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アンコール
第6話 無様な姿だけは見せたくないって常々思わされる
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文化祭も無事に終わり、僕らはツアーファイナルに向けて動き始めた。文化祭では普段見ることもない俺様な凛と違う一面を見て同じ悩みを抱えながら、戦っていたことを知れてよかったとさえ思ってる。
「湊くん、もう少し広々と使えるから!」
「そんなに窮屈そうでした?」
「うん、ちょっとだけね? のびのびしていこう! 初めてのドームでも」
スタッフに声をかけられ、ステージからの見栄えを確認していく。ドームも何公演か目であっても、東京のドームは初めて。そのどれもに緊張して、少し萎縮しているように感じた。
「みーなとっ!」
「ヒナ?」
反対側にいたはずの陽翔が走ってこちらまで来たので、「どうしたの?」と聞いた。
「向こう側にいたら、たまらなくなって走ってきた。ここまで3分くらいかなぁ?」
「……3分で来れるのはヒナだけだから」
「あと衣装確認で今日は終わり?」
「そう。ヒナは家に帰る?」
「当然、湊の家にいく!」
ライヴの前は必ず家ないしは僕の部屋でくつろいでいる。どういうわけか、それが板についていて、咎めることもできない。むしろ、前日の体調管理をするにはお互いもってこいなので、相談しながら上手に夜を過ごすことになった。
「いよいよだな?」
「長い長い夢でも見てたのかと思ってた。だから、ここに立てたことが奇跡のようで嬉しい」
ふぅっと息を吐くと同時に、僕の正面に回った陽翔に両頬をつままれる。
「いひゃい……」
「夢じゃないだろ? 今日、ここに立つまで、どれほどの人が湊を応援してくれてたんだ?」
「数え切れないほど」
「だろ? あのメイちゃんもだし、俺もだし、その他、名前がわからない誰かも、湊を応援してくれてる」
頬にある指先の力が弱まって、そのまま撫でてくれる。くすぐったいようなそれに後ろへ下がりたいようなもっとしていてほしいような複雑な気持ちだ。
「ヒナだって、この数ヶ月でたくさんの人を魅了しただろ?」
「手始めに湊な! 俺の知らないところで」
くっくっと笑う陽翔が目を細めている。頬から手が離れていき、手すりにもたれかかった。
「それは仕方ないだろ? 歌が聞こえたんだから!」
「まぁ、いいよ。今、こうして、湊の相棒としてステージに立てるなら本望だし、ファンからかけられる声援は正直嬉しい」
「あぁ、明日はこのドームがいっぱいになるんだなって思うと、嬉しくて仕方がないな。明日……」
「ん?」
「楽しもうな?」
そういうと「もちろん!」と陽翔は微笑んで頷いた。
今回のライヴはもう一組ステージに上がることになっている。誰かといえば、あの天使ちゃん……こと皐月がデビューするのだ。本人は嫌がっただろうけど、社長がねじ込んできた。他にもゲストがいるので、慎重にと前日リハーサルとなった。明日も朝からリハーサルがあり、そのまま公演となる。
高校生な僕らは夜公演はあまりない。だが、この東京だけは、社長が確保してくれ、休日にも重ねてくれた。
「あぁ、明日が待ちどおしいなっ!」
衣装合わせも終わり帰るために関係者出入り口から外へ出てすぐ、テンションの下がらない陽翔がドームから出てすぐに叫ぶ。流石に僕が止めに行くと「ごめんね?」と謝ってくるが、ちっともそんな気もないだろう。
車を回しに行った小園を待つために二人並んで花壇のへりに座っていると、陽翔がポツリと溢した。
「……怖いな、明日」
「楽しみなんじゃないの?」
「もちろんそうなんだけど、それでもさ。最後のライヴからちょっと時間も空いたし」
「確かに。リハ……ステージ広かったな」
「やっぱ感じた? あぁ、あれが湊の夢の舞台なんだなぁーって思うと、緊張するんだよ」
