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翌朝、私はいつものように喫茶店の開店準備をしながら考えていた。翼ちゃんと猫ちゃんのことだ。
彼女たちは勇者を召喚するための生贄になり、こちらの世界に来た。原理はわからないが、もしかするとこっちの世界の人間と交換してるのかもしれない。
彼女たちは特別な能力は無いと言っていた。だけど、初めて猫ちゃんを見たときは雑居ビルの骨董品店の窓から音もなく飛び降りてきた。地上まで10メートル以上はあるだずだ。そんなことが人間に可能なのだろうか?
それと二人とも魔力を感知することが出来る。制度は翼ちゃんの方が上っぽい。これも普通の人には出来ない能力だ。単にこちらの人間が魔力を知らないだけかもしれないけど。
そして誰かに見られているとわかるってのも、おそらく普通の人には出来ないんじゃないかなあ?私が鈍感なだけかもしれないけど。視線とか殺気とか言う形のないものって本当に感じられたりするものなのだろうか?小説とかにはよくあるけど私は出来ないのであまり信じていない。
まあ、ここまでは何とか理解できる。普通ではないけど身体能力に優れてるとか、視線に敏感とかで納得は出来る。でも、納得できないことがある。初めて猫ちゃん達と話した時のことを思い出す。
>「その時に感じたんです。ああ、この人は仲間になるんだって」
>「それはつまり、ただの思い込み?」
>「ち・が・い・ま・すー!ちゃんと確信を持って言ってるんです!」
何故、仲間になると確信を持っていたのだろうか?
それと、外に誰か見張ってる時の翼ちゃんの言葉も。
>「実は今、店の外に変な人が来てるみたいでさ……どうも監視されてるみたいなんだ。警察呼んだ方がいいかな?」
>『ううん、呼ばなくていいと思うよ。その人、警察の人だから』
何故言い切ることができたのだろう?そのあとの説明でそれなりに納得はしたけど、他の可能性だってあったはずだ。結果的に刑事で間違いはなかったのだけど。
もしかすると、なんだけど……彼女たちは何かしらの特殊能力があるのではないか?もちろん根拠はない。妄想に近い話だ。ただ、そう考えると色々と辻褄が合うのも事実なのだ。
例えば、高級マンションの最上階に住んでたり、一億もする絵画を気軽に買ったり、喫茶店をその辺に転がってるようなおっさんに丸ごとプレゼントしたり。この世界に来てそれほど時間が経ってないであろう少女たちが、そんなことが出来るほどの大金を手っ取り早く手に入れる方法。どんなのが思いつくだろう?
おそらく誰もが真っ先に思いつくのは未来予知ではないだろうか?時間停止とかでも金を手に入れるのは可能だけど、未来がわかっているのなら先の二つの違和感も納得できる。
まあ、でも。その能力は自由自在と言う訳でもないのだろう。使いこなせていれば翼ちゃんのお姉さんもとっくの昔に探し出しているはずだ。ごく近い未来しか見えないとか、何度も使うことが出来ないとか、何かしらの制限があるのではないかな?
ただ、彼女たちはその能力をできれば隠そうとしてるようなのだ。それなら私は知らないふりをしていた方がいいだろう。まあ、必要なら彼女たちから打ち明けてくれるだろう。
開店後しばらくして、カランコロンとドアの開く音がした。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
いつも通り挨拶すると、入ってきたのは年配の男性だった。スーツに身を包んでおり、白髪交じりの髪はオールバックにして固めている。身長はそれほど高くはないが、体つきはがっしりしており、姿勢が良いせいか実際より大きく見える。私よりも年上、60歳くらいだろうか。
男性は店内を見渡すと、カウンター席に座った。
「そうだな……サンドイッチとオレンジジュースを貰おうか」
「かしこまりました」
注文を受け、早速調理に取り掛かる。と、男が話しかけてきた。
「君は見ない顔だな」
「はい、つい最近ここを譲り受けたんですよ」
「ほう、そうなのか。じゃあ、今のマスターは君か。私は以前ここの常連でね、よろしく頼むよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「ここにいた女の子は元気かね?つかさちゃん……だったかな?」
「ああ、翼ちゃんですね。元気ですよ。今日も昼から入る予定です」
「そうか。翼ちゃん、だったか……」
などと会話しながら手を動かし、出来上がったサンドイッチとオレンジジュースを男の前に置く。年配の男性はサンドイッチを一口食べると「うん、旨いな」と言ってくれた。
