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 時刻は深夜。私は店内で放心状態だった。もう、何も考えたくなかった。
 翼ちゃんと猫ちゃん。二人との絆は偽物だった。そう思うと悲しくなってくる。
 もう、何もかもどうでもいいと思った時だった。ふと、カウンターの上に置いてある封筒が目に入った。そういえば、封筒には、まだ何枚か紙が入っていたことを思い出す。
 中身を確認すると、そこには0のたくさん書かれた小切手と、怪盗ウインドキャットのカード。写真が一枚入っていた。
 この店の改装工事が終わった直後だろうか。店の前で私を真ん中にして二人が左右に立っている姿が写っていた。満面の笑みを浮かべている二人に挟まれて、ぎこちない笑顔を浮かべている自分の姿があった。

 そうだ。この顔だ。二人とも黒髪で可愛い顔立ちの。翼ちゃんはちょっとおっとりした顔で、白いワンピースを着てて。猫ちゃんは活発そうな少し凛々しい感じの顔で、どこの学校のものかわからないけど赤っぽい女子の制服のブレザーを着てて。
 ああ、思い出したぞ!この二人は本当にいい子だったんだ!それなのに、なんで忘れていたんだろう?どうしてこんなにも悲しい気持ちになるんだろうか?二人との絆が偽物なわけがない!!
 私も、怪盗ウイングキャットの一員なんだ!魅了された?それはもう解けているはずだろ!今の気持ちは本物だ!! 自分を叱咤激励するように言い聞かせると、私は立ち上がり店を出た。向かう先はあの時計店。あの女性には探す手段があるはずだ。

 時計店の裏口に到着すると、私は迷わずドアを開ける。鍵はかかっておらず、すんなりと開いた。
「出てきてくれ!話がしたい!」
 大声で叫ぶと奥の部屋から例の女性が現れた。相変わらず赤いドレスのような服を着ており、妖艶な雰囲気を漂わせている。
「あら、さっきぶりね。まさか来るとは思ってなかったわ」
 驚いた様子もなくそう言う彼女に私は詰め寄った。女性の後ろから店主があわてて来て間に入る。
「魅了は解けたんだよな?でも、私は思い出したぞ。あの二人の顔も!声も!」
 必死の形相で問い詰めてくる私に対して彼女は冷静に答える。
「そうね、確かに魅了の効果は消えたわよ」
「だから、あの二人の行方を探してほしい。どこにいるんだ?」
「二人?あの子の他にもいるの?」
 首を傾げる女性に私は頷く。それを見た彼女は納得したように頷いた後、こう言った。
「いいわよ。探してあげる。私を手伝ってくれるならね」
「本当か!?ありがとう!!」

 感謝の言葉を口にする私を制して彼女は続ける。
「初めに言っておくけど、私はあの子の敵側よ。オオカミと蛇は私の国のシンボルなの。あの子の国が勇者を召喚してまで滅ぼそうとした国のね」
 その言葉を聞いて固まる私を無視して彼女は話を続ける。
「あの子は自ら進んで生贄になったの。勇者を召喚して私の国を亡ぼすためにね」
「……なんだって……?」
 理解が追いつかない私に構わず話は続く。
「まあ、それも昔の話なのですけどね。もう戦争は終わったの」
「じゃあ、なぜ翼ちゃん達を探しているんだ?」
 混乱しながらも質問をすると、彼女はこう答えた。
「こちらの世界と向こうの世界を繋げてる人が何人かいるの。その人たちを送り返すのが私の目的よ」
「世界を繋げている……?」
 意味がわからず聞き返す私に女性が答える。
「繋げているでしょう?こちらの世界から向こうの神に魔力を送っているんですもの」
 それを聞いてようやく理解できた。翼ちゃんが世界を繋げてるってことか。
「そのつながりを断ち切らないと、また勇者が召喚されてしまいますの。たまったもんじゃないでしょう?」
 その言葉に頷くしかなかった。なるほど、それで翼ちゃんを探していたのか。納得しつつ、もう一つの疑問を口にした。
「それで、どうやって送るんだ?方法はあるのか?」
「ええ、あるわよ。そのためには魔力が必要なの。だから私は魔力を集めていたのよ」
 なるほど、そういうことだったのか……。
「だから、私があの子を見つけたら元の世界に送り返す。これは絶対よ。それでも私に探して欲しいの?見つけてもあなたと別れることになるのよ?」
 念を押すように聞いてくる彼女に私は迷いなく返事をした。
「ああ、もちろんだ!よろしく頼む!!」
 それを聞いた彼女は満足そうに微笑んだ。
「わかったわ、それじゃあ今からあなたは私の仲間よ。色々と手伝ってもらうわ」


 こうして私は彼女と共に行動することになった。彼女の手伝いしながら、喫茶店を続けている。
 もし、あなたが二人を見かけたら、あの喫茶店で待っていると伝えて欲しい。
 いつまでも、待っているから。
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