「ヒナが緊張しなくても良くない?」
「するよ。目指してきた場所に、俺と一緒でいいのかって。小園さんも立ちたかったんじゃないかとか、いろいろ考えちゃって」
ドームを見上げる。夢にまで見ていた場所だ。その大きさにビビって足がすくみそうで、ぎゅっと拳を握った。
「考えなくていいよ。ヒナはヒナとして、ジスペリとしてあの場に立つ資格があるんだからさ。怖がらないで」
立ち上がり陽翔の左耳に光るアメジストを触る。少し驚いたようだが、見つめ返してくるだけだった。
「これ、開けてて正解だよな。なんか、こう、ぐわってなるときあるじゃん?」
「何? そのぐわって」
「あるんだよ、そーゆーときが」
僕が触っている上から同じように陽翔が触るので、僕の手と重なった。
「これしてるとさ、湊を感じるっていうか? ホッとする」
「へぇーそんなもん?」
「そんなもん。湊はなんとも思わない?」
左耳に光るペリドット。満月の月光に照らされていることだろう。
それぞれの誕生石を左耳に、同じブラックダイヤを右耳に付けている僕ら。陽翔を感じないわけはなく、否応がなしに意識させられる。
「無様な姿だけは見せたくないって常々思わされる」
「へぇー無様な。湊は何をしてもカッコいいと思うけど……いつも全力だし」
「そ、そんなこと!」
「あっ、小園さん来た。いこっ!」
もたれかかるように座っていた花壇から立ち上がり、僕の手を引いて小園の運転するクルマへ走った。
明日のステージを控え、振り返る夢の舞台。とうとうここまで来たんだと噛み締めるものがあった。
凛に勝手に宣戦布告してから、意外と早く登ってこれた。これもそれもヒナのおかげだな。
握っていた手に力を込め、「早くいくぞ!」と逆に引っ張ってクルマに駆け込んだ。明日の迎えについて軽く打ち合わせをしたころ、マンションに着いた。
陽翔も本当に泊まるらしく一緒に降り、明日のステージについて話しながら夕飯を食べた。
「明日も頑張ろうな?」
「もちろんだ!」
コツンと拳を軽く当て、それぞれの部屋に入っていく。いよいよだと思いながらも、思いの外大きなドームのリハーサルに疲れたのか、ぐっすり眠ってしまった。
「湊くん、もう少し広々と使えるから!」
「そんなに窮屈そうでした?」
「うん、ちょっとだけね? のびのびしていこう! 初めてのドームでも」
スタッフに声をかけられ、ステージからの見栄えを確認していく。ドームも何公演か目であっても、東京のドームは初めて。そのどれもに緊張して、少し萎縮しているように感じた。
「みーなとっ!」
「ヒナ?」
反対側にいたはずの陽翔が走ってこちらまで来たので、「どうしたの?」と聞いた。
「向こう側にいたら、たまらなくなって走ってきた。ここまで3分くらいかなぁ?」
「……3分で来れるのはヒナだけだから」
「あと衣装確認で今日は終わり?」
「そう。ヒナは家に帰る?」
「当然、湊の家にいく!」
ライヴの前は必ず家ないしは僕の部屋でくつろいでいる。どういうわけか、それが板についていて、咎めることもできない。むしろ、前日の体調管理をするにはお互いもってこいなので、相談しながら上手に夜を過ごすことになった。
「いよいよだな?」
「長い長い夢でも見てたのかと思ってた。だから、ここに立てたことが奇跡のようで嬉しい」
ふぅっと息を吐くと同時に、僕の正面に回った陽翔に両頬をつままれる。
「いひゃい……」
「夢じゃないだろ? 今日、ここに立つまで、どれほどの人が湊を応援してくれてたんだ?」
「数え切れないほど」
「だろ? あのメイちゃんもだし、俺もだし、その他、名前がわからない誰かも、湊を応援してくれてる」
頬にある指先の力が弱まって、そのまま撫でてくれる。くすぐったいようなそれに後ろへ下がりたいようなもっとしていてほしいような複雑な気持ちだ。
「ヒナだって、この数ヶ月でたくさんの人を魅了しただろ?」
「手始めに湊な! 俺の知らないところで」
