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しおりを挟む警察に電話して事情を説明したら、すぐに来るというので、店の入り口で待っていたらパトカーがやってきた。中から二人の警官が出てきてこちらに歩いてくる。そのうちの一人が声をかけてきた。
「連絡された方でしょうか?」
「はい、そうです。ドアがこんな感じに壊されちゃって……」
と説明すると彼はしげしげとドアを観察していた。もう片方は何か書いているようだ。
「ああ、なるほど。写真を撮ってもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
パシャリと一枚撮影されると、メモを取っていた警官が話しかけてきた。
「被害などは他にありますか?」
「はい、カウンターに飾っていた絵画が無くなっていました。それ以外は特に被害は無いかと思います」
そう答えるとメモを取っていた方が顔を上げて聞いてきた。
「ちなみにこのお店にはどのくらいお客さんが来るんですか?」
「平日ならせいぜい10人くらいですかね……土日になると30人は超えますけれど」
「従業員は何名ほどいらっしゃるのですか?」
今度は質問していた方の警官が聞いてくる。私はそれに答えた。
「アルバイトの子が二人ですね。今日はこの有様ですので帰ってもらいました」
そう言うとメモを取っていた方は何やら書き込んでいる様子だったけど、もう一人の方は考え込んでいた様子だ。
「では、これから店の中を拝見してもよろしいですか?」
断る理由もないので了承することにした。見られて困るようなものはないはず。
「無くなった絵画はどこにあったのですか?」
中に入るなり警官が訪ねてきたので、絵が置かれていた場所を指差していった。
「そこの壁に掛けてあったんですよ」
「……ふむ……どんな絵でしたか?わかる範囲で構いませんよ」
「えっと……厚手みたい布を腰に巻いた女性の絵で……たしか、牛乳を注ぐ女という題名の絵のレプリカだったかと……」
「金額はどれくらいしたのですか?」
「さあ……貰いものですので、詳しくはわかりません。でもレプリカですし、そんなにしないとは思います」
こんな店に一億の絵画があるなんて言ったら怪しまれてしまうので、適当にごまかす。
「なるほど、ありがとうございます」
それだけ言うと彼らは中を調べ始めた。しばらくすると調査が終わったのか、一人の警官が戻ってきた。
「ご協力ありがとうございました。あとはこちらで処理します」
そういうと敬礼をして去っていった。思ったよりあっさりしたものだったな。
昼過ぎになると、翼ちゃんと猫ちゃんが戻ってきた。二人とも両手に荷物を持っている。どうやら買い物に行ってきたらしい。それをカウンターの上に置くと、二人は椅子に腰かけた。
「おかえりー、随分買い込んできたねえ」
私が声をかけると、翼ちゃんは笑顔で答えてくれた。
「うん、いろいろ買ってきたよ!」
ああ、天使のような笑顔だ。癒されるわあ……。思わず拝みたくなってしまうほどだ。
それはそれとして、一体何を買ったのだろう?結構重そうだったけれど、何が入ってるのかな?
「なに買ったんだい?」
気になって聞いてみると、猫ちゃんが大きな長細い箱を渡してきた。
「おじさん、開けてみて!」
言われるままに開けると、そこには一台のノートパソコンが入っていたのだった。
「えっ、新しいの買ってきたのかい?」
驚いて尋ねると、翼ちゃんはニッコリ笑って頷いた。
「パソコンに何か仕込まれてたりしたら嫌だからね。交換しちゃおう!」
「初期化すれば今のパソコンも使えるんじゃないかなあ?」
「んー、わかんないからいいよ。面倒だし」
軽い感じで言う猫ちゃん。まあ、パソコンは私のものでも店のものでもない、怪盗ウイングキャットの調べもの用だから彼女たちの判断に任せるか。
そんな話をしていると、表から「すみませーん!」という声が聞こえて来た。そういえば業者さんが来てくれてたんだったな。時計を見るとちょうど約束の時間だったみたいだ。ドアを開けると、作業着を着た男性が立っていた。
「工務店から来ました。このドアの修理でいいですかね」
「はい、お願いします」
「それじゃあ早速始めますね」
男性は工具箱を地面に下ろすと、手際よく作業を開始した。見ているもも邪魔だろうと思って、私は店の奥に引っ込むことにした。
「二人とも何か注文あるかい?」
「私、アイスレモンティーとサンドイッチ!」「私も!」
「了解」
私はキッチンへ向かうと手早く二人分のサンドイッチを作る。そしてアイスレモンティーを作ってグラスに注ぐとお盆に乗せて持って行った。二人が待っているテーブルに置くと自分も席に着くことにする。
「はい、お待たせ」
猫ちゃんは目を輝かせながら食べ始めると、翼ちゃんもそれに続くように食べ始めた。
「おじさん、腕、上げたね。美味しいよ」
「ありがとう……」
翼ちゃんに素直に褒められると嬉しいもんだなあ……。ついつい顔が緩んでしまう。その様子を見た猫ちゃんが私に尋ねてきた。
「そんなに嬉しいの?にやにやしちゃってさ」
「そりゃあ、翼ちゃんは師匠だからね。褒められれば嬉しいよ」
「すっかり喫茶店のマスターが板についてきたね。これからも頑張ってね!応援してるからさ!」
猫ちゃんが励ましてくれる。最初は素人が喫茶店なんてどうなるかと思ったけど、やればどうにでもなるもんだな。
「……ああ、頑張るよ」
私は静かに決意を固めたのだった。
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