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刻印
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私たちは、儀式も終わって、元来た道をとぼとぼと帰る。
もちろん、転ばないように光魔法で明かりを取りながら。
廊下側から扉を押し出すと、妙に心配してくれているニーアが野ネズミのようにチョロチョロ歩き回っていた。カインは、そんなニーアを見ておもしろがっている。
ぎぃーっと扉を開く音がしたことで、私たちが帰ってきたことがわかったのか、ビアンカ様っ!とニーアが駆け寄ってきた。
「どこも何もありませんか?」
「ニーア、落ち着いたらどうだ?」
「カイン様、落ち着いてなんていられません!」
きっと睨むニーアに対し、カインは先程と同じように余裕を持って微笑む。
「はぁ……これで、もう、逃げられない」
「逃げなくてもいいだろ?」
「……」
「逃げたかったのか?」
「……」
返事をしないでいると、慌てるセプト。そんな慌てようがおもしろくわざと何も言わず、見つめるだけにした。
後ろにいたカインとニーアも何故か不安そうにしているのは、何故なのだろうか?
「……さ、さておき、あの儀式、他にも何か意味があるのか?慌てて聞いたから、ビアンカに言われたとおり儀式用の水槽に触れただけだが」
不思議そうにしているセプトに、ニッと笑う。
「あの聖水には、微量の毒が含まれます!」
「毒だって?」
「えぇ、それはそれは甘美な毒です。まぁ、それで幸せになれるなら……安いものですよね!本来なら、男性側も飲むべきだというのが、私の意見ですけど!」
「なんだ、その毒とは……仮にも妃になるものの儀式で」
「惚れ薬ですよ……本当に、やめてほしいですよね!私には、魔法の効力もあるし、色々効かないので構いませんが!」
「惚れ薬だって?」
「えぇ、そうなんですよ!恋にやぶれた私には効きません!」
微妙な顔をして、三人が見合わせている。婚約者の前で、私は恋をしませんから!と宣言したようなものだから、視線を交わしているのだろう。
「……水槽が割れたのは?」
「魔法の効果があったからです。使えない場合、あれを上から出ないといけないんですけど、それも含めての儀式なんですよ!水に浸かれば浸かる程、効果絶大な毒に侵されます」
「ビアンカは一瞬だったから、なんともないのか……?魔法、恋に……惚れ薬……それは、残念なような気もする」
少し、肩を落とすセプトだが、対象となる私にしてみれば、たまったものではない。
思い返せば、あの聖水のおかげで、私は狂ったともいえよう。恋に恋する幼気な女の子が、本格的に逃げられないように惚れ薬を体に取り込んでしまったのだ。あのときは、後戻りすることができなかった。
何もあんなクズ王子を好きになる必要もなかったのだから。今更ながら腹立たしささえ湧いてきた。
「儀式も終わったので、帰りましょうか?」
「あぁ、ビアンカは着替えが待ってる。その薄着では、さすがに風邪をひきそうだ」
私は、セプトにエスコートされ、部屋に連れて行ってもらう。
今日の儀式後に両陛下との晩餐があるのだが、それに出ないといけない。
「儀式は、まだ、他にも意味があるのか?」
「えーっと、ようは、王族となるのだから、王子か、王になった人を支えましょう!っていうのを、教育ではなく、裏切らないように聖水の効果を体に取り込ませるのが1番の目的です。他の王子たちの妃たちを見たらわかると思いますけど……」
「確かに、兄上たちの妃たちは、常に兄上たちにピッタリ寄り添っている」
「心変わりしないよう、体の中に聖水を通して惚れ薬を取り入れた上に刻印されるわけですよ!」
「あの、その刻印とは……なんでしょうか?ビアンカ様には、2つあるということですか?」
ニーアに聞かれて、微笑む。
何を意味するのかは、セプトもカインもわからなさそうだ。
「私は、この毒は効かないの。だから、刻印はないの。だって、そうでしょ?私にあったらおかしいでしょ?」
「その刻印は、ビアンカ様の体のどこかに現れるのですか?」
「えぇ、体のどこかには。そのときは、その場所が熱くなるからわかるけど、何もないのよ。前のも消えていたのは、確認済みだし!」
三人が私を見て不思議そうにする。
立ち止まって、長い豪奢な金髪を左側に寄せた。
「ビアンカ様っ!」
ニーアは、うなじを見せたことで、叫んだが、まさにその場所にあったのだ。
「うなじにアマリリスの花の刻印があったの。今はないわ!王子の命令で、首が落ちてるのに、刻印なんてあったら、おかしいわよね?」
さぁ、行きましょう!と私はセプトの私室へとスタスタと向かう。
