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あれから1週間ほどが経過した。未だに次の就職先は決まっていない。やはり年齢的に難しいかもしれないな。とはいえ、アルバイトという選択肢も無いんだよなあ。そんなことを考えつつ、ハローワークへ向かう道を歩いていた。
今日もまた暑い日になりそうだな。そんなことを思っていると、目の前に見知った顔が現れた。この前の女の子じゃないか!向こうも私に気付いたようで、こっちを見てる。私が固まっていると少女が話しかけてきた。
「やあ、こんにちは。おじさん。この間はどうも」
「あ、ああ……」
突然のことに困っていると、そんな私の反応をよそに、少女は話を続ける。
「この間のことで、ちょっとお話があるんですけど、いいですか?」
「え、今かい?」
「はい」
どうしよう?正直あまり関わりたくないのだが……しかし、相手は子供だし、話を聞いてやるくらいならいいか。
「わかった。いいよ」
そう答えると、少女はニッコリと笑った。そして私に付いてくるように言った後、歩き始めた。私は彼女の後に続く。しばらく歩くと、例の喫茶店が見えた。そこに入っていく。
「いらっしゃいませ」いつもの店員さんが声をかけてくる。この子もずいぶん若いけど学生さんのバイトかな?この喫茶店にはあれから何度か来ている。サンドイッチが絶品で気に入ったのだ。少女と向かい合わせに座ってアイスコーヒーを注文する。店員が去った後、私は少女に話しかける。
「それで、何の用だい?」
「実はですね、あなたにお願いしたいことがありまして」
「お願い?」
「ええ、そうです」
そう言って1枚の名刺を取り出した。見ると『怪盗ウイングキャット』と書かれている。なんだこれ?そう思っていると、少女がとんでもないことを言い出した。
「私たちと一緒に怪盗してください」
「はあ?!」
思わず大きな声を出してしまった。幸いなことに店内は私たちと店員しかいない。私は小声で少女に問いかける。
「君、何言ってるのか分かってるのかい?怪盗ってことは泥棒だろ?」
「そうですよ」
平然とした顔で言う少女。私は頭を抱えたくなった。
「悪いことだって分かっているのか?」
「もちろんですよ」
ますます頭が痛くなる。いったい何を考えているんだこの子は?
「そもそもなんで私なんだい?」
「この前、あなたは私が仕事してるところを見ましたよね?」「……ああ」
「その時に感じたんです。ああ、この人は仲間になるんだって」
「それはつまり、ただの思い込み?」
「ち・が・い・ま・すー!ちゃんと確信を持って言ってるんです!」
そう言って不敵に笑う少女。その表情は年相応ではない気がした。
「とにかく、一緒に仕事をしてくれる人を探していたのです。そこであなたを見つけたわけです」
「悪いけど他を当たってくれ」
私は断ったが、少女は食い下がってきた。
「お願いしますよ!私たちの力になってください!」
「そう言われてもな……」
「報酬ならちゃんと出しますよ!」
「お金の問題じゃないんだよ。この話は聞かなかったことにするよ」
そう言って立ち上がろうとすると、少女は困ったような顔をした。だが、すぐに何かを思いついたような表情になり、再び話し始めた。
「じゃあ、こういうのはどうでしょうか?あなたの願いを叶えます!」
「……願い?」
「ええ、何でもいいですよ。ただし、殺人とかえっちな事はダメですけど」
「だが、私なんかが怪盗なんか務まらないだろう。こんなおじさんなんだぞ?」
「大丈夫ですよ!情報を集めるだけの簡単な仕事です!」
「情報って、どうやって集めるんだい?」
「インターネットやSNSを使って情報収集します。パソコンさえあればできますよ」
「そんなもの持ってないぞ」
「では買いましょう!私たちが用意します!」
