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第2章 剣聖の魂

第14話 神剣聖・ラファエラ

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「な、なんだ!?」
 ソウマが叫ぶ。
「撤退だ!一般兵は急ぎ撤退を!!」
 ビスタが叫ぶ。
 それは懸命な判断だ。 
 こんな化け物、相手に出来るのは、ソウマ、エグゼ、ビスタくらいだ。


「伝令です!あれは『神魔』です! そして、最悪の鎧を装備しています!」
 空より、ハピナが、アーニャからの伝言を伝える。


「最悪の鎧だと!?」
 言って駆け出すソウマ。
 ダークエルフがソウマのほうに向く。
 再びダークエルフが上段に構える。
「食らうかよ!」 
 衝撃破を避け、上空に舞い上がるソウマ。


「『深淵流・砕破』!」
 渾身の力を両足に込める。
 多いなる空の膂力を込めた一撃が、ダークエルフの胸に叩き込まれる。
 激しい音がして、地面がえぐれる。


「これでどうだ!?」
 しかし、クレーターから何事もなかったかのように歩いて出てきたダークエルフは、鎧についたほこりを手でぱっぱっと払う。


「あれでノーダメージかよ」
 鎧にもエルフにも、傷一つ着いていない。
「あれは、母さんの……」
「あれの鎧は『剣聖』……」


『剣聖』に受け継がれる、ラルファリオンと呼ばれる希少な金属から作り上げられた鎧。
「なぜミハエルの元にその鎧がある!」


『お久しぶりですね、エグゼ君、ソウマ君。はじめましてお嬢さん。私がミハエルです。お見知りおきを』
 エルフの見た目はそのままに、声だけはミハエルのしゃがれ声だ。


『エグゼ君には良い物を頂いてしまいましたよ。あの森で、ね』
 あの森。  
 それは、ツクヨミに会うための宝玉を手に入れた森の事だろう。


『あそこには、とあるエルフが住んでいたみたいで、そこにこの鎧が保管されていたんですよ』
「まさか、あの家に…」


 うかつだった。まさか、あのアイテムを母がまだ所持していて、あの家のエグゼすら知らない場所で保管していたとは。


『ただ希少金属で出来た防御力高い鎧ではありません』
 コン、とダークエルフが見せるように鎧を叩いてみせる。


『とある魔法が付与されています。』
 再び剣が振るわれる。
 剣風がエグゼたちを襲う。
「ちっ!」
 ソウマが放った『深淵流・風鎌拳』を放つ。


 真空刃には真空刃を。
 相殺された見えざる空気の刃はぶつかり合うと、衝撃波を撒き散らしながら対消滅した。
「あいつ、トンでもなく強いぞっ!   気をつけろっ!」


 ソウマが叫ぶ。
 ここまで余裕のないソウマは見たことがない。
「それはそうだろう。史上最強の『剣聖・ルーシア』だからな……」


 武器を切り裂かれたビスタが、新しいハルバートを手にして、油断なく構える。
 それは神槍が持っていた魔水晶の槍であった。
「くそ、あの森の奥に、母さんのあんな遺品が残っていたなんて」


 母とは別人だ。だって母はこの手で……。
 それは分かっていた。そもそも母はダークエルフではない。
 しかし、その太刀筋は、あまりによく似ていた。


『そうですね。最強の剣士の能力をそのまま有しています『神剣聖・ラファエラ』とでも名づけましょうか』


 『神剣聖・ラファエラ』と名乗ったダークエルフは、そのまま超神速で、エグゼに切りかかる。
 思考加速で、間延びしたはずの世界でも、その速度は揺るがない。
「ぐっ!?」


 ぎりぎりで剣をあわせる。敵のその手には、先程殺した『剣神・ダムド』の『至高の魔水晶の剣』が握られていた。
『ちょうどよい剣も手に入れられましたし、いい勝負ができそうですね、エグゼ君』 


