上 下
129 / 203
ウェレン王国編

二日目を終えて──

しおりを挟む
 周囲に目を回す。デュラハンとの戦いがどうなったかを見てみたのだが──。

「──何とか片付いたぞ」

「これもあの女の子二人のおかげだな」

 傷だらけの姿で座り、ほっと体を休めている冒険者たちの姿。
 すると、誰か肩をたたいてくる。


「デュラハン達は、全部退治したわ」

「こっちはもう。大丈夫だよ」

 レディナとレシア。そして他の冒険者たちの活躍により、ここにいつデュラハンは全て倒したようだ。

 二人とも軽く息が上がっているが、特に痛手は追っていなさそうだ。

「ありがとうレディナ、助かったよ」

「私だけじゃないわ。みんなのおかげよ」

「そうだ、ハリーセルは?」

 レシアの言葉に俺は周囲に視線を送る。ハリーセルだ。一人で三刑士の一人、グランを相手にしていた。

 メイルによると相当手強い相手だと聞いた。いくらハリーセルでも、苦戦する可能性は十分にある。

「確か、前方よ。行ってみましょう」

「そうだね──」

 俺とレディナはハリーセルがいると聞いた後方へと足を運ぶ。




 一方ハリーセル、後方でグランと戦っていた。

 グランの、レイピアの様な細くて曲がる剣に苦戦するも、有利に戦いを進めている。

 何度かつば競り合いを重ねたうち、ハリーセルが一気に間合いを詰める。

「これで、決めるフィッシュ!!」

 グランは何とか対応しようと交代するが、ハリーセルが詰める速度の方が早い。
 そして右手をグランの方へとかざすと、そこに水をまとった矢が五発ほど出現。

「終わりだフィッシュ!」

 その矢がグランへと直進。
 グランの体に矢が突き刺さり、グランの体が森の中へと吹き飛ぶ。
 そして数メートルほど吹き飛び、そのまま倒れこんだ。

「よし、捕えろ」

「任せろフィッシュ!」

 俺の声にハリーセルはグランに向かって直進。しかしグランは魔力で傷を癒すと、無理やり立ち上がる。

「ほう、この僕にここまで戦えるとは、褒めてやるよ──」

 そう言って後ろに向かって飛び上がった。
 何とか追おうとしたものの、そのジャンプは数十メートルにも及び、目に見えないくらい早い。

 この場から離れるわけにはいかない俺たちに、とても追うことなどできなかった。

「逃げられたフィッシュ……」

 ハリーセルは悔しそうにシュンとする。すぐに駆け寄り、慰める。

「ありがとうハリーセル。これで大丈夫だよ」

「くやしいフィッシュ。追いたいフィッシュ」

「ダメだよ。俺たちには巡礼祭を何事もなく行うという義務がある。それにここはあいつらのホーム。何をされるかわからない」

 敵に有利を取りながらも逃がしてしまった悔しさはわかる。しかしこの辺りは敵たちのホーム。どんな待ち伏せや罠があるか分からない。

 逆に捕まってしまう可能性だってある。

 俺たちの目的はあくまで要人たちを守ること。
 これでも、目的は十分に達していると言える。

「ありがとう、助かったよハリーセル」

 そう言って俺はハリーセルの頭をなでる。ハリーセルは顔をほんのり赤くして表情が明るくなった。

「ありがとうフィッシュ……。撫でてくれて……嬉しいフィッシュ」

 取りあえず、納得してくれたようだ。




 最後に周囲を見回す。戦っている人はもういない。

 とりあえずこの場の危機は去った。
 要人たちや、俺たちの中に弛緩した空気が流れる。それだけでなく──。

「やっぱりクリム様はすごいぜぇぇぇ」

「そうだな。彼女がいれば怖いものなんてないぜ」

 兵士たちから歓喜の声がこだまし始めた。

 要人たちからも、ほっとしたような雰囲気が流れる。しかし俺は違った。

「どうもおかしい……」

 首をかしげた俺に隣にいたレシアが話しかけてくる。。

「あいつらが、手を抜いているってこと?」

 レシアの質問に俺は答える。

「いや、決して手を抜いているとか、そういうわけじゃない。本気では戦っている。ただ──」

「ただ?」


「どこか、真剣さがない」

「フライさん。彼らは、手を抜いているということですか?」

 するとメイルがキョトンとした様子で質問してくる」

「違う。決して遊んでいるとか、手抜きをしているわけではないんだ。
 けれど、生死をかけて必死に戦っている時と、競技の様な真剣ではあるけれどそこまでは掛けていないときって、なんとなくわかるんだよ。目つきとか、剣裁きとか──」

「ええ、本気を出してはいましたが、どこか必死さに欠けていました」

 フリーゼも戦っていてわかっていたのだろう。
 あいつらの戦いには、必死さがない。自分の命と引き換えにしてでも、俺たちの首を奪い取ろうという、執念のようなものを感じなかった。

 どちらかというと、トレーニングや、競技に近い。

 手加減をしているわけではないが、こっちを殺しに来るような様子が感じられない。剣裁きやつば競り合いの時の粘り強さがどこかたりない。
 まるで俺たちを試しているかのようだった。

「あいつらが何を企んでいるか、俺たちにはわからない」

「しかし、これで終わりではないということだけは分かります」


 メイルとクリムは、真剣な表情になる。

「今日の巡礼祭。終わったら俺たちの部屋に来てほしい。そこでいろいろ話そう」

「──そうですね」

「分かったわ」

 二人とも、首を縦に振ってくれた。
 取りあえず、ここから戻ろう。帰ったら再び作戦会議だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。 ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。 身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。 そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。 フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。 一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。

転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました

平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。 しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。 だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。 まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

処理中です...