少女の勢いに押されてしまう。どうしたものか……そう言われ、少し考える。会社をクビになって再就職もままならない。両親はすでに他界してるし嫁も子供もいない独身だ。このままひっそりと孤独死を迎えるだけの人生なんて嫌だな……。いや、何を本気で考えている。これは多分ごっこ遊びみたいなものだろう?毎日のように通るこの道。何か犯罪が起これば騒ぎになるはず。もしあの日、この子がテナント荒らしをしていたのならニュースや看板の一つも立っているはず。それが無いのだから何も起きていないのだ。
そう考えると、なんだか心が軽くなったような気がした。どうせ暇なのだから少しくらいこの子に付き合ってあげてもいいかもしれない。
「分かった。私は仕事をクビになったばかりでね。仕事を探している。この年齢だと何処も雇ってくれないんだ。次の就職先をみつけてくれるのなら協力しよう」
「やったー!!」
少女は飛び跳ねて喜んでいる。感情の起伏が激しい子だな。そんなに嬉しいのだろうか?そう思っていると、店員がやって来た。アイスコーヒーを持ってきてくれたようだ。少女は店員を呼び止める。
「では自己紹介をしますね。私は佐々木 猫(ささき ねこ)!よろしくおねがいします!」
そう言うとぺこりと頭を下げる少女。続いて店員の少女が言う。
「晴野 翼(はれの つばさ)です。よろしくね~」
えっ、この子も仲間なの?驚いている私を他所に二人は続ける。
「つばさとねこ。だからウイングキャット!」「安直ですよね~」
いやいや、そういう問題じゃ無いだろ!突っ込みを入れたかったがやめておいた。話が進まなくなりそうだからな。気を取り直して私も名乗ることにした。
「私は立花雄介(たちばな ゆうすけ)という。よろしく頼むよ」
「立花さんだね。じゃあ、さっそく願いをかなえてあげよう!」「かなえてあげよ~」
二人が手をつないでクルクル回っている。仲が良いんだな。そんなことを思いながら二人の様子を見ていたら、突然動きを止め、こちらを向いた。
「これから、この店は喫茶立花です!よろしく店長!就職おめでとう!」「やったね、仕事が見つかったよ」
」
2人は笑顔でそう言ったのだった。
「えっ、この喫茶店の店長?!」
こうして私の新たな就職先がきまったのであった……。
今日もまた暑い日になりそうだな。そんなことを思っていると、目の前に見知った顔が現れた。この前の女の子じゃないか!向こうも私に気付いたようで、こっちを見てる。私が固まっていると少女が話しかけてきた。
「やあ、こんにちは。おじさん。この間はどうも」
「あ、ああ……」
突然のことに困っていると、そんな私の反応をよそに、少女は話を続ける。
「この間のことで、ちょっとお話があるんですけど、いいですか?」
「え、今かい?」
「はい」
どうしよう?正直あまり関わりたくないのだが……しかし、相手は子供だし、話を聞いてやるくらいならいいか。
「わかった。いいよ」
そう答えると、少女はニッコリと笑った。そして私に付いてくるように言った後、歩き始めた。私は彼女の後に続く。しばらく歩くと、例の喫茶店が見えた。そこに入っていく。
「いらっしゃいませ」いつもの店員さんが声をかけてくる。この子もずいぶん若いけど学生さんのバイトかな?この喫茶店にはあれから何度か来ている。サンドイッチが絶品で気に入ったのだ。少女と向かい合わせに座ってアイスコーヒーを注文する。店員が去った後、私は少女に話しかける。
「それで、何の用だい?」
「実はですね、あなたにお願いしたいことがありまして」
「お願い?」
「ええ、そうです」
そう言って1枚の名刺を取り出した。見ると『怪盗ウイングキャット』と書かれている。なんだこれ?そう思っていると、少女がとんでもないことを言い出した。
「私たちと一緒に怪盗してください」
「はあ?!」
思わず大きな声を出してしまった。幸いなことに店内は私たちと店員しかいない。私は小声で少女に問いかける。
「君、何言ってるのか分かってるのかい?怪盗ってことは泥棒だろ?」
「そうですよ」
平然とした顔で言う少女。私は頭を抱えたくなった。
「悪いことだって分かっているのか?」
「もちろんですよ」
ますます頭が痛くなる。いったい何を考えているんだこの子は?
