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パトラ編

第78話 元勇者 パトラさんと大人のアレをする

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「大丈夫よ。似合っているじゃない」

 ルシフェルが親指を立ててOKする。

「陽君。かっこいいよ執事みたい!」

「私も、大丈夫だと思います!」

「彼氏役も今日で最後ね。最後くらいびしっと決めてきなさい」

 ルシフェルがバシンと元気に俺の背中をたたく。

「じゃあ、行ってくるよ!」

 そして俺は店の中へ。
 珍しく気を利かせたのか、ルシフェルはローザとセフィラとともに、店の外から観察している。

「パトラさん。おはようございます。今日でここにいるのも最後ですね」

「はい、陽平さん。本当にあっという間でした」

 上品な香りがするコーヒーを優雅にすすりながら。綺麗な純白のドレス姿を来たパトラさんの姿があった。

 とても美しく、上品だ。お姫様という言葉がとても似あっている。そしてエマがしゃべりだす。

「とても素敵な人だと思ったっチュ。元勇者さんなら私が嫁になってもいいチュ」

「へ、変な冗談言うなよ……」

「私はこれで失礼するっチュ。後はお二人でいちゃいちゃするっチュ」

「そうですか、それではエマも元気でいてくださいね」

 そういってエマは静かに席を立った。
 パトラさんの穏やかな笑みに、彼女がペコリと一礼をして返す。

 その姿は、いつもの陽気ながらも礼儀正しさを忘れない物に戻っているが、その表情には隠しきれない喜びが浮かんでいたのが俺にはわかる。

 というかいちゃいちゃって──。思わずドキッとしてしまう。

 しかし、恋人になる予想もしなかった依頼にいろいろと困惑したけれど。
 もうすぐその依頼が終わるというのは少しさびしい気持ちを感じる。

「お姫様の恋人っていうのも、本当に大変ですね」

 本当だよ。ビシッとした服装、マナー、礼儀。本当に神経を使う。

「まあ、大変そうなのは伝わっていました」

「僕なんかじゃ──、やっぱり釣り合わないですよね」

「確かにそれは言えるかもしれません。異性としては、何かあるとおどおどしたり、戸惑ったりしていて頼りなさを感じていました」

 俺は少しだけ苦い顔を浮かべて作り笑いをする。やっぱりわかっていたのか。

「まあ、ろくに異性と付き合ったことなんてないですしね」

「でも、あなたは強引なところはとても強引で、ここぞというとき、自らの正義を貫く時は本当に引きませんね。そこは素敵だと感じました」

「はは……、ありがとうございます」

 俺は苦笑いをしながらわずかに頭を下げる。まあそりゃそうだ、そうでなきゃ勇者なんてやってられない。

「そういう所、勇者として見直しました。今のところは、とりあえず、こんなお礼はどうでしょうか?」

 するとパトラさんはフッと微笑を浮かべた後顔を俺に近づける。
 そしてほんの少し、口づけが触れる。
 甘美な香水の香り、柔らかく甘い唇の感触。

「え……、ちょっ、パトラさん待って!!」



「依頼を受けてくれたこと、そして皆を救ってくれた感謝の気持ちの一つです」


 いやいや、そんなことでキスなんておかしいって。これじゃあまるで本当の恋人同士じゃないか。
 触れるだけの口づけ 俺は体をカッと体を赤くする。

「いきなり、そ、そんな──」
「そうですか、それではこれはどうでしょうか?」


 いつものように無表情だが、パトラさんの頬がうっすらと赤くなっているのが分かる。

 ついばむような口付けが俺の唇に伝わってくる。

「え?? ちょっと、それはさすがに──!!」

 何とパトラは俺の口の中に舌を突っ込んできた。
 溶けそうで柔らかい舌が俺の歯茎に触れ、舌に巻きつく。
 絡み合う舌、温かい彼女の体温を感じる。互いの温かさが少しずつ混ざり合い、口の中が溶け合っていく感覚。

 その感覚で、俺の心も意志も少しずつ溶け合い、パトラさんと1つになってしまいそうな感覚になる。

 待ってくれ、こんなの生まれて初めてだ

 時間にしてほんの数秒だが俺にとっては永遠ともいえる時間。


「もし私と本当に交際を認めてもらうならば──」


 そう言ってパトラは俺の耳元に顔を近づけ甘く囁く。

「それ以上の事、してあげましょうか?」

 微笑を浮かべながら、俺のほほにそっと指先をはわせる。くすぐったいような冷たい指の感覚。おい待て、流石にそれはまずいって!!

「陽君、何やってんの!! エッチ!!」

「うわっ、 最低──!! いくら任務を遂行したからって体を要求するなんて!!」

「陽平さん、ひどいです」

 ルシフェル、ローザ、セフィラ、突然の乱入、そうだった。見張りと称してこの部屋の外から俺達の行動を見ていたんだ──。


 するとパトラさんはからかうような微笑を浮かべて俺たち全員に視線を送る。

「まあ、みなさんのように素敵な女性に囲まれていては仕方がありません。この話は考えておいてください」

「この話──? あんた何考えていたの? 説明しなさい」

「不埒です。不潔です。見損ないましたよ!!」

「ちょっと待ってパトラさん。誤解を招くような発言はやめてください!!」

 この後、3人の誤解を解くのに相当な苦労を要したのは別の話。

 いろいろあったがこれで依頼は終了。
 異性と交際って、大変だ。俺に務まるのかな? それがよくわかる依頼だった。
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