上 下
157 / 1,480

どうされました?

しおりを挟む
 最近、ジョージアのため息が増えた。
 今日も執務室で、2人仲良く領地の勉強をしているところなのだが……
 このため息は、一体、何回目のため息なのだろう?


 正直な話、ため息ばかりつかれると胎教によくない気がする。
 しかも、回数が多いからものすごく気になる。



「ジョージア様、どうされましたか?」
「えっ?
 どうって……何が?」




 自分では、ため息をついていることに気付いていなかったようだ。




「ここ最近、ため息ばかりではありませんか?
 どうされました?
「ため息?出てたのか……」



 指摘しても、ジョージアはずっと、浮かない顔をしている。
 そんなので、執務は頭に入っていっているのだろうか?



 私は、そんな辛気臭いジョージアには気分転換も必要だと思い、ジョージアの左手を握ると部屋から出た。



「アンナ、どうしたの?
 いきなり……どこに行くんだい?」
「いいから、外に行きますよ!!」



 私はジョージアを無理やり引っ張って外に出ようとする。
 私が妊婦なので、それほど力は入れていないが、ジョージアに抵抗される。



「アンナリーゼ様、どちらに?」
「ディル、いいところに!
 執務室、片付けておいてもらえるかしら?」
「かしこまりました」



 憂鬱そうな顔のジョージアを連れて、私は街に出ることにした。
 今日は2人とも貴族らしからぬ、庶民の服装だったため、そのまま門を開けて出て行く。


「アンナ!
 どこにいくんだ?」
「ジョージア様のため息、正直、うんざりしてたので、美味しいお菓子でも
 食べたくなりました!」



 久しぶりの外へ行けることとデートに私は、ウキウキとするが、ジョージアは、なぜかハラハラしている。



「アンナ、人通りが多すぎる!
 こんな中を歩いてみろ!
 体に良くないし、子供にも……」
「心配無用です!
 ジョージア様のため息を数えるほうが体にも胎教にもよくないですから!
 さぁ、行きましょう!」



 手を繋いでずんずん進んでいく私の後ろからジョージア様が歩いてくる。




 歩いて10分ほどで公都の中心街だ。
 私も久しぶりに出かけたので、はやる気持ちもあったが、ここは、平常心。
 慌てて転んだら、お出かけどころではなくなる。



「どこに行きますか?」


 思いたって出てきたが、気を利かせてくれたディルがちゃんとお小遣いを用意してくれたので、軽く食べたり遊んだりくらいなら、できる。


 ウキウキしている私に諦めたのか、ジョージアは、また別種のため息を一つついて私の提案に乗ってくれる。




「そうだな……
 せっかくだ、少し散策でもしようか?」
「じゃあ、今、話題のケーキを食べに行きましょう!」
「最終目的地だな」



 私は、嬉しくなってふふっと笑うと、ジョージアも笑ってくれる。
 さっきよりは、いい反応だ。


「ではさっそく……」



 私は、周りをキョロキョロする。



「じゃあ、あの露店で勝負しましょう!」



 そこは、手のひらサイズのボールを棚に並べられた景品に当てて落ちればもらえる露店であった。
 わけもわからず、付き合わされるジョージア。



「こんにちは!
 2人分お願いします!」



 そう言ってお金を渡すとボールが5個出てきた。


 それぞれ好きなものを狙う。


 私は少し大きめのクマのぬいぐるみを狙った。
 大きいので当たるが、落ちるまではいかない。


 隣で、ジョージアは、手頃なサイズの景品をポコポコっと当てて4つの景品をもっていた。
 私も頑張って投げている最中だ。
 なのに、倒れない!!


 むぅーっと唸りながら最後の一球を投げた。
 クマのぬいぐるみは、そのボールの威力と自らの重みでコロンと棚から落ちていく。


「やった!やったよ!
 ジョージア様、見てみて!!」


 指差しながら喜んでいる私を、微笑ましく店主と一緒に見てくる。


「嬢ちゃん、ほら。
 おまけだ!」



 店主のおじさんは、私があまりにも喜んだので、大きなクマと小さなクマのぬいぐるみを渡してくれる。



 ありがとう!っと満面の笑みで、応えるとおじさんがコホンコホンと咳払いをしている。



「いや、いーってことよ!
 そんなに喜んでもらえるなら、ぬいぐるみも俺も本望だ!」



 2体のぬいぐるみを両手に抱えて持とうとすると、危ないからと大きなぬいぐるみをジョージアに取られてしまった。
 小さい方を持って歩く。
 あいている方の手は、ジョージアに握られる。


 街の子供たちが、私とジョージアの手にあるぬいぐるみを見て笑っていた。


「大人なのにって……
 まぁ、確かに……そうですね……
 かわいいものは、好きだからいいんですよーっだ!」


 子供たちにからかわれてちょっと、拗ねてみせる。
 隣でジョージアがクスクス笑っている。



「何ですか?」
「いや、むきになって、かわいいなと思って……」
「ジョージア様、私のことバカにしてます?」



 胡乱な目で見つめる私。



「いや、そんなことないよ!
 かわいいものは、好きだからいいんですよ!」



 私の真似をして、ジョージアに真面目にそれを言われると、恥ずかしい……
 私は、手に持っていたクマのぬいぐるみで顔を隠す。



「ほらほら、かわいい顔は、見せて!」
「やだ!」
「ほらー!」



 わざとやっているとしか思えないジョージアにちょっと怒った顔をして睨む。



「うちの奥さんは、かわいいんだよ!」



 なんて、追い討ちをくらってしまう。
 道の真ん中で、言い合いしたりじゃれたりしているので、買い物に来ていた奥様方に生暖かい視線を私達はたんまりもらうことになった。





 落ち着いたころには、目的地のカフェがあった。


 中に入ると静かで、おしゃれな内装である。


「いらっしゃいませ」


 落ち着いたウェートレスが、私たちを席に案内してくれる。


 窓際で、中庭が見える席であった。
 手入れのされている中庭には、赤い薔薇が見事に咲いている。


 注文をして私の前には、シフォンケーキとオレンジジュースが並び、ジョージアの前にはクッキーと紅茶が並んでいた。



「ジョージア様が甘いものって珍しいですね?」
「そうだね。
 アンナに食べさせられないと食べないからね……」



 ジョージアは遠い目をしていたが、クッキーも美味しそうである。



「目をつけたかな?」
「はい。美味しそうです!」
「じゃあ、交換ね」



 5枚あった丸いクッキーを私のケーキの横に1枚置いてくれる。



「じゃあ、まずは、アンナが食べてから、アンナのを一口頂戴!」
「わかりました!」



 私は、目の前のシフォンケーキにフォークを入れる。
 フワッとしたケーキに感動している私は、切った一切れを口に運ぶ。
 優しい味であった。
 ほんわりとする。


 もう一切れフォークを入れ、ジョージアへ視線を送る。
 たぶんさっきの食べているときも見ていたのだろう。
 トロッとした蜂蜜色の瞳は、私を見て、さも嬉しそうにしている。



「ジョージア様、はい、あーん!」
「あーん!」



 ジョージアの口にシフォンケーキを放りこむ。
 思った以上に甘さが控えめだったため、ジョージアも食べやすそうでうまいなと呟いている。



 屋敷にいたときより、ずっといい顔になったなぁと、ジョージアの顔を眺めている。
 こんな日は、いつまで続くのだろうか……


 今は、この時間をおもいっきり楽しもう。
 そう、心の中で私は呟くのであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...