「そもそもなんで私なんだい?」
「この前、あなたは私が仕事してるところを見ましたよね?」「……ああ」
「その時に感じたんです。ああ、この人は仲間になるんだって」
「それはつまり、ただの思い込み?」
「ち・が・い・ま・すー!ちゃんと確信を持って言ってるんです!」
そう言って不敵に笑う少女。その表情は年相応ではない気がした。
「とにかく、一緒に仕事をしてくれる人を探していたのです。そこであなたを見つけたわけです」
「悪いけど他を当たってくれ」
私は断ったが、少女は食い下がってきた。
「お願いしますよ!私たちの力になってください!」
「そう言われてもな……」
「報酬ならちゃんと出しますよ!」
「お金の問題じゃないんだよ。この話は聞かなかったことにするよ」
そう言って立ち上がろうとすると、少女は困ったような顔をした。だが、すぐに何かを思いついたような表情になり、再び話し始めた。
「じゃあ、こういうのはどうでしょうか?あなたの願いを叶えます!」
「……願い?」
「ええ、何でもいいですよ。ただし、殺人とかえっちな事はダメですけど」
「だが、私なんかが怪盗なんか務まらないだろう。こんなおじさんなんだぞ?」
「大丈夫ですよ!情報を集めるだけの簡単な仕事です!」
「情報って、どうやって集めるんだい?」
「インターネットやSNSを使って情報収集します。パソコンさえあればできますよ」
「そんなもの持ってないぞ」
「では買いましょう!私たちが用意します!」
少女の勢いに押されてしまう。どうしたものか……そう言われ、少し考える。会社をクビになって再就職もままならない。両親はすでに他界してるし嫁も子供もいない独身だ。このままひっそりと孤独死を迎えるだけの人生なんて嫌だな……。いや、何を本気で考えている。これは多分ごっこ遊びみたいなものだろう?毎日のように通るこの道。何か犯罪が起これば騒ぎになるはず。もしあの日、この子がテナント荒らしをしていたのならニュースや看板の一つも立っているはず。それが無いのだから何も起きていないのだ。
そう考えると、なんだか心が軽くなったような気がした。どうせ暇なのだから少しくらいこの子に付き合ってあげてもいいかもしれない。
「分かった。私は仕事をクビになったばかりでね。仕事を探している。この年齢だと何処も雇ってくれないんだ。次の就職先をみつけてくれるのなら協力しよう」
「やったー!!」
少女は飛び跳ねて喜んでいる。感情の起伏が激しい子だな。そんなに嬉しいのだろうか?そう思っていると、店員がやって来た。アイスコーヒーを持ってきてくれたようだ。少女は店員を呼び止める。
「では自己紹介をしますね。私は佐々木 猫(ささき ねこ)!よろしくおねがいします!」
そう言うとぺこりと頭を下げる少女。続いて店員の少女が言う。
「晴野 翼(はれの つばさ)です。よろしくね~」
えっ、この子も仲間なの?驚いている私を他所に二人は続ける。
「つばさとねこ。だからウイングキャット!」「安直ですよね~」
いやいや、そういう問題じゃ無いだろ!突っ込みを入れたかったがやめておいた。話が進まなくなりそうだからな。気を取り直して私も名乗ることにした。
「私は立花雄介(たちばな ゆうすけ)という。よろしく頼むよ」
「立花さんだね。じゃあ、さっそく願いをかなえてあげよう!」「かなえてあげよ~」
二人が手をつないでクルクル回っている。仲が良いんだな。そんなことを思いながら二人の様子を見ていたら、突然動きを止め、こちらを向いた。
「これから、この店は喫茶立花です!よろしく店長!就職おめでとう!」「やったね、仕事が見つかったよ」
」
2人は笑顔でそう言ったのだった。
「えっ、この喫茶店の店長?!」
こうして私の新たな就職先がきまったのであった……。
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