上 下
136 / 203
ウェレン王国編

王都での、戦いの始まり

しおりを挟む
 それとほぼ同じ時間。
 メイルを隊長とする冒険者達は王都の大聖堂を中心に最大限の警戒をもって警備にあたっていた。

 この聖都はウェレン王国の王都である以上、どこも重要な場所であるのだが、その中で最も重要だとされているのが大聖堂だ。

 年に一度の巡礼祭。ということで信者のだれもが教皇様と共にしたいと声を上げている。


 しかし希望する信者たち全員を近くはない聖地に巡礼させるには、馬車も警備の人も足りない。

 が、信者たちは何とかして聖なる日に大天使への祈りをささげ、信仰心を表わしたいという人は多い。

 特に巡礼祭に連れていくには格が足りないが、自宅や最寄りの教会で祈りを済ませるだけでは済まないという人が中堅貴族などのそこそこ位が高い人は多数いる。

 そんな人たちは少しでも信仰をささげようと大聖堂でお祈りをする。
 おのずとこの大聖堂にはこの国でも重要な人たちが集まってくる形だ。


 先日の冒険者たちと教会で話し合った中では、熾天使たちが襲ってくるかもしれないということで、要人たちに大聖堂への礼拝を中止するという案もあったが、これは取りやめとなった。



 ゆえに、冒険者たちは大聖堂やその周辺に隠れたり一般人に変装したりして配置についている。

 レディナ達三人の待機所は大聖堂の四階から飛び出した、石造りの場所。
 目から上の部分だけ外へ飛び出し、街に異変がないか観察している。

「ふぅ、外に居るだけで凍り付きそう。寒いね、レディナ」

「そうねレシア」

 普段はステファヌアが信者たちに向かって演説をしたり、言葉を発したりする場所。それだけに見晴らしもよく、ここなら街中が見渡せる。

「うう、風邪ひいちゃうフィッシュ」

 ハリーセルは体を震わせながらつぶやく。鼻からはうっすらと鼻水が垂れていた。
 当然だ。この大聖堂はこの街で一番高い建物。
 よって風がさえぎられることなく、北からビュンビュンと当たっているのだ。

 寒いと感じるのはハリーセルだけではない。レディナとレシアも、寒さに体が震え、身を寄せ合っていた。

「しょうがないわね、中で温まってきなさい。見張りならしばらく、私がしているから」

 隣のレディナが気を利かせるが、ハリーセルはぶんぶんと顔を横に振る。

「そんなことできないフィッシュ。みんな頑張っているフィッシュ。だから私も頑張るフィッシュ」

 強がるハリーゼルを、レディナが優しくなだめる。

「じゃあ、しっかり頑張りなさい。けど無理は禁物ね」

 そしてレシア。右手をほっぺに当てながら、キョロキョロと街を見ている。

「フライ達は、大丈夫かな……」

 心配だった。フライ達が。今頃敵から襲撃を受けていたらと思うと居ても立っても居られないと感じるのだ。
 すると、レディナがレシアの肩にポンと手を置いて言葉を返す。

「わからないわ。けれどやれることはある」

「何?」

「自分たちの役割をきっちり遂行して、フライの負担を減らすことよ──」

「そうだね。わかった」

 柵に置いたレシアの拳が自然と固くなる。

 思えばレシアがフライから離れるのは初めてのことだ。
 ちょびっとだけ、さみしい気持ちになる。

 それでも、フライの足を引っ張るわけにはいかない。彼のおかげで、自分はこうして戦えるのだから──。自信を取り戻せたのだから──。

(大丈夫。僕は絶対に、最後まで戦う。みんなの力になる!)

 自然とレシアの握りこぶしが強くなる。強い覚悟を決めた表れだ。
 そしてレシアが警戒して街に再び視線を送った、その時だった。

 ドォォォォォォォォォォォォォォォン──。


 その大きな爆発音。すぐに街の方に視線を向ける。

「あれフィッシュ。東フィッシュ」

 ハリーセルが指さした先。街の東側のエリア。爆発音の後に大きく黒い煙が立ち、悲鳴の音がこっちまで聞こえていた。

 そして誰かが階段でこっちに駆け足でやってきた。

「皆さん!」
 長身で、タキシード姿。ボーイッシュで、槍を持った人物。
 三人とも声から、それがクリムだとすぐに理解。


「じゃあ、私達。行ってくるわ──。メイルは、ここで待機していて」

「やはり、そうなりますか──」

 メイルの表情がどこかけげんなものになる。どこか不満を抱えている様子だ。メイルは、自分がここにいて、周囲の人が必死に戦っているという状況が嫌なのだ。

 レディナの判断は間違っていない。いくら何かあったからといって全員がそこに向かっていったら他が手薄になってしまう。

 だからこの大聖堂にも戦力は残しておいておかないといけないのだ。
 そして戦力として計算でき、それに最もふさわしい人物が──。

「そうですね。ここの人たちに、指示も与えなければなりませんし──」

「頼むわ。こっちは任せて、メイルは大聖堂の警備を」

 そうメイルだ。というか彼女以外にいない。
 こっちにたくさんの兵士や冒険者を抱えている以上、指示役が必要だからだ。
 どこか残念そうな表情で言葉を返す。やはり、自分は戦わず、周囲だけが必死に戦うという状況が許せないのだろう。

「了解です。皆さん、ご武運を祈ります」

 そしてレディナ達は戦場に向かっていく。
 メイルはその姿を見て、心の中でささやいた。


 絶対に、自分の役割を果たすと──。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。 ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。 身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。 そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。 フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。 一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。

転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました

平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。 しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。 だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。 まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

処理中です...