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第3章 古の創造竜

第3話 エグゼと大隊長たち

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    昼はとにかく進み、夕方の早い内から夜営の準備に入り、訓練をする。
 エグゼ、アーニャ、ビスタ、ハピナに数名の人間の隊員。


 総勢で10人からなるパーティーは、せっかくの実戦経験も詰めるこの機会に、隊長クラスの人員を一緒に連れてきていた。
「長物相手に、そんな体捌きで懐に入れると思うなよ!」


 ぺし、と木で出来た槍で頭を軽くはたくビスタ。
「まだまだ、剣に振り回されてるね。もっと細かく、一撃一撃を丁寧に振るんだ」


 脇があいている、と隙が出来た部分にエグゼの木剣が飛ぶ。
「全員、素振りからやり直し」
「「はいっ」」
 その間に、アーニャと一緒に夕食の準備に取り掛かる。


「エグゼもちょっと前まで激弱だったのに、ずいぶんと言うようになったな」
「それは言わないでくれよ。僕も柄じゃないとは思っているんだ」
 苦笑しながら、薪に火をつけるエグゼ。


 エグゼが剣聖と同じ実力に立てたのは、鎧のおかげだ。
 鎧に施された魔法付与。それは、前任者の技術を、後任者に受け継がせること。


 そして、この鎧は代々剣聖にのみ受け継がれてきた。
 歴代の剣聖すべての技術を、今エグゼは体得したことになる。
「肉切れたよ~」
 具材を切り分けていたアーニャが戻って来た。


 10人分の料理となると、結構なものになる。
「こういう時、ソウマがいると楽なんだけどなぁ」
 ソウマは料理の腕前もプロ級だ。
 長旅用の保存食から、驚くほど美味しい料理を作り出す。


「材料は同じなはずなのだが、何が違うのだろうか…」
 アーニャと同じく、余り料理が得意ではない女性陣である。
「一度、ソウマの持ってる荷物を見せてもらったことがあるけど、調味料と香辛料ばかりだったよ」


 回復薬や薬草などはほとんどなくて、見たこともない瓶がたくさん入ってるのを思い出した。
 エグゼも料理はからきしである。
 三人で何とか試行錯誤して、それなりの煮込み料理を作ることが出来た。


「明日には、途中にある村で、食材も補給しないとね」
 馬車の中にある食料では心もとない。
 エグゼたちの想像以上にみんなの食欲は凄まじかった。


「なんなら、私が卵産んでもいいすっよ」
 あたりを偵察していたハピナが帰ってきた。
「な、なんかちょっと食べるのに抵抗がいるなぁ」
 あはは、とアーニャが笑う。


「無精卵ならどうって事ないっすよ、美味しいっすよ?」
「10人分、産めるのか?」
「うっ、確かに全員に行き渡らないっすね……」
 残念そうにハピナがうな垂れる。


「ハピナって、伝令役してるときと印象かわるよね」
 アーニャが突っ込む。
「キャラ作りは重要っすよ!最初によくキャラ付けしてなかったどっかの誰かさんがいけないっす!」
 誰とはいわないが。 


「「「素振り100回出来ました!」」」 
 残りの隊員も三々五々帰って来る。
「明日は途中にある村によることにしよう。できれば、食料と水の補給をしよう」
 この村は、まだソウマもいったことない村である。


 どこにも属していない村だといいが、もし親『トール・ド・ルート』の村だったり、ミハエルの息のかかった村だったりすると食料なども買えないかもしれない。
 みんなで料理を平らげ、交替で晩をしながら夜はふけていく。





 そして、翌日。
「というわけで、食料を買わせて頂きたいのですが…」


 村の長の所に、エグゼとビスタはきていた。
 宿は快く借りることができたので、このまま食料も……。とは行かなかった。
「私らも重税で苦しんでおりましてな、この村は、貨幣ではなく、食料の納税なのですよ。毎年、自分らが暮らす分もひねりだすのがやっとです」
 と村長が語る。


「水ならお譲り出来ますが、食料だけはなにとぞ、ご勘弁を」
 ここは交渉のし所だろう。
「なら、我々『メリクリウス』に力を貸していただけませんか?この村は、ラーズの町に行くために、非常に便利です」


 実際、平和だった聖エルモワールの統治下では、この村も宿場町として栄えていた。
 しかし、ミハエルが王になり、魔物の討伐をしなくなり、危険が増したせいで旅人は激減。


 さらには貨幣でなく食料による税の取立てで、もともと食料事情のよくなかったこの村はどんどん衰退していったのだ。
「この村に駐屯兵を置き、魔物の討伐とミハエルの手のものを倒します。そして、また昔の様にここを宿場町として、栄えさせましょう」


 と。
 村長はエグゼの顔を見る。
 この男に、それだけの力量があるのか。それを見極める為に。
「貴方を信用しないわけではありませんが、その実力が本当にあるのかどうか、示してもらわねば、我々としても安心できません」


 村長の言うことももっともだ。
「では、どうすれば信用していただけますか?」
「……。この村は、ミハエル様の使いが仕切っている、オークの集団に食料の多くを献上しています。そいつらを倒して頂けたら、そのときはお力をお貸ししましょう」


