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 エレベーターでビルの四階に着くと、そこは大きなレストランになっていた。正面から見たときはわからなかったけど、この建物は直方体ではなく隣接する建造物とつながっていたのだ。何というか立体的というか、ごちゃごちゃしてて迷いやすそうだな。
 エレベーターの近くにある扉からビルの外に出て隣接している建物の屋上に出ると、そこは綺麗に手入れされた庭が広がっていた。こういうのって空中庭園っていうんだっけ?オープンガーデンだっけ?まあ、そんな感じの場所だった。
 カップルや家族連れの人たちが咲き並ぶ花や、水が出てくるくる回る謎のオブジェの周りでくつろいでる。

「あそこが展示会場みたいだね」翼ちゃんが向かいの建物を指さした。庭を挟んだ建物の三階。あれが展示会の会場なのだろう。
「どうやって入るんだろ?ここからだと向こうの建物の入り口が見当たらないけど」そう聞くと猫ちゃんが答えた。
「たぶん、外に出てあっち側に入り口があるんだよ。入り口がいくつもあるようなところで宝石の展覧会なんてやらないでしょ?」
「なるほど、じゃあそこまで行ってにようか」

 一度外に出て展覧会の会場予定になっている建物へ3人で歩いていく。その間も周囲の様子を観察していた。
「あそこの窓からさっきのところに飛び移れそうだね。反対側にも出られそうだし……」
「そうだね~じゃあさ……」
 そんな会話をしているとあっという間に目的地についた。入り口には三階のイベント会場の案内があり、今はエジプト展をやっているらしい。受付があるので聞いてみることにした。
「すみません、大人三人ですけど入場料はいくらしょう?」私が話しかけると女性の職員さんが対応してくれた。
「あ、無料ですよ。どうぞお入りください」
 そう言って笑顔でパンフレットを渡してくれた。それを受け取りお礼を言ってから中に入ることにした。中はとても広く、中央にガラスケースに入った棺が展示されていた。その周りをぐるっと囲むように黄金のマスクやスフィンクスの模型が並んでいた。どれもこれも精巧に作られていて、今にも動き出しそうだ。私は感心した様子でそれらを眺めていたが、猫ちゃんたちは違うようだった。何やらひそひそと話している。
「ねえ、この中に感じるものある?」
「無いかな~」
「だよね……そんなにうまいこと見つからないか……」
 なんだかよくわからない話をしているな……。それよりせっかく来たので色々見て回ろう。
「ちょっと一回りしてくるよ。何かあったら声をかけてくれ」
「はーい」「了解でーす」
 返事を聞いて歩き出す。やっぱりエジプトってわくわくするよな。おっ、あれはエジプトの神々か?って、この布を被ったオバQみたいなのも神様なの?場違いじゃない?そんなことを考えながらゆっくり歩いて回っていると翼ちゃんが声をかけてきた。
「おじさん、そろそろ時間だよ」
 時計を見ると確かにいい時間だ。帰るとするかね。三人で出口へと向かう。途中、翼ちゃんが言った。
「何とかなりそうだね!」
「そうだね~」そうに言う二人と一緒に外に出ると、すでに日は暮れていた。さて、せっかくだし向こうのビルに戻ってレストランで夕飯でも食べて帰ろうか。

「おじさん、私、お金だすよ?」
 翼ちゃんがそう言ったが遠慮しておくことにする。高校生(推定)に出させるわけにはいかないからな。恰好がつかないし……一応年長者としてのプライドもあるのだ。ということでウエイトレスを呼んで会計を頼んだ。うわっ、高いな!ここ。まあ、大丈夫……これくらいなら致命傷で済む。カードで支払いを済ませると店を出て駅に向かって三人で歩き出した。

 帰り道でふと気になったことを聞いてみた。
「そういえば、君たちは何で怪盗なんかしているんだ?」
 そう言うと2人は顔を見合わせた後、教えてくれた。
 なんでも2人とも親がいないらしく施設で暮らしていたらしい。しかし施設の資金繰りが悪化したことで引き取り手が現れなくなり、このままでは二人とも追い出されてしまう状況になってしまったとのこと。そこで2人が出した結論は『自分たちが稼ぐしかない』ということだったらしい。
「そうか、それは大変だったね……」
 なんと声をかければいいのかわからず困っていると猫ちゃんが「そういう設定なんだけど、どう思う?」と言ってきた。
「ん?どういうことだい?」
聞き返すと、猫ちゃんが説明してくれた。
どうやら今の話は彼女たちの設定上の話で本当の話ではないらしい。つまり嘘ということだ。それを聞いて安心したと同時に少しがっかりした気持ちになった。まだ信用されてないってことかな?
「だってさ。本当のこと言っても多分、おじさん信じないと思うよ?まあ、二人とも両親がいないのは本当だけどね」
 そういって悪戯っぽく笑う猫ちゃんを見て苦笑いを返す。
 なんだそりゃ。でも両親はいないのは本当なのか。学費とかどうしてるんだろう?疑問に思ったので聞いてみることにした。
「学校はどうしてるんだい?」
「えっ、行ってないよ?」猫ちゃんはきょとんとした顔で答える。
「いや、今も学校の制服着てるよね?」思わず突っ込んでしまったが彼女は気にすることなくこう言った。
「ああ、これね、制服着てたら学校に通ってるように見えるでしょ?それにあの格好だったら怪しまれないし」
 いや、どうだろうなあ……。平日の昼間にウロチョロしてたら逆に目立つと思うけどな……。まあ、いいか。ファッションのことなんかわからないし、今はそういうのが普通なのかもしれない。あまり深く突っ込むべきではないだろうと思い黙っておくことにした。
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