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Ⅰ・日常の終わりと初恋

2・私の名前は『リディア』なのに…

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始まりはそう、いつもの様にレヴィに勝負を言い渡してテストの結果を一緒に見に行った…あの日だった。
今思えば、その日の掲示場はいつもより騒がしかった気がする。
多くの生徒が、歩いてくる私のことを眺めながら囁き合っていた。

―なんてことない。些細なことだ。

と私は思っていた。
公爵令嬢として…いや、レヴィン王太子殿下の婚約者として、陰口なんて蟻の一匹よりも気にするに足らない日常のことだ。だから、私はいつもの様に気づかないふりをしながら原因を考えていた。

―レヴィが500点の満点を取ったとか?
―あぁ、ゲイルが100点を超えたのかもしれない。
―もしや、ケビンが10位を落ちたとか…?

―嗚呼。もしかしたら、私が一位になったのかもしれない!

色々なことを考えながらも、私はそんな淡い期待を抱いていた。
…そう。結果を見てしまうまでは。

「…………え」

フワフワとした甘い期待は順位表を見た時に、打ち砕かれた。


・・
・・・
・・・・

一位:レヴィン=ライザック ・497点
二位:アリア=ミュール   ・495点
三位:リディア=アスアルト ・483点
  
・・・・
・・・
・・


「ど…して……」

口を突いて出たのは疑問の言葉だった。
『アリア=ミュール 495点』
その文字が私の頭の中を支配する。

どうして、私の名前は『リディア』。
どうして、私が三位なの?

どうして…どうして……どうして……。

グラグラと床が揺れるような感覚がした。
どうして…。
どうして?あんなに頑張ったのに…。
レヴィにだけじゃない、この前転校してきたばかりの〈元・平民〉に負けているの?

私は公爵令嬢として、ずっと英才教育を受けてきたのに…。

「……すごいな……」

ポツリと隣から声が聞こえた。
聞き慣れた、甘く艶やかな低いテノールは顔を上げるまでもない。レヴィのものだ。

(―すごい、か)

一度も彼から言われたことのない言葉。
彼と比べられて育った私が、誰からも言われたことのない言葉。

それを、彼女は言われている。

言いようのない怒りと悲しみ、虚しさがリディアを支配した。

―ココにいてはいけない。

僅かに残った理性で、リディアはその場を離れていった。
彼女の足元に、一滴の水跡を残して。



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