上 下
148 / 203
ウェレン王国編

レディナとレシア

しおりを挟む
「グォォォォォォォォォッッッ──ッ!!」


 ハウゼンは、瞬間的に魔力を肉体の防御にすべて回した。おかげで出血こそは免れたものの、体内の魔力は全て尽き、もう戦うことはできなくなった。


 メイルの傍らで、死んだように横たわっているハウゼンが、虚ろな瞳で呟き始めた。

「運命、だったのか──。私達、生まれつきまっとうな道を選べなかったものたちでは、例え魂をかけてでも、かなわない定めだったのか──」


「ふざけるな、まっとうな道など、ただ歩いているだけで進めるものか!」

 もう戦う力はない、虫の息の様な言葉。それに、メイルは真っ向から反論。
 もっとも、メイル自身も体力の消耗が激しく、か細い声。

 メイルもクリムも、決して最初から恵まれていたわけではなかった。

 二人とも、血筋に恵まれず、何度も悪い扱いを受けていた。
 それでも、メイルは決して道を外さなかった。

 何度傷ついても、悲惨な想いをしても彼女やクリムは前を向いて戦ってきた。
 だから、今があるのだ。

(それだけではない、フライさん達、この地ともステファヌア様とは無縁の身。そんな人たちが命を懸けて、強力な敵たちと戦っている)

 そう、この瞬間。みんながこの街のために戦っている。
 フライ達にも、何かが待ち受けていることも想定している。

(だからこんなところで、私が折れるわけにはいかなかった)


「あなたは逃げただけです。確かにあなたには不遇だった過去があり、裏稼業に落ち、犯罪に手を染めていった。しかしそれでもそれなりに強くなり、部下や慕ってくれる人だって お前だっていくらでもやり直すチャンスはあった。だが、お前は自らの憎しみに身を委ね、お前を絶望に陥れたやつらと同じ道へと、自ら進んでいったんだ」


 その言葉にハウゼンは大きく一つ、ため息をついた。
 理解したのだ。自分と、メイルの差を──。


「──だから、勝てなかったのか。私の、感情任せの恨みなんかよりも、はるかに強い覚悟で戦っていたということだね」

 ハウゼンは、一息ついてそっと目をつぶった。理解した。自分では勝てないはずだと。

「では、捕えさせてもらう」

 メイルは 縄でハウゼンを縛り上げ、彼女を連れてこの場から移動をしていく。
 そして、ハウゼンと一緒に歩きながら、一つの想いが浮かんだ。

(私は、ハウゼンの様に不遇な扱いを受けても立ち上がれた。けれど、それは私だけのおかげではない。周囲に、勇気を与えてくれる人がいたからだ。
 私に希望を与えてくれた人たちに、感謝しなくては。クリム、ステファヌア様。そして、信者の皆様)


 これからもまた、自分はこの街のために戦っていくのだろうと。











 メイルたちが激闘を続けていたころ、レディナとレシアも激闘を重ねていた。


「さすがだな貴様たち。いい腕をしている」

「そうだな。この圧倒的俺たち有利の状況で、よくここまで戦えている

 浅黒い肌にスキンヘッド、筋肉質で長身な男。
 もう一人は目つきが悪く、赤髪でロングヘアの女。
 スパルティクス団の幹部、ヴィッツとザニア。

 本来一対一で戦えば、レシアもレディナも苦戦などしないだろう。
 それくらい実力差がある相手だ。

 しかし、二人のコンビネーションの良さに苦戦を強いられているのだ。

 レディナがザニアに有利を作っても、ヴィッツに所々で対応されてしまう。
 レシアのほうも、ここぞというときにザニアに横から攻撃を受け、ヴィッツとの戦いに専念できない。

 二人はずっとタッグで戦ってきたわけではない。たまたま一緒にいて、相手が二人だから仕方なく組んだだけの、急増のタッグ。

 どちらも、最初は二人のチームプレイに全くついていけず、大苦戦。

 何度も攻撃を食らい、ダメージを受けてしまう。

 そして、雪が積もる地面に倒れこんでしまう。

「どうしたどうした。威勢がいいのは最初だけかい?」

「うるさいわね。すぐに逆転してやるんだから!」

 そんな強気な言葉を吐きながら、レディナは脳裏を張り巡らせる。
 この状況を打開するにはどうすればいいかを──。

(私の本当の力。それを使わなきゃいけないかもしれな。いや……解禁しちゃダメ──。そしたらレシアまで巻き込んじゃう)

 そう、レディナが考えているのは、自分のスキルの開放。極限覚醒──、意識を遮断し、無意識に目の前の相手を倒していくのに全力を尽くしていくスキル。

 しかし、それはこの場では、使うことはできない。

 自分一人しかいないならいいが、目の前の相手を無意識に攻撃してしまうため、レシアがいる状態では当然使えない。

 そんな状況の中で。レディナは一つの最善策を思いつく。

(仕方ないわね──これしかないわ)

