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俺のためだけに……

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 あのお茶会以降、月に1回ないし2回は屋敷にジョージアを招待していた。
 もちろん、エリザベスも同時にだ。
 
 何を隠そう、卒業式のドレスやタキシードを仕立てるためなのだが、2組がそれぞれ別室にて打ち合わせをすることにした。
 その理由は、お互い相手がわかっていてもドレスは、それぞれ当日まで楽しみにしていたいという私とエリザベスの女の子としての矜持だ。


 私もエリザベスも当日、めいっぱいおしゃれをする予定なのだ。
 できれば、パートナーにも内緒にして驚かせたいと思うのもわかってもらいたい気持ちだった。
 まぁ、鈍感で女心などさっぱりわからない兄には、到底理解できないようだったので、エリザベスは多少苦労しているようだった。


 それぞれのパートナーにも自分たちのドレスについては、他に口外しないようにときっちり口止めをしてある。
 もし、しゃべったら、当日ドタキャンする!とまで言って脅したのである。
 ほぼ、兄に対してなのだが……わかっているのだろうか?



「ジョージア様は、どのドレスの草案が気に入ったかしら?」



 5枚ほどデザインされたドレスの草案を目の前に置き、尋ねる。
 一応考えてくれているのか、一つ一つ手に取り、私の方にかざして見てくれている。
 まずは、私に似合うと思うものをジョージアに選んでほしいと思ったので問うたのだが、なかなか返事が返ってこない。
 デザイン画と私を見比べてばかりだ。



「どれも、アンナに似合いそうだね。
 そうだ! デザイナーさん、このドレスに一つ追加してもらいたいのだけど、君のプライドは
 傷つかないかい? 」



 私そっちのけで、デザイナーに尋ねている。
 1枚の草案を手にもって少し離れたところに二人して歩いていってしまった。
 こちらを二人して、話し合いながらチラチラと見てくる。



 なんなんだろう……気になるんだけど……



 でも、ジョージアが持って行った草案は、私が1番気に入ったものだったので、それだけでとても嬉しくて仕方がなかったのだが、コソコソとされるととても気になる。


 ドレスの色は、アイスブルーからブルーそしてネイビーにグラデーションされたもので、後ろに大きなリボンがついている。
 胸元には、レースで飾ってあるオフショルダーのドレスだった。
 私は、それで大満足だったのだが、ジョージアは少し変更してほしいと今、まさにデザイナーと話しているところだ。
 いまだに、こちらを二人でチラチラと見ては、顔と顔をくっつけて話している。


 気にしても仕方ないので、用意してもらった紅茶を飲んで気長に待つことにした。
 それにしても、デザイナーさん、ジョージア様に近すぎやしないだろうか?
 心の中で、むっとするが、こちらを見てくる二人には微笑むばかりである。



 先にジョージアが戻ってきた。



「ジョージア様、どこかお気に召さなかったのですか?」
「気に入らなかったわけじゃないんだけど、少しだけね。
 せっかくアンナが着るドレスなのだから、特別なものにしたかったんだよ!」



 隣に腰掛けながら柔和に笑顔を向けられると、私は何も言えなくなる。
 この人の魅力はやっぱり柔らかい笑顔ね。
 そんなことを思いながら、直されたデザイン画を二人で待っているところだ。



「できました。こちらでどうですか? 」



 ジョージアがデザインに少し手を加えただけだそうだが、そこからさらにデザイナーがイメージを膨らませたらしい。
 差し出されたドレスの草案は、先ほどよりずっと素敵であった。
 もともと青を選択しようと思ったのは、ジョージアにぴったりの色だからだった。
 でも、私のストロベリーピンクの髪に合うのか少し不安も残っていたのだが……
 その悩みは、ジョージアの提案によって払拭されたようだ。


 上半身を白にしてピンクの薔薇と青い薔薇をあしらってくれている。
 切り返しを少し高い目にして先ほどの色構成。
 さらに無地だったドレスの上にうっすら透ける布をあしらいそこに青薔薇を刺繍してあるデザインだ。
 さっきと少し変えるよと言っていたが、全然違うものになっているのだけど……
 ジョージア様、すごいことになってますよ……と内心つぶやく。
 差し出されたデザイン画に、私はさっきよりさらに気に入ることになった。



「どう? 気に入ってくれた?」



 デザイン画に見惚れていたら、耳元で囁かれとても驚いた。
 心臓が口から飛び出すんじゃないかと思うほどにだ。



「も……もちろんです!!
 デザイナーさんのデザインも、もちろんとても気に入っていたの、1番ね。
 でも、これは……素晴らしいです。
 私、こんなドレス、着られると思うと……嬉しくて泣きそうです!」
「アンナは大げさだな……ところで、俺のタキシードはどれがいい?」


 私の感動っぷりを見て満足気に微笑んでいる。
 今度は、ジョージアの着るタキシードを選ぶ番だ。
 どれもいいのだが、私のドレスが変更になったことでどうしたものか悩む。
 それに気づいたのか、デザイナーが少しお待ちくださいと、対になっているようなタキシードにドレスのようなデザインを施してくれる。
 すると、ぴったりに思えてきた。
 もう、これしかないと思う。



