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二人だけのお茶会

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 コンコンとノックの音が響く。
 部屋の主であるはずのサシャならわざわざノックなどしないであろう。



「アンナリーゼです。入りますね!」



 扉の向こうから声がかかり、返事をする前に入ってくる。
 ストロベリーピンクの髪を今日はサイドを編み込みにしていて、いつもよりかわいらしい雰囲気の彼女は俺に向かってにっこり笑っている。



「ジョージア様、ようこそ我が家においでくださいました」



 扉の前で一礼して、こちらに向かって歩いてくる。
 今日の目的である、アンナリーゼとの話ができることに、少し高揚している自分がなんとも言えない気持ちである。



「アンナリーゼ嬢、今日は時間を作ってもらいありがとう」



 あくまでもこちらの爵位が上なため、挨拶も上からになってしまっているが、失礼はないだろうか……?心配になる。



「こちらこそ、兄と入れ替わりなんて失礼なことをしてしまい、申し訳ございません。
 私のことは、どうかアンナと呼び捨てにお呼びください」
 
 

 心配をよそに正面に座ったアンナは、ほほ笑んで、この兄妹の計画についてさらに謝罪までしてくれる。
 この兄妹は、同じような反応をするなと単純に思い、くすっと笑ってしまう。



「えっ? どこかおかしなところがありましたか?」



 アンナは、目を丸くしてこちらを見てくる。



「いや、兄妹だなと思って。
 先ほど、サシャにも同じようなことを言われたよ。
 特段、気にすることはない。
 君のことを大切に思う兄の気持ちが、少しはわかった気がするよ!」



 よくわからないとばかりの困惑顔で、アンナはこちらを見てくる。



「あの……兄が、私想いってことですか?
 それなら、私も、兄のことが好きですよ。
 伺っているかもしれませんが、今日はジョージア様を招待するにあたって、
 兄にも協力してもらわないといけなかったので、その代りというと相手の方に
 失礼ですが、私のお友達を紹介させてもらいました。
 兄の人柄にはもちろん太鼓判押しますが、私の友人も兄とならとてもお似合いの方だと
 私思ってます。
 そういえば、ジョージア様は、一人っ子でしたよね?」



 兄妹で顔を突き合わせて悪だくみをしようと計画している姿が想像できて、微笑ましい話が可愛らしいと思う。



「そうだね。
 でも、サシャとアンナの話をしていると、俺にも妹ができたような気持になったよ。
 君のクラスの子がサシャを呼びにくると、サシャと一緒にハラハラしたり、
 浮かれたりしているよ。
 それと、アンナ。
 敬語もなし、ジョージアと呼んで構わないよ」
「いえ、ジョージア様と呼ばせてください。
 敬語は……すぐには難しいので、おいおい直していきます……」
「なんだか、様と呼ばれると距離が……君は、もう俺の……」



 ん? 何? という顔をしている。
 しまった……焦ってしまったと反省し、とりあえず誤魔化しておく。
 俺の想い人なのだから……と続くはずだったのだが、言葉を飲み込む。



「あ……いや……俺の妹みたいなものだと言いたくて!」


 焦って答えたが、アンナは、なるほどと納得してくれたようだ。
 よかった……



「そういえば、サシャに聞いたんだが、アンナも花が好きだとか? 
 珍しいチューリップを見に行ってきたと聞いているよ」
「あっ! 見に行きました! 
 中庭の大きな花壇1つをチューリップにしてありましたね。
 色とりどりあるのですよね。
 私、かがんでみていたら一緒に行った方に上から見てごらんと言われ立って見たら、
 お花アートになっててびっくりしました!」



 そのとき驚いた様子が、クルクル変わるアンナの表情を見ていればとてもわかる。
 そして、一緒に行ったのは、きっとトワイス国の王子と宰相の子息だろうことも想像でき、嫉妬してしまう。



 一緒に行きたかったものだ。



「あぁ、あれには俺も驚いた。
 今年の庭師は、サプライズが好きなようだ。
 新しい花も多く中庭に取り入れられていて、見事だと思う」
「そうですよね! 
 確か、去年までの庭師さんが引退なさったそうで、今年からそのお弟子さんが管理されている
 らしいのですよ。
 元々他国のお花にも精通されていたようで、目にも珍しいお花が多いので、私も足しげく
 通っています!」



 お転婆とかじゃじゃ馬と噂のアンナであるが、そういう女の子らしいところもきちんとある。
 そのギャップがさらに周りを魅了するひとつなのだが、果たして計算されているのか、天性のものなのか、俺にはわからない。



「今なら、ハスというピンクの花が池に浮いて咲いているよ。
 今日の招待状をもらったときに、サシャと一緒に見に行ってきたんだよ」
「お兄様とですか? 
 お兄様って、あんまり興味なさそうですけどね……
 でも、この前、図鑑とか見てたので興味持ち始めたのかもしれませんね。
 気になると調べたくなるようなので……」



 ふふふと笑うアンナは、とても兄を慕っているようにみえる。
 慕われているサシャが、羨ましい。
 サシャの話で、いつも出てくるトワイス国の王子や宰相の息子ヘンリーだったか……
 いつもアンナの傍にいられることが、羨ましいし妬ましい。


