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この店は仲間になる条件として二人から貰ったものだ。それ以前にも喫茶店として普通に営業していた。その時は翼ちゃん一人でお店を回していたけど、さらにそれ以前は、別のマスターがいた。手紙にあった名前……本郷さんというらしい。
あの年配の男性は、本郷さんがやってた喫茶店の常連だった。翼ちゃんとは別の女の子が店を手伝っていたのだろうか?……などと考えていたら翼ちゃんが戻ってきた。
「ただいまー」
「おかえり、どうだった?」
「うん、やっぱりあの小包は本郷さんのものだったよ。あと、この手紙なんだけど、あの人が来たら渡してくれないかって頼まれたんだ」
そう言って翼ちゃんは私に封筒を差し出した。表にも裏にも何も書いてない、真っ白な封筒だ。
「わかった。今度来たら渡しておくよ」
私はそう言って受け取った。
それ以降は特に何事もなく時間が過ぎていった。閉店間際になり、最後のお客を見送ったところでドアにかかっている札をひっくり返し、クローズにした。そのまま二人で店の片付けを始める。と言っても、そんなに散らかってるわけではないのですぐに終わったが。
「それじゃ、今日は帰るねー」
「お疲れ様。気を付けて帰ってね」
「はーい」
店を閉めて翼ちゃんが帰ったあと、私も出かける準備をした。今から行けばまだ開いているだろう。そう思い、私は店を後にした。行き先は時計店だ。
目的地に到着し、中に入る。店の人は奥で作業しているらしく姿は見えなかった。私はレジの横に置かれた呼び鈴を鳴らす。チリンチリンと綺麗な音が店内に響いた。少しして、足音が近づいてきて、扉が開き、店の人が出てきた。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは。すみません、少しお尋ねしたいことがありまして……」
私は店主に挨拶した後、用件を伝えることにした。
「私、この先の喫茶店の店主をしているものですが、この辺りで盗難事件が相次いでいるのはご存じですか?」
「ああ、そういえば、前に警察の方が来ましたね。ええ、知ってます」
どうやら警察は既に来ていたらしい。あの偽刑事たちだろうか?
「実は私の店にも泥棒が入ったんですが、うちで働いてる若い子が泥棒を追いかけていって、この店の辺りで消えたと言ってるんですよね」
それを聞いた店主は少し驚いた様子だった。
「はあ、そうなんですか?それは怖いですね」
「はい、それで、ここに防犯カメラとか無いかと思ってお邪魔したんです」
「そうですか……ありますよ。いつ頃かわかりますか?」
「はい。たしか、四日前の15時くらいでしたね。大学生くらいの中肉中背の男性で、服はどうだったかなあ……」
思い出そうとするが、あまり印象に残っていない。
「すみません、よく覚えてないですね……」
「いえ、大丈夫です。すぐにはわからないので、後で調べておきますね。また、明日にでも来てください」
「はい、よろしくお願いします。それとですね、ここに来た警察の方って、スーツ姿の男性二人組で、一人が長身で眼鏡で、もう一人が小柄でがっちりとした体格ですか?」
私は気になっていたことを聞いてみた。
「……さあ、そこまでは覚えていませんが……どうしてですか?」
店主は不思議そうな顔で聞き返してきた。
「どうも偽警官がいるらしいのです。一応、伝えておこうと思いまして……」
それを聞いて店主は納得したようだった。
「そういうことでしたか……わかりました。気を付けるようにします」
「お願いします。それでは失礼します」
私は頭を下げ、店を出た。これで何かわかればればいいんだけどなあ……そんなことを考えながら帰路についたのだった。
翌日、いつものように喫茶店に出勤する。すると珍しくすでに翼ちゃんの姿があった。
「あれ?早いねえ」
「あ、おじさん、おはよー」
「おはよう。珍しいね、いつもお昼からなのに」
「えへへ、ちょっと早く目が覚めちゃってさ」
照れ笑いを浮かべながら翼ちゃんは言った。
「昨日はちゃんと眠れた?」
「うん、ぐっすりだったよ」
それなら良かった。
「じゃあ、今日もよろしくね」
「はーい」
そんなやり取りをしながら開店の準備をする。いつも通り開店時間を迎えた後、最初のお客さんがやってきた。カランコロンとドアが開く音がして、一人の男性が入ってくる。時計屋の店主だ。
「いらっしゃいませ」
「ああ、いたいた。おはようございます」
「あ、おはようございます。何か食べますか?サービスしますよ」
私は挨拶を返すと、カウンター席を勧めた。
「ご注文はお決まりですか?」
「ああ、コーヒーとトーストをお願いするよ」
注文を受けた後、早速調理に取り掛かる。しばらくして、出来上がった料理を男性の前に置いた。男性はコーヒーを一口飲むと、私を見て言った。
「昨日の話だけど、この人かな?プリントアウトしておいた」
そう言うと男性は書類封筒を取り出した。中には数枚の写真が入っていた。そこに写っていたのは紛れもなくあの男だった。写真を翼ちゃんに渡したら彼女も頷いている。
「ああ、そうです。この男です!」
「この野郎、うちの商品も盗んでやがった。調べなきゃわからなかったよ。まったく、とんでもない奴だな」
男性は憤慨しているようだ。まあ、無理もない。自分の店のものを盗まれていたのだから怒るのは当然だ。
「そうですね……ちなみに、被害届は出されましたか?」