「これで、お願いします!!」



 勢いよく頼むと承りましたとデザイナーは、口角を上げ一礼する。
 ちらっとジョージアの方を見てみると……満足そうだ。



「あとは、宝飾品だね。
 宝飾については、どうしよう……こちらで選んでもかまわないかい?」



 ジョージアに提案されたので、申し分ないセンスにお任せすることにした。



「よろしくお願いします!」
「うん。わかった。
 えーっと。ピアスが3つ開いているんだね。
 あとネックレスとブレスレットってとこかな? 
 あぁ、髪飾りも必要だ。
 僕からのプレゼントだから、気兼ねなく受け取ってくれるよね?」



 そう言われてしまえば、任せる言ってしまった手前返事がしにくい。



「そういうわけには……」
「そういうわけだから、もらってもらいます。
 俺の用意したもので、俺のためだけに着飾ってよ?」



 うん、ジョージア様はとってもいい笑顔だから、これ拒否権ないね……
 しかも、キザで恥ずかしい。
 でも、それも含めて、かっこいいのだから、反則である。



「……ありがたく受け取ります!」
「気に入るようなものしか贈らないから大丈夫だよ!」



 センスを疑っているのではなくて、金額を疑っているのですけどね?
 タヌキとキツネの化かし合い……いやいや、これは完全に圧力だ……そして、私の完敗。
 そんなことを思いながら、着々と準備が進められていくことに不安を感じずにはいられなかった。



「仮縫いは、休み明けになるかな?」



 デザイナーにドレスの仮縫いの話を始めていたので、私も混ざることにする。



「はい。そうですね……
 仮縫いについて、アンナリーゼ様はトワイス国の方なので、ご都合がつけば夏季休暇中でも
 構いません。
 ジョージア様は、本国へ戻られるのでしょうか?」
「そうだね。両親にも話をしないといけないから、一度戻るつもりだよ!」
「でしたら、私だけ仮縫いを先に済ませてもいいかしら? 
 ドレスって結構仮縫いしてからも微調整しないといけないし……」
「かまいませ……」
「俺が、構います!」



 横でふくれっ面になっているジョージア。



「いいじゃないですか?私のドレスは、当日までおたの……」



 人差し指で私の口を塞いでしまって、それ以上は言わせてくれない。



「仮縫いも試着も必ず呼んでくれ。その日に合わせてこちらに出てくるから!」



 有無を言わせぬ迫力でデザイナーに凄む。



「かしこまりました。では、両方に仮縫いができましたら、ご連絡させていただきますので、
 ご一緒に試着していただきましょう!」



 私の口は、いまだジョージアの人差し指で閉ざされたままになっている。
 どけることもできるが、それもしない。
 結構、恥ずかしいのだけど……私、ジョージアに放置されているのだと思っていた。



「それより、ジョージア様、アンナリーゼ様が真っ赤ですよ?」



 デザイナーと話していたジョージアは、私のこと忘れていたのか、わざとなのかわからないが振り返ってこちらを見た。
 あっ! 蜂蜜色の瞳に私が写ってる! とかちょっとウキウキしてしまったが、状況は……芳しくない。
 私を目でとらえた瞬間にジョージアも顔を真っ赤にさせていた。
 その様子を見ていたデザイナーが二人に生暖かい視線を送ってくる。



「ふふふ。とっても仲がよろしいんですね! 羨ましいわ」



 なんて言ってますよ! ジョージア様、早く、その人差し指をはずしましょう! 
 心の中で叫んでみるけど……当然伝わるはずもなく、仕方なくそっと自分の手をジョージアの手に添えて下し、何事もなかったかのように繋いでおいた。

 そこ! いちいち見ない! 凝視しない! と心でさらにジョージアとデザイナーに叫ぶ。

 私は、母に鍛えられたので当然社交は、できる。
 男性とダンスも踊れるし、会話だって弾ませることができる。
 そして、告白もされるし、甘い言葉の一つや二つや百や千も受けたことはある。
 何度も言うが、社交はできるのだ。

 ただ、自分の未来は決めていたので、今まで他の令嬢のように恋愛をしてこなかった。
 しようとしなかった……
 今までの恋愛関係の話は、すべて受け流していたのだ。


 未来の旦那様からの言葉や行動は、割り切っているつもりだったのに……
 なのに、うまくいかない!
 私という恋愛初心者には、ジョージアというなかなか大きな試練がやってきた。


 穴があれば入ってしまいたい、そんなことをずっと考えているが、隣も真っ赤にしているので、同じなのだろうと思う。


 いや、同じであってほしいと願うばかりだ。



「では、仮縫いのさいご連絡いたしますので、邪魔ものはこれにて退散します!」



 その言葉を残して、ニヤニヤしながらデザイナーは部屋を後にするのだった。
 部屋に取り残された二人は、沈黙していた。
 繋いだ手のぬくもりだけを気にして、私は、まっすぐ前を見ているだけである。
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