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お城でもやっぱりやらかしたようです

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 ジョージアにプレゼントしてもらったワンピースを着て、今日はローズディア公国のお城へ向かうことにした。
 最近、体を動かしていなかったため、近衛になって城にいるウィルに手合わせしてもらおうと出かけたのだ。


「こんにちは!お勤めご苦労様です!」


 ニッコリ笑顔を門兵に向けると、返事を返してくれた。


「私、アンナリーゼと申します。
 近衛になったウィル・サーラーに会いに来たんですけど、通してもらえますか?」


 町娘そのものの恰好をしている私と、一応子爵家の息子に接点があるとは思えないらしい門兵に、ダメだと言われ追い返されてしまう。
 仕方がなかったので、私は手元にあったフレイゼン侯爵家の紋章を出すことにした。


「もう!お兄さんたち、これなら通してくれる?」
「これは……?どこの紋章だ?わかるか?」
「さぁ……わからないな……お嬢ちゃん、悪いことは言わないから、帰ったほうがいいよ!」


 お嬢ちゃんと言われたことにも多少腹が立ったが、隣国であり友好国であるトワイス国侯爵家の家紋もわからないような者を門兵としておくのはどうかと思う。
 腕を腰にあてて、肩幅に足を開き、私怒っていますというポーズをとる。


「お兄さん達って、位はどれくらいなの?もっと上の人に、この紋章の確認取ってくれないの?」
「いや……そんなことでさすがに呼べないんだ」


 悪いな、嬢ちゃんと言われ、納得がいかない。
 デリアが何か言いかけたが、馬車でこなかった私も悪い。
 馬車なら、アンバーの家紋入りだからつべこべ言われずとも城に入れたのだ。


「あら、そうなの?でも、その家紋みたら……多分、公が来てくれると思うわ!
 残念ね。明日から、あなたたち無職よ?」


 そういうと笑っていた門兵も、顔色が変わり焦って動いてくれる。
 私の前に門兵を残し、一人が私の持っていた紋章を持って城へと確認へ行く。

 しばらくして、迎えに来てくれたのは、公ではなく公世子であった。


「大変お待たせしました、アンナリーゼ」
「いえ、大丈夫ですよ!公世子様」


 二人の門兵は、公世子の出迎えにびっくり仰天。


「公ではなかったですけど、お迎えがきたので通らせてもらいますね!」


 ニコニコと笑顔を振りまき、門兵たちの横を通り過ぎる。


「あの者たちには、厳罰を……」
「あら?それは、なぜですか?私を道で待たせたからですか?紋章がわからなかったからですか?」


 私は、公世子へ質問をする。
 この公世子は、私の嫁ぎ先候補の一人であった。
 とってもハンサムだが、今のところ、私の及第点には及ばないようだ。


「そのどちらもです」
「そうですか。私は、あの人達を咎めるのは、違うんじゃないかと思います。
 確かに、私も多少脅しちゃいましたけどね……もっと、門兵にもきちんと教育を受ける場を設けて
 あげたらいいんじゃないですかね?それに、侯爵家の人間が歩いてくるとは思わないでしょうし……」
「アンナリーゼの心の広さに感謝します」
「そんな、私なんて。それに公世子様の方が立場は上ですから……かしこまらないでください」


 やっぱり、私の常識は、人とはずれているのだろうか。
 公世子には苦笑いさせてしまったし、門兵たちは寿命が多少縮んだだろう。
 トワイスでは、普通だったので悪いことしたなとちらりと後ろを振り返ると頭を抱えているのが見えた。


「それで、今日は何用で城に?」
「今日はですね、こちらに友人がいまして、ちょっと運動に付き合ってもらおうと思い立ったのです。
 公世子様もお忙しいでしょうから、私、近衛の訓練所の場所を教えていただければ行けますよ?」
「そういうわけにはまいりません。案内させてください」


 さすがに、私より7つも年上なので、落ち着いたものだ。
 確かに隣国のものが城内を勝手にうろうろしているのも、まずいだろう。

 訓練場まで公世子が本当に案内してくれたのだった。

 そこで、ウィルを呼んでくれるところまでしてくれたのだ。ありがたいことだ。

 訓練場の前で、ウィルを呼んでもらったので、公世子には仕事に戻ってもらうようお願いした。
 お願いしないと帰ってくれそうになかったので、可愛くお願いしたのだ。
 けして脅してはいない。うん、全然全くもって、ニコニコとしていただけで手を振っておく。