「これから警察に行くところだよ。助かった。ありがとう」
「いえいえ、お互い様ですよ。こちらも助かりました」
それからしばらく世間話をして、時計屋の男性は帰っていった。
あの年配の男性は、本郷さんがやってた喫茶店の常連だった。翼ちゃんとは別の女の子が店を手伝っていたのだろうか?……などと考えていたら翼ちゃんが戻ってきた。
「ただいまー」
「おかえり、どうだった?」
「うん、やっぱりあの小包は本郷さんのものだったよ。あと、この手紙なんだけど、あの人が来たら渡してくれないかって頼まれたんだ」
そう言って翼ちゃんは私に封筒を差し出した。表にも裏にも何も書いてない、真っ白な封筒だ。
「わかった。今度来たら渡しておくよ」
私はそう言って受け取った。
それ以降は特に何事もなく時間が過ぎていった。閉店間際になり、最後のお客を見送ったところでドアにかかっている札をひっくり返し、クローズにした。そのまま二人で店の片付けを始める。と言っても、そんなに散らかってるわけではないのですぐに終わったが。
「それじゃ、今日は帰るねー」
「お疲れ様。気を付けて帰ってね」
「はーい」
店を閉めて翼ちゃんが帰ったあと、私も出かける準備をした。今から行けばまだ開いているだろう。そう思い、私は店を後にした。行き先は時計店だ。
目的地に到着し、中に入る。店の人は奥で作業しているらしく姿は見えなかった。私はレジの横に置かれた呼び鈴を鳴らす。チリンチリンと綺麗な音が店内に響いた。少しして、足音が近づいてきて、扉が開き、店の人が出てきた。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは。すみません、少しお尋ねしたいことがありまして……」
私は店主に挨拶した後、用件を伝えることにした。
「私、この先の喫茶店の店主をしているものですが、この辺りで盗難事件が相次いでいるのはご存じですか?」
「ああ、そういえば、前に警察の方が来ましたね。ええ、知ってます」
どうやら警察は既に来ていたらしい。あの偽刑事たちだろうか?
「実は私の店にも泥棒が入ったんですが、うちで働いてる若い子が泥棒を追いかけていって、この店の辺りで消えたと言ってるんですよね」
それを聞いた店主は少し驚いた様子だった。
「はあ、そうなんですか?それは怖いですね」
「はい、それで、ここに防犯カメラとか無いかと思ってお邪魔したんです」
「そうですか……ありますよ。いつ頃かわかりますか?」
「はい。たしか、四日前の15時くらいでしたね。大学生くらいの中肉中背の男性で、服はどうだったかなあ……」
思い出そうとするが、あまり印象に残っていない。
「すみません、よく覚えてないですね……」
「いえ、大丈夫です。すぐにはわからないので、後で調べておきますね。また、明日にでも来てください」
「はい、よろしくお願いします。それとですね、ここに来た警察の方って、スーツ姿の男性二人組で、一人が長身で眼鏡で、もう一人が小柄でがっちりとした体格ですか?」
私は気になっていたことを聞いてみた。
「……さあ、そこまでは覚えていませんが……どうしてですか?」
店主は不思議そうな顔で聞き返してきた。
「どうも偽警官がいるらしいのです。一応、伝えておこうと思いまして……」
それを聞いて店主は納得したようだった。
「そういうことでしたか……わかりました。気を付けるようにします」
「お願いします。それでは失礼します」
私は頭を下げ、店を出た。これで何かわかればればいいんだけどなあ……そんなことを考えながら帰路についたのだった。
翌日、いつものように喫茶店に出勤する。すると珍しくすでに翼ちゃんの姿があった。
「あれ?早いねえ」
「あ、おじさん、おはよー」
「おはよう。珍しいね、いつもお昼からなのに」
「えへへ、ちょっと早く目が覚めちゃってさ」
照れ笑いを浮かべながら翼ちゃんは言った。
「昨日はちゃんと眠れた?」
「うん、ぐっすりだったよ」
それなら良かった。
「じゃあ、今日もよろしくね」
「はーい」
そんなやり取りをしながら開店の準備をする。いつも通り開店時間を迎えた後、最初のお客さんがやってきた。カランコロンとドアが開く音がして、一人の男性が入ってくる。時計屋の店主だ。
「いらっしゃいませ」
「ああ、いたいた。おはようございます」
「あ、おはようございます。何か食べますか?サービスしますよ」
私は挨拶を返すと、カウンター席を勧めた。
「ご注文はお決まりですか?」
「ああ、コーヒーとトーストをお願いするよ」
注文を受けた後、早速調理に取り掛かる。しばらくして、出来上がった料理を男性の前に置いた。男性はコーヒーを一口飲むと、私を見て言った。
「昨日の話だけど、この人かな?プリントアウトしておいた」
そう言うと男性は書類封筒を取り出した。中には数枚の写真が入っていた。そこに写っていたのは紛れもなくあの男だった。写真を翼ちゃんに渡したら彼女も頷いている。
「ああ、そうです。この男です!」
「この野郎、うちの商品も盗んでやがった。調べなきゃわからなかったよ。まったく、とんでもない奴だな」
男性は憤慨しているようだ。まあ、無理もない。自分の店のものを盗まれていたのだから怒るのは当然だ。
「そうですね……ちなみに、被害届は出されましたか?」
「これから警察に行くところだよ。助かった。ありがとう」
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