呆気に取られているセプトとカインを置いて、ニーアに案内される。
「ニーアは、お城のことをよく知っていて?」
「メイドでしたので、居住区については、熟知しております」
エスコートをしてくれない男性たちも、先に歩いていた私とニーアに慌てて追いついてきた。
「ビアンカ!」
「どうかして?」
「何故、今回の刻印が現れないんだ?」
「これはあくまでも仮説ですけど、まずは、魔法を使いました。あと、1度目の刻印で、王族認定されたんじゃないですかね?王族には、先程も飲んだ方がいいと言いましたけど、聖水の効果がないんですよ!」
「……効果がない?」
「そりゃそうでしょ?毒を盛った方が同じ毒に侵されているだなんて、ミイラ取りがミイラになるみたいなものですよね?それに、世継ぎをと考えたとき、一人の妃に問題があった場合……困るでしょ?」
なるほどと頷くセプト。
カインはどことなく笑っている気がする。苦笑い的なものではあるが。
「だいたい、刻印に関してはよくわかってないことも多いのです。相手の王子よって、刻印も変わりますし。だから、私見としか言えないのですよ。刻印に関しては、夫となる人しか本来知らなくていいことですしね。私の場合は、見えるところにあったから、厄介だったんですけど……」
「それは、どうしてですか?」
ニーアに聞かれたので、答えることにした。
「うなじにアマリリスの刻印が現れてしまったから、首周りの開いたドレスとか、髪を上げてしまうような髪型とかは出来なかったのよ」
「それでも、化粧か何かで隠せなかったのか?」
「そう思うわよね……普通」
「あぁ、普通ならな」
「実際やってみたの。当時の侍女にお願いして」
「どうだったんですか?」
「刻印のところが、どんなに隠してもほんのり光るの」
「光る?」
「そう。まるで、誰のものかと主張しているかのように」
へぇーっと頷くセプト。
自身の妃となる私に刻印が現れなかったのは、実は問題があるのだが……そこはなにも言わないで置く。
なくても、妃にはなれるからだ。私が知る限り、刻印なしの妃が一人だけいた。
「私はすでに大々的に婚約者だって国内外に知られていたから、別に刻印を隠す必要もなかったのだけど……王子の想い人……アリーシャが現れてからは、隠す様に言われたのですよね……」
「なんて王子だ。ビアンカほどの令嬢なんて、そうそういないだろ?」
「そういっていただけて、光栄ですわ!」
セプトに微笑むと、あぁ、思ったことをだな……とボソボソと言っていた。そんな風に言ってくれたのは、兄くらいだったので嬉しい。
「ビアンカ様、こちらが殿下の私室でございます」
「ありがとう、ニーア」
「では、早速お着替えになりますね!」
扉を開くと、とても美しい所作の侍女が、セプトの帰りを待っていた。
「おかえりなさいませ、殿下」
「あぁ、アリエル。今帰った。そうだ、改めて紹介しておこう。ビアンカ、こちらに」
セプトに呼ばれ、隣に並ぶ。
綺麗な侍女に私は微笑んだ。
「ビアンカだ。よろしく頼む」
「はい、殿下。初めまして、ビアンカ様。私、王宮侍女でアリエルと申します。殿下専属の侍女となっております」
少し年かさの侍女であるアリエル。私の微笑みに応え、挨拶してくれる。専属侍女かぁっと彼女を見つめた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。えっと……」
わざとらしく、名前を呼ばなかった。すると、アリエルが、微笑んだ。
「アリエルとお呼びください。殿下の妃になるお方です。ご用向きがあれば、なんなりと……」
綺麗なお辞儀をしてくれる。さて、どうしたものか。この侍女と後ろに控えるニーアとの静かなる火蓋が開かれた気がした。
もちろん、転ばないように光魔法で明かりを取りながら。
廊下側から扉を押し出すと、妙に心配してくれているニーアが野ネズミのようにチョロチョロ歩き回っていた。カインは、そんなニーアを見ておもしろがっている。
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「どこも何もありませんか?」
「ニーア、落ち着いたらどうだ?」
「カイン様、落ち着いてなんていられません!」
きっと睨むニーアに対し、カインは先程と同じように余裕を持って微笑む。
「はぁ……これで、もう、逃げられない」
「逃げなくてもいいだろ?」
「……」
「逃げたかったのか?」
「……」
返事をしないでいると、慌てるセプト。そんな慌てようがおもしろくわざと何も言わず、見つめるだけにした。
後ろにいたカインとニーアも何故か不安そうにしているのは、何故なのだろうか?
