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 今までの出来事に何か違和感がある。何だろう?まるで記憶を操作されたかのような感覚。思い出せそうで思い出せないモヤモヤ感を抱えながらら食器を洗っていた。
 ふと時計を見るともうすぐ閉店時間だ。いけない、早く終わらせないと……そう思っているとカランコロンとドアが開く音がした。猫ちゃんだ。

「あ、おじさん。こんにちわ。翼に呼ばれたから来たよ!」
「いらっしゃい、猫ちゃん」
 笑顔で挨拶をしてくる彼女にこちらも笑顔で返す。ついでにもう閉店させちゃおう。扉に掛かってるオープンのパネルをひっくり返してクローズにした。テーブルを拭いていた翼ちゃんが顔を上げた。
「あ、いらっしゃい、猫」
「やっほー、翼!何かあったんだって?」「うん。ちょっと見てもらいたい物があって」
 翼ちゃんはそう言うと例のカップを猫ちゃんに見せた。
「ん?なにこれ?」
「このカップから魔力の残滓を感じるの。猫はわからない?」
「んー、言われてみれば微かにわかる程度?知らないと気付かないかな。これどうしたの?」
「ほら、この前言ってた人の。その人が使ってたカップだよ」

 翼ちゃんの言葉を聞いてカップをじっと見つめる猫ちゃん。食器を拭き終わった私が猫ちゃんに言った。
「取っ手のところに赤いのがちょこっとついてるだろ?多分それが魔力の正体だよ」
「えっ、おじさんも魔力がわかるの?」意外そうに聞いてくる彼女に対して答える。
「いや、そういうわけじゃないんだけど。この前翼ちゃんにも言ったんだけど、君たちが探してる魔力って基本的に宝石に宿ってるんじゃないかと私は思ってる」
「いや、でも絵画とか骨董品にも魔力が含まれてるの、あるよ?」
「ほら、この飾ってある絵の青色は宝石から作った絵具で描かれているんだ。魔力のある宝石を砕いて作った絵具にも魔力があるんじゃない?骨董品とかの着色に使えば、それも魔力が宿るんじゃないかな」
 そう説明すると彼女は納得したように頷いた。
「なるほど……確かにそうかもしれない……」
「だから、もしかしたら、これも同じじゃないかなって」
 そう言って私はコーヒーカップを指差す。

 そこまで聞いて翼ちゃんが口を開いた。
「あ、わかった。あの人、多分、手を洗ったんだ」
「どういうこと?」
 猫ちゃんが聞き返すと翼ちゃんははこう続けた。
「魔力の残渣を感じた人を尾行して見失ったやつ。あれって、あの人が手に付いた塗料を水で洗い流したから感知できなくなったんだよ。カップに付くって事は、あの時はまだ乾いてなかったんだ」
 なるほど、見失ったってのは尾行が巻かれたんじゃなくて、魔力を洗い流したから感じられなくなっただけなのか……?
「翼ちゃんが見失った場所が、あの男の家かアジトの近くの可能性が高いってこと?」
 私の言葉に翼ちゃんが頷く。
「そうだね、たぶんそうだと思うよ」
 そんな話をしていると猫ちゃんが声を上げた。
「そういえばさ、この店が監視されてるって話はどうなったの?特にそれっぽい人は見当たらなかったけど」
 猫ちゃんの言葉に翼ちゃんが答える。
「そう言われれば、私がお昼にこの店来た時も監視はいなかったなあ」
「二人とも、監視されてるかどうかわかるの?」
「そりゃあ当然!」「見られていれば流石にわかるよ」
 二人同時に返事が返ってきた。すごいな、この子達。何も特別な能力は無いとか言ってなかったっけか?少なくとも私にはそんなこと出来ないぞ。
 そんなことを思いながら二人を感心していると、猫ちゃんが言った。
「まあ、あの刑事さんたちはわかりやすいからね。初心者というか、素人と言うか」
「あー、わかる。そういう訓練とか受けてないんだろうね」翼ちゃんも同意する。二人がすごいだけなんじゃないかと思うんだけど。
「ちょっと今までの事をまとめてみないか?何かわかるかもしれないし」
 そう提案すると二人は頷いてくれた。

 まずは初めて猫ちゃんを見た雑居ビルの骨董品店。猫ちゃんはあの店を探っていたけど空振りだったから何もしていないと言った。
「とりあえず、これを見て欲しい」
 私はそう言って骨董品店についてわかったことをまとめて資料にしたものを二人に渡す。
「あれ?これってあの骨董屋さんのことだよね?おじさん、こんなことも調べてたの?!すごい!」「へえ、結構詳しく書いてあるんだね」
「刑事さんがこの辺りで盗難事件があったって言ってろ?被害にあったのがこの店なんだ」
 二人に説明しながら盗まれたものの画像を見せる。すると、猫ちゃんが不思議そうな顔をした。
「それって、私が入った骨董屋さんに別の人が盗みに入ったって事?」
「そうなるね。もしかしてなんだけど、猫ちゃんが狙ってたものは既に犯人が盗み出したんじゃない?だから空振りに終わった、とか?」
「あっ!それなら納得かも……でも、そんな偶然ってある?」
 そこで翼ちゃんが口を開く。
「偶然なんかじゃなくて、魔力を狙ってる人が他にもいる、ってこと?」
「私はそう思ってるんだけど、どう思う?」
 その言葉に翼ちゃんと猫ちゃんが顔を見合わせた。

「つまり、魔力が見える人が私たち以外にもいるってこと?なんで魔力を盗むの?ただの窃盗じゃないよね?!その人は私たちの世界から来たって事だよね?」
「いや、ちょっと待ってよ翼!まだそうと決まったわけじゃ……」
「でも、それ以外に考えられないよ!」
「落ち着いて、二人とも!」
 言い争いになりそうになったところで慌てて止める。とりあえず二人の意見を聞いてみることにした。
「えっと、翼ちゃん的にはどうなの?向こうの世界の人だと思うかい?」
「私は違うと思う……だって、勇者召喚の生贄になるのはみんな若い女の子なんだよ?雑貨ビルで盗んだのってあの男の人でしょ?単なる偶然じゃないかなあ……」
「じゃあ、猫ちゃんの考えは?」
「私たちの世界から来た人だと思う。この世界の人には魔力を感じるは出来ない。だってこの世界には魔法がないんだよ?魔法を知らない人には魔力は感じられない。これは絶対だよ!」
 二人の意見は食い違う。だけど、もし犯人が単独犯じゃなければどうだろう?
「この犯人ってさ、複数いるとしたらどうかな?私たちみたいに。向こうから来た人が盗むものを指定して、こっちの世界の人が実行する。これなら筋が通ると思わない?」
 私の提案に二人は考え込む。しばらく沈黙が続いた後、翼ちゃんがポツリと呟いた。
「それならありえる、のかな……?」
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