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 一時間ほどでドアの修理が完了した。直ったばかりのドアを開くと、チリンチリンといつもと同じドアベルの音がする。これでようやく元通りになった。
「いや、綺麗に直りましたね。どうもありがとうございました」
 工務店の男性に代金を支払うと帰っていった。見送った後、扉を閉めて鍵をかける。これで明日から普通に営業できるぞ。
「やっと終わったねー」
 猫ちゃんは伸びをしながら言った。
「そうだね、お疲れ様」
 私は二人に労いの言葉をかけると、翼ちゃんが真顔で言う。
「でも、怪盗から物を盗むなんて許せないよね。犯人はあの偽刑事たちでしょ?」
 あ、やっぱり翼ちゃんもそう思ったか。私もそうじゃないかと思ってる。
「たぶんそうだろうね」
「ここを見張ってる刑事、役に立たないじゃん。何の為に張り込んでるの?!」
 猫ちゃんが怒るのもわかるけど、彼らはここに客として来ていた偽刑事が来ないか見張ってるだけだから、店が閉まってる時は見てないだろうからなあ……。もうあの偽刑事も来てないんだし、正直言うと、どっか行って欲しい。

 奥の部屋のパソコンを新しいノートパソコンと交換して、使い勝手を試してみることにした。マウス操作が慣れない。今まで使ってたマウス繋げれば使えるかな?
「そういえば二人はパソコン使わないの?」
 私はふと疑問に思って聞いてみたのだが、意外な返事が返ってきた。
「あー……私、あんまり機械得意じゃないから。動画とか見るだけなら大丈夫なんだけど」
 翼ちゃんは申し訳なさそうに答えた。あれ?そうなのか?意外だなあ……。てっきり何でもできるんじゃないかと思ってたけど違うんだ。
「私はパソコン弄るとなんか勝手に壊れちゃうんだよね」
 これはなんとなくわかる。猫ちゃんは壊しそうな感じがする。
「おじさん、今、失礼なこと考えてない?」
 いや、別に何も?ただ、その勘の良さは凄いと思うよ?
「いやいや、そんなことないよ」
 慌てて否定するが疑いの眼差しを向けられるだけだった。

 今日のところは解散することになった。現在の時刻は15時を回ったところ。普段よりだいぶ早い時間だ。二人を駅まで送ってから、本屋に寄って帰ることにした。この前翼ちゃんに買ってもらった本が結構参考になったので、同じようなのは無いか探してみるつもりだ。
 本屋といったけど、この店は中で区切られていて、テレビゲームやお菓子、パソコンの周辺機器やテレビなども売られている。ふと、怪盗という言葉が聞こえたのでそちらの方に向かった。そこには大きさの違うテレビが数台並んでいた。
 その中の一つがニュース番組を映していた。アナウンサーらしき男性がニュースを読んでいるところだった。画面に映っているテロップには『怪盗現る?!』と書かれている。ああ、そうか。これ、昨日の宝石展示会のやつだ!
 映像が流れると、女性レポーターたちが宝石展示会の建物の前にいる様子が映し出される。何人か普通に人が出入りしてる様子から、展示会は中止にはなっていないようだ。
 そこで画面が切り替わると今度は別の女性が映る。あの展示会の主催者にして宝石の持ち主のようだ。女性はインタビューを受けていた。大層お怒りの様子。
「本当に信じられません!せっかく手に入れた大切な宝物ですのよ?!それなのに盗まれるなんて!!絶対に許せませんわ!!」
 まあ、そりゃそうだよなあ……私だって店を荒らされたのは悲しかったし……。でも、明日には宝石が届けられると思うから勘弁してほしい。
 いつまでも見ているわけにもいかないので、目当ての本を探しに行くことにした。

 本屋の帰り、コンビニに寄っていくことにした。今日は何も作る気にならなかったので適当に弁当でも買って帰ろうと思ったのだ。
 中に入ると入り口に置かれた新聞に目が行った。折りたたまれた新聞には『怪盗』の文字がでかでかと書かれている。一部買っておくか……。そう思って手に取って店内を物色する。
 カップ麺もいいなあ、毎日はあれだけど、たまに食べたくなるんだよね。そんなことを思いながら棚を見ていると、一人一個までと書いてあるポップが目に入った。見るとカップ麺の味噌ラーメンだった。値段を見たら300円もする。高いな……。個数制限してるってことは人気があるのだろうか?最近はカップラーメンでも300円もするんだなあ。昔は100円で買えたのになあと思いながら棚に戻して弁当コーナーに移動した。
 おにぎり二つと唐揚げとペットボトルの緑茶をカゴに入れてレジに向かう。会計を済ませて外に出ようとしたところで、ふと、雑誌コーナーで立ち読みしている人に目が行った。あれ?あの人って……まさか……?
 近づいてみるとやはりそうだ。最近じっくりと確認した顔なので見間違えようもない。まさかこんな所で会うとは思いもしなかった。向こうはまだ気づいていないようなのでそっと後ろに回りこんでみる。そして思い切って声をかけた。
「こんにちは」
 私が声をかけると彼は驚いた様子で振り返った。
「うわっ!?びっくりしたぁ……」
 そこにいたのは間違いなくあの男、時計泥棒だ。
「ここで何をしているんですか?」
 私が質問すると男は答えてくれた。
「えっ、いや、買い物に来ただけだよ?」
「そうですか……少し話しませんか?貴方とは一度ゆっくりと話をしてみたかったんですよ」
 私がそう言うと男は怪訝そうな顔をする。
「はあ?俺と?」
「ええ、そうです」
 私が頷くと男はうなずいた。
「まあ、いいけどさ……」
 私たちは連れ立って外に出ると、うちの喫茶店へと移動したのだった。
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