上 下
27 / 103

第27話 元勇者 パトラの素を理解する

しおりを挟む
「当然よローザ、彼女はこの世界でずっと生きていたんですもの。綺麗事だけでは生きていけないって身にしみているはずよ。あなただってわからないわけじゃないでしょう」

「……はい、ルシフェルさん──」

 ルシフェルの言葉にローザがしょんぼりしながら首を縦に振る。
 まあ、ローザも貴族として生まれ育ったわけだから、理解は出来ても感情が受け入れられないのだろう。

「さあ、有罪が確定したわけですが、とりあえず言い訳を聞く事にしましょうか。弁解を、どうぞ?」

「ケッ──」

 幼女は一歩も引かずににらみつけながら、パトラに言い放つ。

「何よ、こんな子供に拷問? ずいぶんと冷酷な王女様ね──。裁判にするわ、言いふらしてやるわ。小さい子供に拷問を加える残虐なお姫さまだって」

「別に? 言いふらすならせればいいわ、罪を犯した者に罰を与え償いをさせるのは当然の事です」

「私まだ12歳よ。そそのかされたのよ。それでもやるっていうの?」

 幼女は少しずつ後ずさりしながら、パトラを睨みつける。
 身体はびくびくと震え、恐怖を感じているのが俺にも見て取れる。

「言ったそばからもう自己弁護。確かにあなたは子供かもしれません。でもいくら12歳だからって自分の意思で首を横に振って断ることは出来たはずです。違いますか?」

「なに? お説教? ずいぶんと偉そうね」

「結局あなた達はいつもそうです。いつもは権利だ人権だ自由だなんて言っていっちょ前に要求ばかり。そのくせちょっと小銭を得たいからって平気で悪さをする」

 幼女が後ずさりした分パトラは歩を進める、まるで彼女を追い詰めているようにも見える。

「それでいざとなったら人権が、権利が──って言って逃れようとする。要するに無責任人間なんですあなたは、そんな人間に優しさなど不要です」

「くっ──」

「とにかくすぐに警備の兵士達に連絡します。ついてきなさい!!」

 そう叫んでパトラは彼女の腕をつかみ、この部屋を出る、俺とルシフェルも後をついていく。

 その後は彼女の言葉通りだった。警備の兵士の所に少女を連れて行き引き渡す、少女が何をしたのかなどを伝えた。兵士は少女から事情を聴くためわめき散らし叫ぶ少女を尋問の部屋に連行していった。

「では戻りましょう」


 そして俺達はパトラさんの部屋に戻る。部屋に戻るとパトラさんは警戒した目つきで部屋中を見回していた。恐らく何か仕掛けが無いか疑っているのだろう。

「大丈夫そうですね──、座ってください」

 そう言って彼女がソファーにつく。俺達もその言葉に合わせて対面のソファーに着席。

「あなたたちも気をつけてください。あなたが勇者として戦い、魔王との戦いで一致団結していた時代とは違うのです」

 俺達はその言葉を聞いて互いにきょろきょろと見つめ合う。まあ、足の引っ張り合いみたいなのが横行している。それが現実なんだろうな──。


「今のでわかりましたか? この宮殿で安全など保証されていません。自分たちで守らないといけないんです」



「というかここで重要な会話をすること自体やめた方がいいわね」

 ルシフェルの言葉にパトラは一瞬視線を彼女に向け反応する、そして紅茶を一口飲みながら言葉を返す。

「そうです。極秘の情報を伝えるときは必ずあなたたちの部屋に行きます。ここで話す事は極秘ではなく、漏えいしてもかまわないことが中心になると思います」

「わかりました」

 まあ、その方がいいだろう。ここで極秘情報なんてとても話せない、その方が安全だ。

「そして話の本題に入ります。私が依頼した仕事の内容です」

「仕事の内容、本題に入るという事ですね」

 そうだローザの言う通りだ、それを知るために俺達はここに来たんだ。

「まずは私の生まれた地など、王都などで起きている事をご存じですか?」


「王家の権力が及ばない地方で起きている事ですが? あまり芳しくないとは聞いています」

 セフィラもそう言った場所で育ったからか、その言葉に反応する。

「オブラートを3重くらいに包んだ言い方ですね。貴族達は家督争いや資源の争奪戦に明け暮れていて、国民たちの事など道端に落ちている石ころくらいにしか考えていません」

「そ、そんなことになっていたんですか……」

 その言葉にしょんぼりする俺。確かに俺が勇者だった時もそういうところはあった。
 けど政治に携わる人達が、そんな考えをしているんじゃそうなるよな……。


「そしてここからが本題です。地方の政情が安定しない、そのためこの王都にも混乱から逃れるため、難民たちが押し寄せている状況なんです」

 まあ、それも理解できる。
 これは俺がいた世界でもあった事だ。アフリカとか中東とか。

「しかし難民達の中には、戦乱の中心に傷を追っていたりまともに教育を受けていない人も多く、王都の治安が悪化しています」

「私もその話は聞いたことがあります、そして親のいない子供たちはストリートチルドレンとなり貧困にあえいでいるとか──」

 セフィラもその事は、噂に聞いたことがあるようだ。

「セフィラさん。私たちだって彼らにひどい扱いをしたくはありません。実力行使は本当に最後、どうしようもなかった時に最小限に行いたいのです」

 そして、パトラの語調が少しだけ強くなる。

「王都の住民たちが被害をすでに受けています。そして敵対心を持ち始めています。このままでは街中であらそいになり追放されるかもしれません」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行
ファンタジー
 ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

処理中です...