「……さ、さておき、あの儀式、他にも何か意味があるのか?慌てて聞いたから、ビアンカに言われたとおり儀式用の水槽に触れただけだが」
不思議そうにしているセプトに、ニッと笑う。
「あの聖水には、微量の毒が含まれます!」
「毒だって?」
「えぇ、それはそれは甘美な毒です。まぁ、それで幸せになれるなら……安いものですよね!本来なら、男性側も飲むべきだというのが、私の意見ですけど!」
「なんだ、その毒とは……仮にも妃になるものの儀式で」
「惚れ薬ですよ……本当に、やめてほしいですよね!私には、魔法の効力もあるし、色々効かないので構いませんが!」
「惚れ薬だって?」
「えぇ、そうなんですよ!恋にやぶれた私には効きません!」
微妙な顔をして、三人が見合わせている。婚約者の前で、私は恋をしませんから!と宣言したようなものだから、視線を交わしているのだろう。
「……水槽が割れたのは?」
「魔法の効果があったからです。使えない場合、あれを上から出ないといけないんですけど、それも含めての儀式なんですよ!水に浸かれば浸かる程、効果絶大な毒に侵されます」
「ビアンカは一瞬だったから、なんともないのか……?魔法、恋に……惚れ薬……それは、残念なような気もする」
少し、肩を落とすセプトだが、対象となる私にしてみれば、たまったものではない。
思い返せば、あの聖水のおかげで、私は狂ったともいえよう。恋に恋する幼気な女の子が、本格的に逃げられないように惚れ薬を体に取り込んでしまったのだ。あのときは、後戻りすることができなかった。
何もあんなクズ王子を好きになる必要もなかったのだから。今更ながら腹立たしささえ湧いてきた。
「儀式も終わったので、帰りましょうか?」
「あぁ、ビアンカは着替えが待ってる。その薄着では、さすがに風邪をひきそうだ」
私は、セプトにエスコートされ、部屋に連れて行ってもらう。
今日の儀式後に両陛下との晩餐があるのだが、それに出ないといけない。
「儀式は、まだ、他にも意味があるのか?」
「えーっと、ようは、王族となるのだから、王子か、王になった人を支えましょう!っていうのを、教育ではなく、裏切らないように聖水の効果を体に取り込ませるのが1番の目的です。他の王子たちの妃たちを見たらわかると思いますけど……」
「確かに、兄上たちの妃たちは、常に兄上たちにピッタリ寄り添っている」
「心変わりしないよう、体の中に聖水を通して惚れ薬を取り入れた上に刻印されるわけですよ!」
「あの、その刻印とは……なんでしょうか?ビアンカ様には、2つあるということですか?」
ニーアに聞かれて、微笑む。
何を意味するのかは、セプトもカインもわからなさそうだ。
「私は、この毒は効かないの。だから、刻印はないの。だって、そうでしょ?私にあったらおかしいでしょ?」
「その刻印は、ビアンカ様の体のどこかに現れるのですか?」
「えぇ、体のどこかには。そのときは、その場所が熱くなるからわかるけど、何もないのよ。前のも消えていたのは、確認済みだし!」
三人が私を見て不思議そうにする。
立ち止まって、長い豪奢な金髪を左側に寄せた。
「ビアンカ様っ!」
ニーアは、うなじを見せたことで、叫んだが、まさにその場所にあったのだ。
「うなじにアマリリスの花の刻印があったの。今はないわ!王子の命令で、首が落ちてるのに、刻印なんてあったら、おかしいわよね?」
さぁ、行きましょう!と私はセプトの私室へとスタスタと向かう。
呆気に取られているセプトとカインを置いて、ニーアに案内される。
「ニーアは、お城のことをよく知っていて?」