 鍔競り合いながら、言葉を交わすミハエル。
 単純な腕力でも、エグゼを上回っている。
 かろうじて受け流すと、返す刀で切り上げる。


 紙一重でラファエラはよけると、無造作に剣の柄で殴りつける。
 あまりの威力に、のけぞるエグゼ。


 体勢を崩したエグゼに追い討ちをかけようとしたところで、左ソウマ、右からビスタが攻撃をしかける。
 その完璧な不意打ちとて、ラファエラには読まれていた。


 左右の完全な死角からの攻撃をいとも簡単に防御して見せた。
 しかし、その隙を逃すエグゼではない。
 鋭い刺突が、ラファエラの心臓を穿つ。
 が。


 その会心の一撃も、強固な鎧にはじかれた。
「ばかなっ!?」
 まさに魂を削る思いで鍛え上げられた『大いなる精霊王の剣』。


 それが貫けぬ鎧があるとはっ!
『さすが、『剣聖・ルーシア』が残した鎧。防御力も伝説級ですね』
 それではない。
 遥か昔に死んだはずの剣聖の技を、なぜ今このダークエルフが使えるのか。


 それが気がかりだった。
 三者三様、様々な攻撃を繰り出すが、全てかわされ、受けられ、流された。
 エグゼとビスタが一撃で吹き飛ばされる。


 ソウマだけがかろうじて、対等に渡り合えていあ。
 ソウマが最前線で戦い、その隙をエグゼとビスタが縫うように攻撃をあわせる。


 しかし、ラファエラの一撃は重い。 
 エグゼは剣を受け、吹き飛ばされ、ビスタは何度も地面に転がった。
 ソウマもかわしてはいるが、かすっただけで致命傷になるだろう。
「ちっ!ラチがあかない!」


 ソウマは大きく飛びのくと、渾身の力を両の手に込め、吼える。
「『我が一撃よ、最強の矛となれ!』」
 大地と大気が震える。目に見えぬ、巨大な力が、ソウマの両手には込められていた。


「『深淵流絶技・激震』っ!!」
 神速の拳がラファエラに迫る。
 エグゼの思考をもってしてもすべてを見切ることは出来なかった。
 最初はかわしていたラファエラも、徐々にかわし切れなくなっている。


 目にも留まらぬその拳は終わることなく、無数の流星のように降り注ぐ。
『馬鹿なっ!?』
 そのスピードはさらにまし避け切れなかった拳を、剣で迎え撃ち打ち落とす。


「無駄ぁっ!」
 ぴきっ、と何かが割れるような音の後。
 稀代の名剣が砕け散る!


『素手で魔水晶を砕くなど!?』
 魔水晶自体はそう固いものではない。しかし、魔法力を有してる際には、最硬を誇るラルファリオンをも上回るという。


 その魔水晶を砕くということは、魔水晶に蓄えられた魔法力を全て使い切ったことになる。


 剣を砕いてもなお、止まらない拳撃は、そのまま無防備になったラファエラにも突き刺さる。
「どうだ!」


 さすがのソウマも肩で息をしている。
 そして、その両手からは血が滴っている。
 魔水晶だけではなく、地上最も硬い鉱石で作られた鎧を全力で殴りつけたのだ。
 無事であろうはずがない。


「あの男は本当に人間かっ!?」
 味方のビスタもが驚愕する。
 魔力の通った魔水晶を人間が素手で砕くなど聞いたことがない。  


『いい攻撃でした。さすがの私もひやりとしましたよ』
 しかし、それでもなお、ラファエラはで立っていた。


『この剣が砕かれるとは……。とはいえ、この鎧は砕くことが出来なかったみたいですね』
 確かに、鎧は砕けなかった。
 しかし、鎧で護られていない部分は無事ではすまなかった。


 手も足も、ありえない方向に曲がっている。
 見た目にも、勝敗は明らかだった。
「そんなにやられて、何を言ってやがる!勝負は着いたぞ!」


 ソウマが叫ぶ。
『おや、失礼。しかし、肉体が砕かれなければ……』
 ラファエラが何かつぶやくと、一瞬のうちに傷が元にもどったではないか!
「そんな……。まさか、魔法なのか?」


 エグゼがつぶやく。
 『黒いカーテン』が展開されてから、魔法力は等しく、全ての者からなくなったはずだ。
 それを、ミハエルだけは使えるとでも言うのだろうか?


『ふむ、まだ『黒いカーテン』なぞは解いていないみたいですね。まだ、秘密といたしましょうか』
 その口調はいかにも楽しそうだ。


 戦いは振り出しに戻る。
 いや、こちらはソウマが腕を使えなくなった。 
 ラファエラは剣がなくなった。
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