上 下
18 / 1,479

兄妹の計画案

しおりを挟む
 僕は、アンナの部屋を出て、自室に戻ろうと渡り廊下を歩いていた。
 中庭に散歩していたのかジョージアが寮に向かって歩いてきているのを発見したので、思わず渡り廊下から声をかけてしまう。



「ジョージア様、今、お帰りですか?」



 僕の声に驚いたのか、ジョージアは、声のする方へと視線を向け声の主を探していたので、手を振っておく。
 気づいてくれたのか、目があった。
 いつかアンナが言ったようにジョージアは、綺麗な蜂蜜色の瞳をしている。



「今から、そっちに行きますから、少し待っててください!!」



 頷いてくれたため、僕はそこから駆けていく。
 合流する直前に、ふうっと一息入れて息を整えた。



「お待たせしました。
 少しお話したいことがあるのですが、お時間よろしいですか?」
「もちろんだよ。部屋を用意しよう。
 ついてきてくれ。あと、そのよそよそしい敬語もいらない。
 同じ年なのだし、普通に話してくれてかまわない」



 妹の入学から1年がたち、妹の話をきっかけに少しずつ話をするようになったのだが、いまだにジョージアに対して敬語だった。
 特にこうしてくれと言われていなかったのでずっと敬語で話していたのだが、どうも堅苦しいのは嫌だそうだ。

 ジョージアの部屋に通され、まずは、雑談を始める。
 これは、相手がどんな状態なのか状況判断するためだ。
 機嫌が悪かったり、体調がすぐれなかった場合、日程だけ決めてお暇するつもりだった。



「ジョージア様は、中庭に? 
 チューリップという花が見ごろだと先ほど妹が話していたけど、散歩に行かれてたので?」



 侍女にお茶を用意してもらい、茶菓子が出てきたので一口ずつ口にしている。
 ほんのり甘いクッキーだった。
 甘いのがあまり好きでないらしい、ジョージアらしい茶菓子だ。



「あぁ、そうだ。ローズディアやトワイスで咲くものではないらしい。
 ここの庭師が特別に取り寄せたらしくって、見てみたいと思って見に行ってきたところ」



 ジョージアが他国の花に興味があるとは、あまり信じられなかった。



「花好き?」
「……あぁ、そうだな。割と花は好きだ。
 特に他に興味が惹かれるものがないからなぁ……
 他国には、太陽に向かって咲く大輪の花もあるときいている。
 そういうものにも、興味はある。
 でも、我が国が誇る薔薇は、格別だと思っているよ。
 その中でも青薔薇は別格とね」
「青薔薇とは、そのままの?
 技術的に青い薔薇は難しいという話を聞いたことあるけど、ローズディアでは、
 完成しているのか?」



 ジョージアは、ふっと不敵に笑う。
 まさに青薔薇が似合いそうな貴公子だ。
 女の子たちが騒がないわけないよなぁ……と、思える。



「我が国では、すでに完成している。
 他国には、輸出されていないが、我が家の庭にもあったはずだよ」



 ここの中庭は、季節折々の花が咲いている。
 僕もたまに気分転換を兼ねて中庭をぶらついているのだが、まだ、青薔薇は見たことがなかった。
 それこそ、去年あたりから他国の花も輸入して咲かせることもあるのだが……



「まだ、青薔薇は機密性が高いから、もうしばらくは、他国には出回らないはずだよ」



 僕の表情を呼んだのか、先に答えを言われてしまう。



「是非とも、一度お目にかかりたいものだ。
 そうそう。我が家にも珍しいものがあるのだけど、ぜひ、ジョージア殿に見ていただきたいと
 我が家に招待したいのだが、どうだろう?
 空いている日取りを聞いてもかまわないだろうか?」



 ジョージアに訝しまれる、が、僕はめげない。
 ここで、めげると、僕の奥さんが……紹介してもらえない。


 話の切り口が悪かっただけ……ここで諦めるとアンナに叱られる。
 そして、寂しい卒業式になるのは必然だ。
 先程、アンナと日程調整をするために決めた日を提示したところ、いつでも大丈夫だと返事をもらう。



「公爵家には、ないと思う珍しいもだよ。
 これが、なかなか手の焼く代物でね。
 でも、そこも含めてとても可愛いんだ。
 是非とも、ジョージアに見てほしいと思ってね!」



 僕は、代物の名前は言わない。
 ジョージアもまさか、アンナリーゼだとは思っていないだろう……
 手の焼く代物なんて、本人が聞いたら、僕はしばらく再起不能にさせられてしまうに違いないが、きっとジョージアは、それが何だったとしても黙っていてくれるだろうと願う。



「それじゃあ、その日程のどこかで招待状を送るよ。楽しみにしていて!」



 話はそれだけだったがアンナの話を少ししてから、ジョージアの自室から退出することにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

処理中です...