「ウィルの上官で、セシリアと申します。以後、お見知り置きください」


 そういって対応してくれたウィルの上官の彼女は、ものすごい美人さんだった。


「初めまして、セシリア様」
「アンナリーゼ様、私に敬称も敬語もいりません。アンナリーゼ様の方が身分の上の方ですから」


 まさに軍人で、身分の上下関係をしっかり諭される。
 でも、初めてあった人にいきなり呼び捨ては言いにくい……のだが。


「わかったわ。それでね、セシリア。休憩時間で、いいから、20分くらいウィルを貸してほしいの」
「ウィルをですか?」


 何故ですかとセシリアは目で問うてくる。


「そう。カラダ鈍っちゃって……ちょっと軽く打ち合いしたいなって」


 まず、上位貴族の令嬢は、言っておくが剣など振らない。
 「このお紅茶の香り……」とか「ごの詩のこの分がロマンチックね!」なんていうのが、普通の令嬢である。


「姫さんのちょっとは、俺、全力なんだけど……」


 セシリアに呼ばれ、隣に来ていたウィルが、ため息をはいている。
 近衛であるウィルにちょっと軽く打ち合いしたいなっとは、深窓の令嬢なら絶対言わない。


「6割程度にするわよ!」


 令嬢が近衛に対して、力加減するわなんてもってのほかだ。


「いや、それでも、結構大変なんだよ……まだ、訓練残っているし」


 公国始まって以来の逸材と言われているらしいウィルが困惑しているのをみて、セシリアも困惑しているようだ。
 どこからどう見ても、私は守られて当然と言わんばかりの可愛らしいお嬢様だった。
 どうしてもと私が望んだため、セシリアは胸の内に疑問は残るが、ウィルとの模擬戦の許可を出してくれる。


「許可します。休憩時間と言わず、今からで、大丈夫ですよ。
 それと、もしよろしければ、私とも一戦お願いできないでしょうか?」


 こちらのセシリアも私に興味を持ったようで、模擬戦の許可を出してもらった手前、嫌とは言えない。


「いいわよ!ウィルとの後でいいかな?」
「構いません。では、お着替えを、あちらで……」
「ん?」
「……?着替えられないのですか?」
「そうね。襲われたとき、ドレスだから着替え終わるまで待ってとは言えないから、このままでいいわ!
 いつもそうだものね?」
「そぉーっすね。いつもはもっとちゃんとしたドレス着てるんすよ。それで勝てるって……」


 ウィルはぶつぶつと私に対して文句を言い始めた。
 小声過ぎて聞き取れないけど、ところどころで、なんでかてねぇーのかな?とか言っているのが聞こえたので、間違いないだろう。

 信じられないセシリアは、私の申出の通りに模擬戦を始めることにした。


 模擬戦をするというので、訓練中の隊員は、全員脇に追いやられる。
 そして、興味をひかれたのだろう。
 ワンピースを着た女の子と近衛みんなが一目おいているウィルが対戦するのだ。


 たくさんのギャラリーが二人の模擬戦の様子を見守る。


「13番隊隊長セシリアの名において模擬戦を始める!両者、位置について!

 始め!!!」


 6割の力といっていた私には、全く体に余計な力が入っていない。
 位置につく姿でさ、ダンスを一曲踊りましょうといった雰囲気であったが、今、打ち合いしている姿は、ふわふわと舞う蝶のようだった。
 打ち込んでいるウィルの剣を水のように流していくと、急に強い切り上げたり、突撃がきたり……変幻自在で型にとらわれない戦い方をする。
 あぁ、ウィルが時折みせる剣技は、このお嬢様のもののようね、とセシリアはアンナリーゼという剣筋をみて納得した。
 きっと、何回も何十回も何百回も手合わせしたのだろう。
 いつの間にか、剣筋が似てくる人もいると聞いているが、ウィルはまさに体現したのだろう。


 両者いったん距離をとった。


「そろそろ、いいかしら?」
「えぇーまだ、ギアあがるの!」
「そうよ?まだ、6割でもないのだけど……体が温まってきたわ!ウィル、なんだか疲れてない?」
「いや、大丈夫!」


 息を整え、姿勢を整えたウィル目掛けて突然に私は動いた。
 まっすぐ突っ込んでいく私が負ける!とセシリアは思っだろう。目を背けた瞬間には、ウィルの模擬剣は地面に落ちていた。


「さっきの本気だったろ!」


 ウィルは、不服そうに抗議しているが……私は勝てて気分がいい。


「そんなことないわ!」


 涼しい顔でうそぶく私。


「ウィル、弱くなったんじゃない?」


 近衛に入って毎日訓練している者が弱い訳はない。私が、『規格外』なのだ。


「弱くなってねぇーよ!姫さんが、また、強くなっただけだろ?」


 セシリアは、模擬戦の終幕の予想を裏切らたせいで、勝名乗りするのを忘れていた。
 その中で、私とウィルは言い争いを始めているのだ。


「……しょ……勝者、アンナリーゼ様!」


 あぁ……とウィルが嘆いていて、その場に落ち込んだ座り込んでしまった。。
 体が鈍ったからとウィルに相手をしてくれときたこのセシリアは、私が本物の強者だと思ったらしい。
 それでも、近衛の小隊長の位にいる私が負けるわけにはいかないとセシリアが、前にでる。


「先ほどのお約束……」
「いいわよ!対戦しましょう!力加減わからないから、全力でいいかしら?」


そう言って始まったアンナリーゼの2戦目は、開始10秒足らずで終わるのであった。


「いい運動、ありがとう!」


 爽やかにワンピースの裾を翻して去っていった私を隊員全員で、ぽかんとして見送ってくれた。
 ただ、ウィルだけは、またなーと気の抜けた挨拶をしていた。
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