 そしてレディナはザニアたちに睨みを聞かせながらレシアのところへ。
 ナックルを構え、攻撃しようとしているレシアに小声で話しかける。

「レシア、私が後ろでサポートする。だから、前線で戦えない? それで、あんたがだめだったら、私が残りをしてする。どう?」

 レシアは、真剣な表情で、こくりとうなずいた。
 レディナの作戦。それ自分が護衛に回り、レシアに戦ってもらうというもの。
 レディナのスキルが集団戦に向いていない。おまけにチームプレイ自体ができていない。それなら、いっそのことレシアに前線においてできる限り二人を削らせ、自分がサポート。

 そしれレシアで削り切れなければ、残りを自分が相手をするということだった。

「あんたが動けなくなったら、私があんたを守る。だから、お願いできる?」

「──大丈夫。じゃあ、護衛よろしくね」

 そしてレシアは、二人の元へ立ち向かっていく。そんな姿を見て、レディナがつぶやいた。

(ああ……そういうことだったんだ)

 以前フライが言っていた罪悪感。それがなんとなくわかった気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

前世で辛い思いをしたので、神様が謝罪に来ました

初昔 茶ノ介
ファンタジー
日本でブラック企業に勤めるOL、咲は苦難の人生だった。 幼少の頃からの親のDV、クラスメイトからのイジメ、会社でも上司からのパワハラにセクハラ、同僚からのイジメなど、とうとう心に限界が迫っていた。 そしていつものように残業終わりの大雨の夜。 アパートへの帰り道、落雷に撃たれ死んでしまった。 自身の人生にいいことなどなかったと思っていると、目の前に神と名乗る男が現れて……。 辛い人生を送ったOLの2度目の人生、幸せへまっしぐら! ーーーーーーーーーーーーーーーーー のんびり書いていきますので、よかったら楽しんでください。

【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453 の続きです。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

精霊王達は人間達を翻弄する

りん
ファンタジー
この世界は、人間、精霊、エルフなどなどいろんな種族が住んでいる。ところが、人間が契約を破り、精霊たちを使役することによって、精霊王を怒らせた。怒った精霊たちによる、半分遊びながら、人間達を翻弄させていく!それは他種族をも巻き込んで!?

えっ!? 聖女として命がけで国を守ってたのに婚約破棄&追放ですか!!? 悲しみの聖女は精霊王の溺愛を受けてます!!!

星ふくろう
恋愛
 ラグーン王国は北の大地に栄える人類国家。  風の精霊王様の加護を受けて、北国なのに温和な気候が与えられ、繁栄していた。  それも全て、精霊王の聖女の結界魔法のおかげ。  聖女の寿命と引き替えに、この国は繁栄してきた。  ある日、聖女になって二年目のリブル公爵令嬢アリアは幸せな日を迎えようとしていた。  王国のショーン王太子殿下との婚約が決まり、翌日は挙式というその前夜。  アリアは見てしまう。  ショーン王太子殿下と彼女の親友、アベンシス公爵令嬢ラーナの浮気現場を。  そして言い渡される婚約破棄と出て行けの一言。  アリアは激怒した。  なら、出て行きます。ついでに、結界魔法も解除しますから。  王太子殿下は好きにしろ、そう言った。  いいんですね!? 好きにしますよ?  凍土の極寒地獄で滅びろこのクズ男!!!  アリアはそう決意して精霊王の元へと向かう。  王国に対して自身が下した決断の悲惨な結末の是正、多くの神や精霊との交流を得てアリアは風の精霊王の妻になり、そして空席だった水の精霊女王になる。  新しい臣下や異世界の神々との確執を乗り越えて、夫婦は愛をはぐくむのだった。  小説家になろうでも別作者名義で出させて頂いております。  表紙イラストは、  ayuzukko様(twitter @zOZo3AZeN1AsqrP)  に描いていただきました。  

精霊王の番

為世
ファンタジー
 黒髪の青年は、守護霊を操り霊獣を狩る”冒険者”である。  青年は東の国の片田舎で安寧の日々を過ごしていたが、彼の日常は街の要人を狙う襲撃事件が発生し一変する。そして事件に巻き込まれていく中で、その裏側にとある組織の存在が浮かび上がる。  やがて青年は、自身を狙う組織との因縁を晴らすため旅に出る事を決意する。  黒髪の青年が出会うのは、実力の底を見せない養父、死を予見する女、頑なに真意を悟らせない謎の男に、人嫌いの少女。  そして青年は、冒険の裏で渦巻く野望に巻き込まれていく。  暗躍する者達や組織、或いはその陰謀との対立。  ”全知”を求める秘密結社、救済を騙る宣教師、平和と競争を天秤に掛ける司法官、神話に語り継がれる二人の王と、そこに連なる民衆達。  個人との対立、組織との対立、国との対立、思想との対立、故人との対立!  そして、”龍”は誕生する。  この物語は、青年が自身の“在り方”を認めるに至るまでの顛末、そして見届ける彼の”運命”、その一部始終をここに記す。  作者より、これを手にした全ての読者に感謝と尊敬の意を表して。 ───為世

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

処理中です...