「ありがとうございます」
それから黙々とサンドイッチを食べ終わると「これをあの子に渡してくれ」と言って小包を渡してきた。
「これは?」
「渡せばわかる。頼んだぞ」
「わかりました」
そう言うと年配の男性は満足した様子で会計を済ませ、店を出て行った。
その後もいつもの常連さんが何人か客が来たが、特に変わったことは起きなかった。そしてお昼前、翼ちゃんがやってきた。
「おじさん、おはよー」
「ああ、翼ちゃん、おはよう」
ロッカーに行こうとする翼ちゃんを止める。
「これ、朝方に来たお客様から預かったんだけど、翼ちゃんに渡してほしいって」
そういって例の小包を渡す。
「私に?何だろう?」
そう言いながら翼ちゃんは受け取り、着替えるためにロッカールームに入っていった。洗い物をしていると、着替えて出てきた翼ちゃんは何だか難しい顔をしていた。
「どうしたの?」
私が聞くと翼ちゃんは答えた。
「うーん、よくわからないんだよね。なんか手紙と指輪が入っててさ……」
「指輪?」
「うん、これなんだけど……」
翼ちゃんはそう言って私にその指輪を渡した。
「うーん、何か彫ってあるね」
「そうなの?」
「ああ、何か文字みたいだね……何だろ?」
その指輪には文字が刻まれていた。小さ過ぎて私には読めないが、英語のようだ。
「これ、読めるかい」
「えーと、ちょっと待ってね……」
そう言って翼ちゃんはしばらく指輪を眺めていたが、やがて首を振った。
「駄目みたい……こんな文字見たことないよ……」
「そうか……手紙には何て書いてあったんだい?」
私がそう聞くと翼ちゃんは手紙を渡しながら言った。
「ええとね……拝啓、本郷様へ……って書いてあるんだけど……」
「なんだろう、人違いかな?私がここに来る以前の常連さんって言ってたんだけど」
それを聞いて翼ちゃんは納得したようだ。
「ああ、なるほど……これ、前の店長さん宛だよ」
「……え?」思わず聞き返す。
「店長さんって……この店の前の持ち主ってこと?」
「そうそう、前の店長さんに当てた手紙だと思うよ。近いから、私、届けてくるね」
そう言うと翼ちゃんはさっと出て行ってしまった。まあ、一人でも大丈夫だろう。そう思って再び洗い物を始めた。
彼女たちは勇者を召喚するための生贄になり、こちらの世界に来た。原理はわからないが、もしかするとこっちの世界の人間と交換してるのかもしれない。
彼女たちは特別な能力は無いと言っていた。だけど、初めて猫ちゃんを見たときは雑居ビルの骨董品店の窓から音もなく飛び降りてきた。地上まで10メートル以上はあるだずだ。そんなことが人間に可能なのだろうか?
それと二人とも魔力を感知することが出来る。制度は翼ちゃんの方が上っぽい。これも普通の人には出来ない能力だ。単にこちらの人間が魔力を知らないだけかもしれないけど。
そして誰かに見られているとわかるってのも、おそらく普通の人には出来ないんじゃないかなあ?私が鈍感なだけかもしれないけど。視線とか殺気とか言う形のないものって本当に感じられたりするものなのだろうか?小説とかにはよくあるけど私は出来ないのであまり信じていない。
まあ、ここまでは何とか理解できる。普通ではないけど身体能力に優れてるとか、視線に敏感とかで納得は出来る。でも、納得できないことがある。初めて猫ちゃん達と話した時のことを思い出す。
>「その時に感じたんです。ああ、この人は仲間になるんだって」
>「それはつまり、ただの思い込み?」
>「ち・が・い・ま・すー!ちゃんと確信を持って言ってるんです!」
何故、仲間になると確信を持っていたのだろうか?
それと、外に誰か見張ってる時の翼ちゃんの言葉も。
>「実は今、店の外に変な人が来てるみたいでさ……どうも監視されてるみたいなんだ。警察呼んだ方がいいかな?」
>『ううん、呼ばなくていいと思うよ。その人、警察の人だから』
何故言い切ることができたのだろう?そのあとの説明でそれなりに納得はしたけど、他の可能性だってあったはずだ。結果的に刑事で間違いはなかったのだけど。
もしかすると、なんだけど……彼女たちは何かしらの特殊能力があるのではないか?もちろん根拠はない。妄想に近い話だ。ただ、そう考えると色々と辻褄が合うのも事実なのだ。
例えば、高級マンションの最上階に住んでたり、一億もする絵画を気軽に買ったり、喫茶店をその辺に転がってるようなおっさんに丸ごとプレゼントしたり。この世界に来てそれほど時間が経ってないであろう少女たちが、そんなことが出来るほどの大金を手っ取り早く手に入れる方法。どんなのが思いつくだろう?
