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 翌日の閉店後、喫茶店の手伝いをしてくれた翼ちゃんを駅まで送ることにした。
「今日もお疲れ様。気をつけて帰ってくれよ」
「おじさんもお疲さま」
「それじゃあ、また明日」「さようなら~」
 挨拶をして別れた後、自宅に帰らずに店に戻る。ちょっと調べたいことがあるからだ。佐々木 猫(ささき ねこ)ちゃんと晴野 翼(はれの つばさ)ちゃん。そして怪盗ウイングキャットについて。彼女たちは何者なのだろうか?展覧会の会場を下見してたとき思ったのだけど、彼女たちは侵入経路や逃走経路などわりと手慣れた感じで調べていた。
 以前ゲームセンターの路地で見たあれも猫ちゃんは仕事だと言っていた。ならば怪盗として何度か活動をしているのではないか?と、思ったのである。ただ単に好奇心で調べてみたかったということもあるが……とりあえずネットで検索してみることにしよう。まずは日本の公式サイトから探してみようかな。そう思ってページを開いてみたのだが、残念ながら見つからなかった。
 仕方がないのでアメリカの公式サイトから探してみることにする。するとあった!しかもかなり詳しく解説されているようだ。試しに記事を読んでみるとこんな内容が書かれていた。
『ニューヨークにあるメトロポリタン美術館に展示されている宝石類を狙った予告状が届いた事件があった。当時、警察当局は警戒を強めており……』とある。予告状の画像はぼやけててはっきりと見えないが、Winged Catの文字と二匹の猫みたいなイラストが書かれている。やはりニュースにはなっていたようだ。だがこの記事は肝心な部分は有料会員にならないと読めないらしい……残念。
 仕方なく別のサイトを調べてみることにした。今度はアメリカ以外の国の公式サイトを探してみることにしようかな。そう考えて片っ端から海外サイトを巡っていく。すると気になるものが目に飛び込んできた。
 『怪盗ウィングキャットまたも現る!』というタイトルの記事だった。そのタイトルに惹かれて読んでみることにした。内容はこうだった。ドイツのとある資産家が持つハプスブルク家が遺した絵画を狙う怪盗が現れたというもの。厳重な警備の中、その絵画は一度はまんまと盗まれてしまったものの、すぐに傷一つ付けられずに戻ってきたそうだ。その為、その資産家は被害届を出さず、捜査が打ち切られた。ということらしい。『またも』ってことは以前にも同様のことが起こっているんだろう。
 ふむ、これが本当なら凄いことだな。でもなんで盗まれた物が戻ってきたんだろう?そこが不思議だな……もしかして、盗んだ本人が返したのか?でも、それだと盗んだ意味ないよな?うーん、わからん……謎だ。
 もう少し調べてみようかと思ったがもう夜遅い時間だ。今日はここまでにして寝るとしよう。そう思った私はパソコンの電源を落とし帰る準備をするのだった。

 翌日、いつものように開店してしばらくすると、猫ちゃんが一人でやってきた。いつもの制服姿だ。
「やあ、いらっしゃい」
「こんにちは、おじさん」
「カウンターでいいかな?」
「うん、お願い」
 彼女が席に着いたところで声をかける。
「何にする?」
「コーヒーとサンドイッチにしようかな」
「わかった、ちょっと待っててくれ」
 注文を受けコーヒーを淹れ始める。その間、彼女はスマホを操作しているようだ。しばらくして、完成した品を彼女の前に置きつつ話しかける。
「そういえば君たちって何処に住んでるんだ?両親がいないってことは親せきの家とか施設なのかな?」なんとなく気になって聞いてみたところ予想外の答えが返ってきた。
「ううん、違うよ?翼と二人暮らし」
 なんと驚きの発言である。まだ未成年だろうにもう自活しているのか……しっかりしてるなあ……感心していると続けて話しかけてきた。
「ねえ、それより昨日のことなんだけどさあ……」

 と、ここで入り口のドアに付いている来店を知らせるベルが鳴った。
お客さんが来たようだ。
「いらっしゃいませ!空いている席へどうぞ!」反射的に声を出す。入ってきたのはスーツ姿の男性二人組だった。初めて見るお客様だ。
一人は長身で眼鏡をかけている。私と同世代かそれより年配だろうか?いかにも仕事が出来そうな印象を受ける人物だ。もう一人は小柄だががっちりとした体格をしている男で、年齢は20代くらいだろうか?髪を短く刈り上げているためか清潔感がある。二人は店内を見回した後、窓際の一番奥の席に座った。それを見て水とお絞りを用意しに行く。
 テーブルまで行くと小柄な男性が声をかけてきた。
「すみません、コーヒーをブラックで。二つお願いします」
「かしこまりました」
 注文を聞いてカウンターに戻るといつの間にか猫ちゃんはいなくなっていた。空っぽの皿とコップだけがそこにある。帰ったのかな?
と思っていると長身の男が話しかけてくる。
「マスター、この辺で最近何か騒ぎのようなものはありませんでしたか?」
「いえ、特にはないですね」
「そうですか。いや、失礼しました」
 そう言いつつ黒い手帳のを見せて来た。刑事さんかな……?
「実は近隣の地域で窃盗事件が起きたので、何か目撃情報がないかと思いまして……ここは店内に防犯カメラなどありますか?」「いえ、特にそういうのはありませんね」私の返事を聞いた後、彼は納得したように頷いた。その後、しばらく雑談した後、彼らは店を出て行った。

 彼らが去った後、残された食器を片付けていると再びドアの開く音がした。見るとそこには猫ちゃんがいた。
「さっきの人たちって警察だよね?」「そうだよ。いや、警察というか刑事かな?」私が答えると彼女は少し考え込むような仕草を見せた後、こう言った。
「おじさんってさ、私たちのことどう思う?」
「どうって?」質問の意図がわからず聞き返すと猫ちゃんはこう答えた。
「ほら、私たちって怪盗っていってるでしょ?おじさんはどこまで信じてるのかなあ・・・て思って」「えっ、今更かい?」思わず素っ頓狂な声が出てしまう。今まであれだけ堂々と宣言していたではないか。それが急にどうしたというのだろうか?すると彼女は真剣な顔つきになりこう続けた。
「おじさんは遊びか何かだと思ってるだろうけど、私たちは本当に怪盗なんだよ?だから、もし、おじさんが警察に通報したりしたら……」
そこで言葉を切り、じっとこちらを見つめてくる。私は彼女に笑顔で言った。
「いや、知ってるよ。君たちが本物の怪盗だってこと」そう言うと猫ちゃんの顔色が変わった。そして低い声で言う。
「知ってたなら何で通報しないのさ……」
「何でって言われてもね……」困った顔で頭をかく。そもそも私は別に正義の味方というわけではないのだ。なので彼女たちの正体を知ったからといって通報する気にはならない。それに彼女たちは私に仕事をくれた。正義なんかより断然彼女たちに味方したいと思うのはおかしいだろうか?
「だって私も、その怪盗の仲間だろ?怪盗ウイングキャットの」
それを聞いた瞬間、猫ちゃんは驚いた顔になった。
「おじさん、本気で言ってるの?」
「ああ、もちろん本気だよ」そう言って頷いてみせる。それを見た猫ちゃんの表情が徐々に和らいでいく。そして笑顔になるとこう言った。
「そっか、おじさんも仲間なんだ……そうだよね。じゃあ、一緒に頑張ろうね!」
「ああ、よろしくな」
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