くっくっと笑う陽翔が目を細めている。頬から手が離れていき、手すりにもたれかかった。
「それは仕方ないだろ? 歌が聞こえたんだから!」
「まぁ、いいよ。今、こうして、湊の相棒としてステージに立てるなら本望だし、ファンからかけられる声援は正直嬉しい」
「あぁ、明日はこのドームがいっぱいになるんだなって思うと、嬉しくて仕方がないな。明日……」
「ん?」
「楽しもうな?」
そういうと「もちろん!」と陽翔は微笑んで頷いた。
今回のライヴはもう一組ステージに上がることになっている。誰かといえば、あの天使ちゃん……こと皐月がデビューするのだ。本人は嫌がっただろうけど、社長がねじ込んできた。他にもゲストがいるので、慎重にと前日リハーサルとなった。明日も朝からリハーサルがあり、そのまま公演となる。
高校生な僕らは夜公演はあまりない。だが、この東京だけは、社長が確保してくれ、休日にも重ねてくれた。
「あぁ、明日が待ちどおしいなっ!」
衣装合わせも終わり帰るために関係者出入り口から外へ出てすぐ、テンションの下がらない陽翔がドームから出てすぐに叫ぶ。流石に僕が止めに行くと「ごめんね?」と謝ってくるが、ちっともそんな気もないだろう。
車を回しに行った小園を待つために二人並んで花壇のへりに座っていると、陽翔がポツリと溢した。
「……怖いな、明日」
「楽しみなんじゃないの?」
「もちろんそうなんだけど、それでもさ。最後のライヴからちょっと時間も空いたし」
「確かに。リハ……ステージ広かったな」
「やっぱ感じた? あぁ、あれが湊の夢の舞台なんだなぁーって思うと、緊張するんだよ」
「ヒナが緊張しなくても良くない?」
「するよ。目指してきた場所に、俺と一緒でいいのかって。小園さんも立ちたかったんじゃないかとか、いろいろ考えちゃって」
ドームを見上げる。夢にまで見ていた場所だ。その大きさにビビって足がすくみそうで、ぎゅっと拳を握った。
「考えなくていいよ。ヒナはヒナとして、ジスペリとしてあの場に立つ資格があるんだからさ。怖がらないで」
立ち上がり陽翔の左耳に光るアメジストを触る。少し驚いたようだが、見つめ返してくるだけだった。
「これ、開けてて正解だよな。なんか、こう、ぐわってなるときあるじゃん?」
「何? そのぐわって」
「あるんだよ、そーゆーときが」
僕が触っている上から同じように陽翔が触るので、僕の手と重なった。
「これしてるとさ、湊を感じるっていうか? ホッとする」
「へぇーそんなもん?」
「そんなもん。湊はなんとも思わない?」
左耳に光るペリドット。満月の月光に照らされていることだろう。
それぞれの誕生石を左耳に、同じブラックダイヤを右耳に付けている僕ら。陽翔を感じないわけはなく、否応がなしに意識させられる。
「無様な姿だけは見せたくないって常々思わされる」
「へぇー無様な。湊は何をしてもカッコいいと思うけど……いつも全力だし」
「そ、そんなこと!」
「あっ、小園さん来た。いこっ!」
もたれかかるように座っていた花壇から立ち上がり、僕の手を引いて小園の運転するクルマへ走った。
明日のステージを控え、振り返る夢の舞台。とうとうここまで来たんだと噛み締めるものがあった。
凛に勝手に宣戦布告してから、意外と早く登ってこれた。これもそれもヒナのおかげだな。
握っていた手に力を込め、「早くいくぞ!」と逆に引っ張ってクルマに駆け込んだ。明日の迎えについて軽く打ち合わせをしたころ、マンションに着いた。
陽翔も本当に泊まるらしく一緒に降り、明日のステージについて話しながら夕飯を食べた。
「明日も頑張ろうな?」
「もちろんだ!」
コツンと拳を軽く当て、それぞれの部屋に入っていく。いよいよだと思いながらも、思いの外大きなドームのリハーサルに疲れたのか、ぐっすり眠ってしまった。
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