おそらく誰もが真っ先に思いつくのは未来予知ではないだろうか?時間停止とかでも金を手に入れるのは可能だけど、未来がわかっているのなら先の二つの違和感も納得できる。
まあ、でも。その能力は自由自在と言う訳でもないのだろう。使いこなせていれば翼ちゃんのお姉さんもとっくの昔に探し出しているはずだ。ごく近い未来しか見えないとか、何度も使うことが出来ないとか、何かしらの制限があるのではないかな?
ただ、彼女たちはその能力をできれば隠そうとしてるようなのだ。それなら私は知らないふりをしていた方がいいだろう。まあ、必要なら彼女たちから打ち明けてくれるだろう。
開店後しばらくして、カランコロンとドアの開く音がした。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
いつも通り挨拶すると、入ってきたのは年配の男性だった。スーツに身を包んでおり、白髪交じりの髪はオールバックにして固めている。身長はそれほど高くはないが、体つきはがっしりしており、姿勢が良いせいか実際より大きく見える。私よりも年上、60歳くらいだろうか。
男性は店内を見渡すと、カウンター席に座った。
「そうだな……サンドイッチとオレンジジュースを貰おうか」
「かしこまりました」
注文を受け、早速調理に取り掛かる。と、男が話しかけてきた。
「君は見ない顔だな」
「はい、つい最近ここを譲り受けたんですよ」
「ほう、そうなのか。じゃあ、今のマスターは君か。私は以前ここの常連でね、よろしく頼むよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「ここにいた女の子は元気かね?つかさちゃん……だったかな?」
「ああ、翼ちゃんですね。元気ですよ。今日も昼から入る予定です」
「そうか。翼ちゃん、だったか……」
などと会話しながら手を動かし、出来上がったサンドイッチとオレンジジュースを男の前に置く。年配の男性はサンドイッチを一口食べると「うん、旨いな」と言ってくれた。
「ありがとうございます」
それから黙々とサンドイッチを食べ終わると「これをあの子に渡してくれ」と言って小包を渡してきた。
「これは?」
「渡せばわかる。頼んだぞ」
「わかりました」
そう言うと年配の男性は満足した様子で会計を済ませ、店を出て行った。
その後もいつもの常連さんが何人か客が来たが、特に変わったことは起きなかった。そしてお昼前、翼ちゃんがやってきた。
「おじさん、おはよー」
「ああ、翼ちゃん、おはよう」
ロッカーに行こうとする翼ちゃんを止める。
「これ、朝方に来たお客様から預かったんだけど、翼ちゃんに渡してほしいって」
そういって例の小包を渡す。
「私に?何だろう?」
そう言いながら翼ちゃんは受け取り、着替えるためにロッカールームに入っていった。洗い物をしていると、着替えて出てきた翼ちゃんは何だか難しい顔をしていた。
「どうしたの?」
私が聞くと翼ちゃんは答えた。
「うーん、よくわからないんだよね。なんか手紙と指輪が入っててさ……」
「指輪?」
「うん、これなんだけど……」
翼ちゃんはそう言って私にその指輪を渡した。
「うーん、何か彫ってあるね」
「そうなの?」
「ああ、何か文字みたいだね……何だろ?」
その指輪には文字が刻まれていた。小さ過ぎて私には読めないが、英語のようだ。
「これ、読めるかい」
「えーと、ちょっと待ってね……」
そう言って翼ちゃんはしばらく指輪を眺めていたが、やがて首を振った。
「駄目みたい……こんな文字見たことないよ……」
「そうか……手紙には何て書いてあったんだい?」
私がそう聞くと翼ちゃんは手紙を渡しながら言った。
「ええとね……拝啓、本郷様へ……って書いてあるんだけど……」
「なんだろう、人違いかな?私がここに来る以前の常連さんって言ってたんだけど」
それを聞いて翼ちゃんは納得したようだ。
「ああ、なるほど……これ、前の店長さん宛だよ」
「……え?」思わず聞き返す。
「店長さんって……この店の前の持ち主ってこと?」
「そうそう、前の店長さんに当てた手紙だと思うよ。近いから、私、届けてくるね」
そう言うと翼ちゃんはさっと出て行ってしまった。まあ、一人でも大丈夫だろう。そう思って再び洗い物を始めた。
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