「オークに、多くを、か」
 満足げにビスタがうなずく。
「分かりました、お任せください」
 十中八、九造魔が絡んでくることだろう。


 しかし、今回つれてきた隊長クラスなら、並みの造魔なら倒せることだろう。
「ここを駐屯地として『メリクリウス』傘下に治めたい。そこで、近隣にある、ミハエルの息のかかった、オークを退治することになった」


 事情を部下たちに説明して、少し寄り道をすることになった。
「多くのオークが…」
 と呟くビスタ。どうやら気に入ったらしいが、もういいよ。
「でも、この村に駐屯できない僕とビスタが退治しても意味がない」


 ビスタの呟きを無視してエグゼが話しを進める。
 エグゼとビスタ抜きでも、ここを守ってもらわなければならない。
「そこで、僕たち抜きでオークたちを退治してもらいたい」


 隊員たちに動揺が走る。
「そうやって、協力してくれる町や村を増やしていかないと、ミハエルとの最終決戦には勝てない」
 ビスタが何事もなかったように話に戻って来た。


 そしてこの村が落ち着いてきた暁には、少しでも税金を『メリクリウス』に納税してもらうようにすれば金銭面でも助かる。
「やってやるっすよ! 私たちも、ただただ扱かれてたわけじゃないって所を見せてやるっす!」 


 と、ハピナが鳥胸を叩く。
「ありがとう、ハピナ。そしてこの中の誰かから、駐屯長を選ぶことになると思う」
 オークの群れも手ごわいが、もっと恐ろしいのは,造魔の存在だ。


 最悪、エグゼとビスタの出番もあるかも知れない。
「膳は急げっす。私は、オークがどこに群れを作っているか、偵察に行ってくるっす!」


 やっとキャラが定まったハピナはやる気満々だ。
「俺も一緒に行こう。簡単な斥候なら、得意なんだ。地図も簡易だがつくろう」


「じゃあ、俺たちは武具と装備の点検だ。足りないものはここで買い足さないといけないしな」
「私は矢を作るわね。ハピナの抜けた羽もとっておいたの」


 エグゼたちが指示しなくとも、みなテキパキと役割分担をしていく。
 こうして、斥候とハピナは出かけて行った。
 あるものは武具の手入れ。
 あるものは装備の買い足しに。
 村で食料が到達できない以上、食料も自分たちで手に入れなければならない。


  そのため、動物を狩りに行く部隊も結成された。
「私たちがいなくても、大丈夫そうだな」
 各々が出来ることを精一杯やっている。


「私なんか、もっとやることないよ……」
 非戦闘員のアーニャは、こういうところでは役に立てない。
 それは非常にもどかしく、最近は弓の練習もしているそうだ。


「エグゼ殿、報告を」
「うん」
 ワーウルフの隊員、ジェイクが話し合いの結果を報告しに来た。
「決行は、明後日の早朝、見張りも一番だれる時間帯に行います。それまでは、斥候に力を注ぎ、敵の兵力や、罠の有無を確かめたいとおもいます」


「分かった。この村の娘さんが何人か捕まってるみたいだけど、その人たちはどうするつもりだい?」
「もし一箇所にまとめられているなら、そこに固まっていてもらった方が安全かと。ですが、人質の命は最優先にしたいと思っております。最悪、一度出直すことも考えています」


「出直すことになったら、相手も次は死に物狂いで反抗してくると思うよ?」
「それでも、です。俺たちがやらなきゃいけないのは、この村の方たちに信用してもらうことです。そのためには村人の犠牲は一人たりとも出してはいけないと考えています」


「よし、分かった。期待してるよ、ジェイク」
「はい、ありがとうございます」
「でも、もしかしたら、オークたちとも、話し合いの場をもてるかも知れないことを忘れないで欲しいんだ。造魔が恐怖で彼らを支配していることもありえるからね」


「なるほど、自分たちではそこまで思い至ることが出来ませんでした。ありがとうございます!」
 人間と魔物の共存を目指す『メリクリウス』だ。


 話し合いの出来る種族なら、出来る限り交渉して、こちら側につけたい。
 魂のない造魔は別として。
「斥候一時部隊、ただいま帰ったっす」
 ハピナと、斥候の人間、ダビデが帰ってきた。


「敵の居所は、ここから役10キロほど北に行った、山の麓の小さな森っす。そこに、小屋を立てて、一つの村を形成してるっす!」
「見たところ、罠は致死性の物はなく、鳴子程度だと思われます。村の中まで罠は仕掛けてないとは思います。一番厄介なゲリラ戦は回避できます」


「明日は、敵が何人規模なのか、人質がどこにいるのか、突き止めたいっす!あとは、アーニャさんに来てもらいたいっす」
「私に?」
 アーニャが驚いた顔をしている。


「そうっす!敵の内、造間がどれくらいいるのか、把握しておきたいっす」
「足で纏にならないように、気をつけます!」


 アーニャも自分の出番があると分かって、すこしモチベーションを取り戻したようだ。
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