 話をすればするほど、アンナリーゼという女の子に惹かれていくのがわかる。



「そうそう。
 最近、兄と私の話をするそうですが、兄の話は話半分で聞いてくださいね。
 ホント、話を盛られるので否定するのも大変なんです! 
 まぁ、でも大筋は合っているのでなかなか否定しきれないところもあるのですけど……」



 むくれたような呆れたような顔をして俺に注意してくる。



「わかった。そのように思っておこう。
 ただ、俺も聞く限りでは、結構なお転婆が聞こえてくるようだけど……?」



 あはははは……と、から笑いして誤魔化そうとしている。
 そんな姿が、可愛らしい。



「俺は、それもいいと思うよ。
 それも含めてアンナだし、突き詰めるといい話も多い。
 上級貴族として下級貴族を導くのも立派な行いだからね。
 俺なんて、何もしていないのだから、それに比べればアンナは貴族令嬢として立派だよ」
「そんなことないです。
 ジョージア様がいるだけで抑止力になっているところがローズディア側にはあるのです。
 私たち自国は、殿下がいらっしゃいますが、恥ずかしいことに、学校内でも派閥があり
 何かと争っているのです。
 恥ずかしい話ではありますが……私たちフレイゼンも一応、殿下の派閥らしいのです。
 最近困ったことに第3の勢力として、私が頭にされてしまっています。
 否定してもなかなか。
 最悪なことに、将来の王妃派閥なんて不名誉な言われようですよ」
「王妃派閥と言われるのが不名誉というのは、アンナぐらいだと思うけど……
 なんとなく、担ぎ上げたいのはわかる気がするよ」



 何故です? と、視線で問うてくる。
 このアメジストの瞳は、好奇心の塊だなと思わず笑いたくなった。



「それは、王子も君を手に入れるのに必死ということじゃないのかな? 
 気づいていないとは言わないよね?」



 はぁ……と、大きく盛大にため息をつくアンナ。



「失礼しました。やはり、そうなのでしょうか……
 ジョージア様にこんな話してもいいのか分かりませんが、派閥・国内外関係なく今現在
 ものすごい縁談の申し込みがあるのです。
 筆頭は殿下なのですが……私にはそんな気は全くないのでお断りし続けているのです。
 幼馴染としていつも近くにいるせいか、もう婚約したと周知の事実になっています。
 実際は、断り続けているのにですよ? 
 それでも他に縁談話が尽きないのは、私を王妃に据えたくない派閥からの申し出のようですね。
 まだ、サンストーン家からの申し出がないだけマシだと思っているのですが、もう好きなように
 思いこませておくことにしています」
「聞いてもいいかい? 
 アンナは、王妃にと望まれているのに嫌なのかい?
 他に何かあるのかい?」



 王子と結婚し、将来王妃となれば、贅も尽くせみなの憧れの的となろう。
 上級貴族とはいえ、王族となれば、別格になるのだ。
 ただ、義務も多くなる。
 アンナは、それを嫌っているのだろうか?



「そうですね。そんな風に望まれることは、私自身とても光栄に思います。
 ただ、私はその器ではございません。
 幼馴染だからと、その地位に納まるのも嫌なのです。
 確かに名誉も贅も欲しいままでしょうが、私、そういったものには興味がないのです。
 名誉も増えれば、義務も増えますしね……」



 芯の通った彼女なりの持論があるようだ。
 やはり、アンナは、おもしろいと思う。
 みなに望まれるというのは、天然の人誑しなのだろう。
 ぶれないものがあるからこそ、憧れる、彼女にすがりたい、傍にいてほしいと願う人間が多くいるということだ。
 俺もそのうちの一人だから分かる。
 彼女のその強さに憧れているし、傍でその強さを見守りたい、共にありたいと願うのだから。



「アンナは、しっかりしているんだね。
 自分の器まで把握しているなんて……
 でも、俺から言わせれば、君ほど王妃が似合う人はいないと思うんだけど?」



 王妃推薦してどうするんだ……俺は馬鹿なのか……?と、心の中で悪態をつく。
 それを見こされたのか、ふんわり微笑むアンナ。



「ジョージア様にそう言ってもられるのなら、そうなのかもしれません。
 でも、私、やりたいことがあるので、決して王室に入ったりはしませんよ!」


 やりたいこ……? それはいったいなんだろうか……?
 王室に入れば叶わないことなのだろうか……そこまで拒絶するということわ。



「やりたいことは、ジョージア様に問われたとしても何かと申せません。
 でも、王室に入ってしまえば、私の望むものも未来も閉ざされてしまいますとだけ……
 それ以上は、聞かないでください!」



 これ以上は、王妃の話は拒絶をされてしまう。
 そこまでの仲ではないし、きっと家族以外は知らない事情もあるのだろう。
 俺もそこに関わりたいと願ったとしても、きっと、拒まれてしまって終わるのだと確信する。
 これから言おうとすることも、拒絶されてしまうのではないかと思うと、心がぎゅっと苦しくなってきた。
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