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ローデシア帝国編

唯一王 スワニーゼの事情を知る

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 俺はきっぱりとNOを告げる。フリーゼは、顔を真っ赤にして黙りこくってしまった。
 その後も、見たこともない魚の干物を試食したり、大昔の骨董品のを眺めたりして楽しんでいた。

 闇市という一見怪しい名前、そしてきな臭い動きがあるのだが、このくらいのものならクラリアや他の街にもあったし、そこまで違法性が高いというわけではない。

 もっとやばい薬物があったり、そっちのずじの人がいると思っていたのだが。

 考えていたより普通の雰囲気だが、油断はできない。
 緊張の糸は切らさずに、俺たちへの視線を警戒しつつ、この場所の配置などを記憶していく。

 警戒した様子で周囲を見ていたその時──。

 ポン。

 誰かが俺の右肩をぎゅっとつかむ。
 フリーゼかと思って振り向くと、予想もしなかった人物がいた。

「──フライとフリーゼ。ですよね」


「スワニーゼ。どうしてここに?」

 眼鏡をかけて、地味な顔つき。さらさらした黒髪の真面目そうな女の人。
 あのスキァーヴィの部下。

 彼女の幼馴染であり、補佐官でもあるスワニーゼだ。

 俺たちがここにきていることは、彼女達は知らないはず。

 どうすればいい……。
 まさかの事態。襲って来るのか? 何か仕掛けて来るのか?

 俺は必死に頭を回転させ、対応しようとする。
 フリーゼも、予想していなかったようで驚いた表情で言葉を失っている。

「とりあえず。話をしましょう」

 そして俺たちは比較的人が少ないベンチに腰掛ける。
 スワニーゼは周囲をきょろきょろと確かめ、警備役の声が聞こえないよう注意しながら話し始めた。

 俺達がローデシアについていることは、スキァーヴィはすでに知っているらしい。
 何でも、ウェレンの兵士にスパイ役がいて、ウェレンでの動きは全て把握しているという。

 当然、商人夫婦が捕まって、代わりに俺たちが潜入捜査としてここに来たことも。

「それで、俺たちをどうするつもりだ?」

 問題はこれからだ。見つかった以上、当然ただでは済まない。
 どこかに連れていかれ、秘密裏に処刑するつもりなのだろうか。

 戦うにしても、ここは人が多すぎる。

 警戒した目つきでスワニーゼを見つめていると──。

 スワニーゼが俺の両手を持ち上げ、ぎゅっと握る。

「二人とも、協力してください。スキァーヴィを倒すために」

 その言葉に、俺は言葉を失ってしまった。
 まさか、彼女からこんな言葉が出て来るとは思わなかったからだ。

 そういえば、俺はスワニーゼのことをよく知らない。スキァーヴィの側近だけど、悪い人そうじゃないんだよな……。

「何か、あったんですか?」

 フリーゼの言葉に、どこか落ち込みながらスワニーゼが答える。

 話によると、スワニーゼは貧困層の生まれだったが、生まれつき魔力に恵まれていた。
 そしてそれに目を付けたスキァーヴィが大金を差し出す代わりに彼女をスカウトしたという。

 それで得た大金によって、家族たちは貧困から抜け出せた。

 しかし、同時に彼女はスキァーヴィに逆らうことができなくなってしまった。人質を取られたも同然となった。

 もし逆らえばスキァーヴィの声一つで家族は捕えられ、一家全員処刑だってあり得る。彼女はそんな人物なのだ。

 スワニーゼの瞳から、うっすらと涙が浮かんでくる。

「こんなはずじゃなかったんです。私の家族は、身分が低くて貧しくて、何日も食べ物が買えない日だって珍しくなかった。それを何とかしたくて、私は強くなってスキァーヴィの側近になった。でも、周囲を傷つけていく姿に私、耐えられません」

「でも、そしたら家族は──」

「それは、私たちで何とかします。それに、いつまでも彼女の横暴を許すわけにはいきません。立ち向かわないと──」

 そう言ってスワニーゼは顔を上げ、俺とフリーゼに視線を合わせる。
 さっきまでとは違う、強気で意思を持った表情と目つき。なんとなく理解できた。
 今のスワニーゼなら、信用できると──。

 俺は一度フリーゼに視線を向ける。
 フリーゼは俺の意図を理解しているようで、コクリとうなづく。

「大丈夫です。私も、スワニーゼさんと一緒に戦いたいです」

 良かった。隣にスキァーヴィのことをよく知っている人がいるというのは、とても心強い。


「分かった。一緒に行動しよう」

「──ありがとうございます」

 スワニーゼが仲間になってくれた。スキァーヴィのことを知っている人が仲間になってくれるのは、とても心強い。
 どうしてここにいるのかは、結局話してくれなかったけど……。

 そして俺たちは再び闇市を歩き出す。

 少し作戦とは違う道筋になってしまったが、やること自体は変わっていない。


 この前聞いたスワニーゼの話によると、熾天使たちが闇取引をするのはこの場所ではない。
 ここから秘密裏の道を通っていける、この国の軍の武器庫だ。

「つながっているんです。ここの闇市は、帝国政府の資金源になっているんです。そして、闇ルートで新開発の兵器や副作用や悪影響が未知数な薬などを売りさばき、データをとっる役割も果たしています」


それだけじゃない。比較的力がある奴隷たちをかけ事の道具として使っているだとか。

「──趣味が悪いな」



 気分が悪くなってきた。──とりあえず進もう。


「こっちです」

 手招きしながらの言葉。スワニーゼにさからっての行動、罪悪感からか、重圧を感じているのか、顔色がどこか優れていない。

 やはり、戦うというのに罪悪感を感じてしまうのだろう。

「ありがとうございます」


 スワニーゼに誘導されるがまま、俺とフリーゼはその後を追っていく。
 闇市の奥の部分に、頑丈そうな鉄の扉。そしてそこにいるのは二人の兵士。

 この先に 例の闘技場があるのだろうか。
 兵士の人に、スワニーゼ接近。ポケットから数枚の紙を取り出しただ一言。

「これを──。そこの二人も一緒です」

 兵士の人たちはスワニーゼと俺たちに交互に視線を置く。そして──。

「通れ」

 ただ一言呟くと、別の兵士が重い鉄の扉を開ける。

「行きましょう」
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