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 それから数日が経った。今日も通常営業だ。いつものようにお昼から翼ちゃんが入っている。
 15時頃、ドアベルが鳴りお客様が入ってきた。
「いらっしゃいませ」と声をかける。見ると黒いぼさぼさ髪で大学生くらいの中肉中背の男性だった。
 初めて見るひとだ。彼は店内を見回した後、入り口に近い窓際の席についた。メニュー表を見ながら思案しているようだったのでこちらから話しかけることにした。
「ご注文は何になさいますか?」
 すると彼は顔を上げてこちらを見た。目が合うと恥ずかしそうに視線を逸らしたあと小さな声でいった。
「……カフェオレでお願いします」「かしこまりました」
 と言ってキッチンに戻る。用意をしながら彼の様子を伺うと、何やら落ち着かない様子でそわそわとしていた。あまりこういったお店には来ないのだろうか?
 彼が注文したカフェオレが出来上がったので持っていくことにした。

「お待たせしました。カフェオレです」
 テーブルに置きながら説明する。
「砂糖とミルクはこちらに置いてありますので、お好みで入れてください」
 説明を終えると彼は軽く会釈してカップを手に取った。そして一口飲むと驚いた顔をした。
「……おいしい」
 思わずといった感じで呟く彼を見て嬉しくなる。そのまま立ち去ろうとしたのだが、彼に呼び止められた。
「あの、すみません……」
「はい、なんでしょう?」
「クレジットカード払いでも大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「ではこれでお願いします」
 そう言ってカードで会計を済ませると足早に店を出て行った。テーブルを片付けようとしていたら翼ちゃんが話しかけてきた。
「今の人、魔力の残滓みたいなのを感じた。私、ちょっと行ってくるね」
 そういって店を飛び出していった。彼女が出ていった後、私は呆然と立ち尽くしていた。魔力の残滓……?なんだそれ?人間にも魔力が宿るのか?疑問を感じながらも仕事を再開することにした。

 16時過ぎくらいになりようやく落ち着いてきた頃、翼ちゃんが戻ってきた。なにやら浮かない顔をしている。何かあったのか尋ねると、彼女は答えた。
「うーん……ちょっとまずいことになったかも……」
「どうしたの?」
 気になって尋ねてみると彼女は言いづらそうにしながらも話してくれた。
「実はさ……さっきの人の後をつけてみたんだけど、もしかすると同業者かもしれない」
「同業者?喫茶店じゃないよね?それってつまり……」
 嫌な予感しかしない。
「うん……多分、あの人も私たちと同じ泥棒。時計屋で高そうな腕時計盗んでいったんだ。しかも途中で見失った……ありえないよ。こっちは魔力の痕跡で追ってたのに、ふっと綺麗に消えちゃった。尾行がバレたのかもしれない」
 悔しそうにいう彼女に、ふと気づいたことを聞いてみた。
「その人って向こうから来た人なんじゃないの?こっちの世界では魔力は宝石とか絵画にしか宿らないんだろう?」
 そういうと彼女は首を振った。
「ううん、違うと思う。だって生贄になったのはみんな若い女性だけだもん」
「つまり、魔法なんて無いこちらの世界の人間が、向こうの世界から来た翼ちゃんより魔力の使い方が上手ってこと?」
「それも違うと思う……感じたのは大きな魔力じゃなくて、ごく小さい魔力。残滓なんだよね。だから魔導士でもない。何かの理由で残滓が残ってただけなんだと思う。それが消えちゃったってことは、あの人そのものがどこかに消えちゃったってことだよ。そんなのありえないでしょ?でも、そうじゃなければ私が見失うはずがないんだけど」
 私は専門外だから何ともいえないけど、翼ちゃんがありえないと言うならありえないんだろう。
「もしかすると、刑事さんが言ってた窃盗事件の犯人もその人なんじゃないかな?こっちの手に負えないなら、もう警察にまかせちゃおうか?」
「うーん……でもなあ……」煮え切らない様子の彼女。
「どうかした?」
「私たちに飛び火してくるかもしれないから、警察には頼りたくないかな。もうすぐ仕事があるし。それに魔力の残滓が残ってたんだから、あの人が魔力の籠った何かを持ってる可能性が高い。警察に持っていかれたら回収が面倒になる」
 なるほど、確かにそれはそうだ。
「ちなみに、魔力の籠ったものって、具体的にどんなものかわかるかい?」
 聞いてみるが、翼ちゃんは首を横に振った。
「そこまではわからない……」
 困ったな……結局、何もわからずじまいか。まあ、とりあえず今日はもう店を閉めよう。閉店時間だ。
「よし、この件は猫ちゃんに相談するとして、とりあえず店を閉めようか」
 そう言って閉店の準備を始めた。

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