「メイドでしたので、居住区については、熟知しております」
エスコートをしてくれない男性たちも、先に歩いていた私とニーアに慌てて追いついてきた。
「ビアンカ!」
「どうかして?」
「何故、今回の刻印が現れないんだ?」
「これはあくまでも仮説ですけど、まずは、魔法を使いました。あと、1度目の刻印で、王族認定されたんじゃないですかね?王族には、先程も飲んだ方がいいと言いましたけど、聖水の効果がないんですよ!」
「……効果がない?」
「そりゃそうでしょ?毒を盛った方が同じ毒に侵されているだなんて、ミイラ取りがミイラになるみたいなものですよね?それに、世継ぎをと考えたとき、一人の妃に問題があった場合……困るでしょ?」
なるほどと頷くセプト。
カインはどことなく笑っている気がする。苦笑い的なものではあるが。
「だいたい、刻印に関してはよくわかってないことも多いのです。相手の王子よって、刻印も変わりますし。だから、私見としか言えないのですよ。刻印に関しては、夫となる人しか本来知らなくていいことですしね。私の場合は、見えるところにあったから、厄介だったんですけど……」
「それは、どうしてですか?」
ニーアに聞かれたので、答えることにした。
「うなじにアマリリスの刻印が現れてしまったから、首周りの開いたドレスとか、髪を上げてしまうような髪型とかは出来なかったのよ」
「それでも、化粧か何かで隠せなかったのか?」
「そう思うわよね……普通」
「あぁ、普通ならな」
「実際やってみたの。当時の侍女にお願いして」
「どうだったんですか?」
「刻印のところが、どんなに隠してもほんのり光るの」
「光る?」
「そう。まるで、誰のものかと主張しているかのように」
へぇーっと頷くセプト。
自身の妃となる私に刻印が現れなかったのは、実は問題があるのだが……そこはなにも言わないで置く。
なくても、妃にはなれるからだ。私が知る限り、刻印なしの妃が一人だけいた。
「私はすでに大々的に婚約者だって国内外に知られていたから、別に刻印を隠す必要もなかったのだけど……王子の想い人……アリーシャが現れてからは、隠す様に言われたのですよね……」
「なんて王子だ。ビアンカほどの令嬢なんて、そうそういないだろ?」
「そういっていただけて、光栄ですわ!」
セプトに微笑むと、あぁ、思ったことをだな……とボソボソと言っていた。そんな風に言ってくれたのは、兄くらいだったので嬉しい。
「ビアンカ様、こちらが殿下の私室でございます」
「ありがとう、ニーア」
「では、早速お着替えになりますね!」
扉を開くと、とても美しい所作の侍女が、セプトの帰りを待っていた。
「おかえりなさいませ、殿下」
「あぁ、アリエル。今帰った。そうだ、改めて紹介しておこう。ビアンカ、こちらに」
セプトに呼ばれ、隣に並ぶ。
綺麗な侍女に私は微笑んだ。
「ビアンカだ。よろしく頼む」
「はい、殿下。初めまして、ビアンカ様。私、王宮侍女でアリエルと申します。殿下専属の侍女となっております」
少し年かさの侍女であるアリエル。私の微笑みに応え、挨拶してくれる。専属侍女かぁっと彼女を見つめた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。えっと……」
わざとらしく、名前を呼ばなかった。すると、アリエルが、微笑んだ。
「アリエルとお呼びください。殿下の妃になるお方です。ご用向きがあれば、なんなりと……」
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