「名前ですか？」
「あぁ、前に言ってたじゃないか？
　機嫌を損ねるようなことがあったら、もう呼ばないと！」


　やっと、合点がいった。
　ちなみに、どこにその要素があったのだろう？
　ソフィアの分の出産の用意をしていて、私の分はしていなかったからとか？
　よくわからないですけど……


「あの、どこに機嫌を損ねるようなことってありましたっけ……？」
「店を出る前は、『旦那様』と……呼んでいたじゃないか？
　何かと言えば、思い当たる節がありすぎて……」
「旦那様とは呼びましたけど……
　それは、たまに呼んでるじゃないですか？
　別に、今日1日で機嫌を損ねるようなことって何もないですよ？」


　私は、ジョージアが持っていたクマを抱き寄せて、今日１日を振り返る。
　ため息ばかりだったジョージアを見かねて、外へ連れ出した。
　クマのぬいぐるみをとったり、ケーキを食べたり、一緒に出歩けて楽しかった。


「ジョージア様は、今日楽しくなかったですか？
　まぁ、帰ったら執務が残っているのですけど……」
「俺は、楽しかった！
　アンナは、そう思ってくれているの？」


　私は、ニッコリ笑って、持っていたクマをジョージアへ渡す。


「もちろん、楽しかったです！
　また、遊びに行きましょうね！
　今度は、お休みの日に、デートしましょう！！」


　ジョージアも嬉しそうに笑って、約束をしてくれる。


「じゃあ、冷えてきましたから、帰りましょう。
　お仕事もあるし、ディルたちも心配していますから！」


　ジョージアの手を握って、また、歩き始める。


「アンナは、いつも、俺の前にいるな……
　今なら、サシャの気持ちもわかる気がするよ」
「お兄様ですか？
　何か、変なこと噴きこまれてませんか？」


　胡乱な視線を向けると、そんなことないよ！とジョージアは、否定している。
　なんでも、お兄様からは、迷ったり、困ったりするとアンナがスッと前に立って進むべき道を見つけてくれるんだと言っていたらしい。
　私、風見鶏じゃないわ！と、心の中で、兄を叱っておく。


「今日のは、私が進むべき道を示さないといけないわけではないですよ？」
「そうかな？
　今日は、アンナがいてくれて気持ちが晴れたのは、本当だよ！
　アンナと結婚できて、奥さんでいてくれて感謝だよ」



　変ですよ！って私が笑うと、そうかな？とジョージアに笑い返される。



　門の前で、心配してディルが待っていてくれた。
　ただいまと手を振ると、ディルも安心したのか、ホッとしているような優しい笑顔で迎え入れてくれる。



　今日も１日いい日になりましたねと笑いかけると、ジョージアもディルも微笑んでくれるのであった。