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ローデシア帝国編

スキァーヴィ・心に決めたもの

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 スキァーヴィ視点。

 街に再び戻った私。
 そこは、いつもの静寂な街とは明らかに様相が違っていた。

 ドォォォォォォォォォォォォォォォン!

 大きな爆発音が耳に入る。

 空を見上げると、何匹もの何十メートルもある大きな魔物。
 暗い色をしていて、どれも醜い格好をしている。

「なんだあれ!!」

「逃げろ!」

 逃げ惑う街の人々。魔物たちの危険から逃れようと、我先にと、自分だけは助かろうと他人を押しのけていたり、倒れた人に気付かず踏みつけたり──。

 それはもう、パニック状態。

 そして、逃げ惑う人の波をただ一人逆行しながら魔物の元へ。
 その魔物は、毛深い三メートルほどの大男のような格好している。確か名前は、ヒュプノス。
 視線の先には、五匹ほど。

 そこでは、街の冒険者や傭兵の人たちが必死になってヒュプノス達と戦っている姿。

 皆、精一杯ヒュプノスに食らいついているが、まるで大人と子供。一方的な勝負だ。

「なんだよこいつら、強すぎるだろ」

「ぜんぜん勝てねぇ……」

 怯えた表情で、足が震えている
 私は、彼らの元にゆっくりと近づく。

「ス、スキァーヴィ様……どうして」

「申し訳ありません。命が尽きるまで、戦わせていただきますので──」

 私に出会ったことで、恐怖に震えている。恐らく、敵前逃亡で捕まるのを恐れているのだろう。
 私は、彼らの前にスッと手を置く。

「皆さん、今まで戦ってくれてありがとう。無理しないで、命を第一に行動して」

 そっと優しい口調で語ると、冒険者二人は戸惑いながらも言葉を返す。

「は、はい……わかりました」

「あ、ありがとうございます」

 そして冒険者二人は傷ついた場所を抑えながらこの場所を後にしていく。



 私は、ヒュプノスと相対する。
 ヒュプノスたちは、私の存在に気付き一斉に視線を向けてくる。
 私を食おうと言わんばかりの、敵意を持った目。

「さあ来なさい。国民達に、絶対に触れさせはしないわ!」

 ギャォォォォォォォォォォォォッッッ!

 私が強くにらみつけると、ヒュプノスたちは叫び声を上げながら私に突進してくる。


 裁きの雷よ、この世界に希望の灯火を照らせ──

 スターダスト・ボルテックス

 その瞬間、私の剣から大きな雷が出現、ヒュプノスたちに直撃し大爆発。

 所詮は中堅程度の魔物。この程度なら、何の問題もない。すると、魔法の気配に気づいたのか、周囲の魔物たちが私の方へと寄ってくる。そして──。

「助けて、助けて──」

 誰かが叫ぶ声を上げながらこっちへ向かってきた。慌てて前へ走ると──。

「貴方は……」

「スキァーヴィ様」


 あの時、私に声をかけてくれた子供。私は駆け足になり、子供を抱きかかえる。
「もう大丈夫」

「ス、スキァーヴィ様──」


 私は女の子をぎゅっと抱きしめる。
 女の子は私を離さまいとしがみつくかのように抱きついてきた。しかし──。

 ギャャャャャャァ──ッッッッ!

 魔獣たちが何匹も襲い掛かってきた。
 私は、一度身をかがめて子供を地面に下ろし──。

「私が食い止める。だから、逃げて」

「で、でも……。スキァーヴィ様は……」

 私をじっと見て、女の子は怯えている。私のことを、心配してくれているのだろう。
 その気持ちは、嬉しい。けれど──。

「いいから早く逃げなさい、私は──戦わなきゃいけないの。人々のために」

 真剣な表情になり、女の子を見つめる。女の子はどうすればいいかわからず、オロオロしていた。

 その間にもオオカミの格好をした魔物がこっちに襲い掛かってくる。

 私は、女の子とかばうようにしながら剣をオオカミに突き刺し、串刺しに。
 そして、叫んだ。

「早く逃げて、あなたに死んでほしくないから──」

 その言葉に、女の子ははっとすると一目散に後ろへ走っていく。
 一度振り向いて、私に叫んだ。

「スキァーヴィ様。絶対、死なないで!」

「……大丈夫よ」

 にこっと作り笑いをして、言葉を返す。

 それから、再び魔物たちの方に視界を向ける。
 何十匹もの、魔物たち。どれも強い力を感じた。

 グルルルルゥゥゥゥ──。

 よだれを垂らし、私をにらみつけるオオカミの魔物。
 そんな魔物の群れに、私は、立ち向かった。



 この国の人のために、もう迷わない──。



 私は、死地に入った。国民達を守る。
 そのために、次々と魔物たちをなぎ倒していった。

 たとえ傷ついても、ボロボロになっても、絶対に引かない。

 もし引いてしまったら、もし倒れてしまったら、彼らが襲うのは国民達だ。
 そんなことは、あってはならない。

 今まで、私がやって来たことを考えれば、もう遅いかもしれない。
 そのまま、処刑台に突き出されてもおかしくはない。

 ──それでもいいから。


 戦え──私。




 気が付けば、戦いは終わっていた。

 私は魔力を使いつくし、大きく息を荒げ座り込んだ。もうボロボロ。次魔物が来たら、絶対に死ぬ。
 視線の先には、屍となった魔物の数々。けれど、何十人もの国民や傷ついた傭兵や冒険者を守ることができた。

 彼らをかばって傷ついたりもしたけれど、構わない。ちょうどいい罪滅ぼしだ。
 ほんの少しでも、罪が償えたらと思う。

 そして、背後から一人の声。

「スキァーヴィ」

「ソルト!」

 そう、大切な親友。絶対に守ると決めた大切な人、ソルトだ。
 私は、ふらふらと立ち上がると、おぼつかない足取りでよろよろ向かうと、思いっきりソルトに抱き着いた。体に力が入らなくなり、ソルトの胸に体重を預ける。

「聞いたよ。私を、守ってくれたんだね」

「うん……」

 ソルトの胸に抱かれ、今にも泣きそうな声で答える。

「こんな私で、幻滅したでしょう?」

「そんなことないよ。見てたよ、みんなのために、精一杯戦ってるの。もう、大丈夫だよ」


 ソルトも胸の中は、とっても暖かくて、彼女の優しさを感じる。
 心の底から安心できる。

「ありがとう」

 そして、スワニーゼがここから撤退するという情報を聞いた。
 ようやく、この国は悪夢から解放される。やっと、自分の罪を償える。



 私は、決意した。たとえ屍になろうとも、どれだけ傷ついて、ボロボロになろうとも、絶対に戦い抜くと──。
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