上 下
38 / 203
フリジオ王国編

唯一王、レディナの微笑に気付く

しおりを挟む
「了解しました。その部屋、しばらく借りさせていただきますね」

「ちょ、ちょっとまでフリーゼ」

 何と俺が返事を返す前にフリーゼが勝手に了承してしまったのだ。慌ててフリーゼに話しかける。

「フリーゼだって男の人と一緒の部屋で寝るなんて嫌でしょう?」

「私は、フライさんと一緒なら構いませんよ。レディナとハリーセルも、同じこと言うでしょう。それとも、私達と寝ると聞いただけで理性が持たないとか」

「そ、そういう事じゃないけれど」

 ……無防備すぎるこいつに俺は少し心配になってしまう。いつか本当に間違いが起こってしまうのではないかと。

「兄ちゃん。うちの部屋、それなりに防音対策はしているから夜、激しく変なことしても大丈夫だから、安心してお愉しみをしてくれよ」

 ホテルのおじさんも茶化すように言ってくる。
 これじゃあ断りようがない。仕方がないか──。

「分かりました。その部屋、しばらくお借りいたします」

「ありがとうございました。存分にお楽しみくださいね」

 そして俺たちはキーを受け取り、ハリーセルとレディナを呼んでくる。そして階段を上がり、用意された部屋へ。

「はー、疲れたフィッシュ」

「そうね、しばらく休もうかしら」

 俺たちは歩き続けて疲れていたせいか、すぐに荷物を床に置いてベッドに身を投げる。

 そしてしばらく会話が途切れる。ハリーセルに至ってはいびきをかいて寝ているのがわかる。
 しばらくはそっとしておこう。


 それからしばらく昼寝をして体を休める。夕日が部屋の中に入ってきたころに、俺は周囲が起きているのを確認。

「みんな、起きてるか──」

「起きてるわよ。っていうか夕方になっちゃったわね」

 レディナに続き、フリーゼとハリーセルも起きる様子を見せる。夕飯でも作るか。
 
 夕食は、有り合わせの物で簡単に作った。
 安く市場で買った鶏肉に、塩で味付け、それから、野菜を焼いて一緒に食べる。
 あとはライ麦のパン。

 贅沢な食事とは言えないけれど、おいしい味がした。

「ごはん、おいしいフィッシュ」

「はい、みんなで食べると、とてもおいしい気がします」

「──そうね、ご馳走様」

 レディナの、どこか安心したような表情でのその言葉。
 安らかな微笑だ。
 ──ちょっと、会話してみるか。


 食後、フリーゼが気を聞かせてくれたようでコーヒーを入れてくれた。

 「よろしかったら、どうぞ」
 
 「フリーゼ、ありがとう」


 とりあえず、コーヒーを飲みながらレディナに、思ったことを話そう。

 
「レディナ。なんか会った時と印象が変わったなって、思った」

 俺の言葉に彼女ははっと表情を変え、近くにいる椅子に座った後言葉を返してくる。

「印象が変わったって、どういう事よ」

「ん~~、なんていうか、会った時より話しやすい気がする。出会った時より砕けていて、親しみやすい気がするんだよね」

 その言葉にレディナが照れたように顔が赤くなり、自身のカールした髪をくるくると撫でまわし始めた。

 困り果てたような表情をしながら。
 

「な、何よいきなり。褒めたって何にも出ないわよ」

「けど、一緒に服を選んだり、会話をしている時とか、どこか楽しそうにしていたように見えたんだけど、気のせいかな?」

 するとレディナは目を伏せ、少しの間考えこんだ後、顔を上げる。

「このすけこまし! ……正直に言うと、今まで楽しいなんて感情、味わったことなんてなかった。けれど、これが楽しいってことかな……、と考えるようにはなってはいるわね」

「回りくどい言い方ですね──」

「もしかしてレディナ、笑ってるフィッシュ?」

 その言葉にレディナの顔が真っ赤になる。そして──。

「わ、笑ってる? そ、そ、そ、そんなわけないでしょ! からかうのもいい加減にしなさい!」

「からかってないよ。本当のことを言っているんだよ」

「わ、私をほめたってなにも出ないわよ。そういうことはハリーセルやフリーゼに言いなさい」

 レディナがそう言いながら表情を背ける。どう考えても照れているのがわかる。

「いえ、今のレディナさんは、言葉こそ出さないもののとても喜んでいるように見えます。自分の気持ちに、もう少し素直になったらいいのではないでしょうか」

「素直に──。変なこと言うんじゃないの。別に、喜んでいるわけじゃないわ。……もう」


「これがツンデレというやつだフィッシュ」

 レディナの顔がさらに赤くなり、まるでリンゴのようだ。
 彼女は本心を出すのが苦手なんだと思う。それでもどこか打ち解けることができるような気がした。

「じゃあ、楽しい時間はこれでいいかしら? これから重要な話、私の頼みをしたいのだけれど──」

 レディナの表情が真剣なものに変わる。その雰囲気を察したフリーゼ、そして楽しそうだったハリーセルも、空気を読んでかおとなしくなった。

「それで、頼み事って何だ?」

「簡単に言うと、私が住んでいた遺跡を取り戻してほしいの」

「遺跡、それってもともとレディナが住んでいた遺跡のことか?」

「そうよ」

 取り戻す? 誰かに占領されてしまったということか?

「その前に、良く理由を聞かせてほしいです。どういう事があったか説明をお願いします」

 フリーゼの言う通りだ。まずは何があったかを聞きたい。
 そしてレディナは手に持っていたコーヒーを机に置き、遠目に視線を覆き始め、何があったかを話し始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

前世で辛い思いをしたので、神様が謝罪に来ました

初昔 茶ノ介
ファンタジー
日本でブラック企業に勤めるOL、咲は苦難の人生だった。 幼少の頃からの親のDV、クラスメイトからのイジメ、会社でも上司からのパワハラにセクハラ、同僚からのイジメなど、とうとう心に限界が迫っていた。 そしていつものように残業終わりの大雨の夜。 アパートへの帰り道、落雷に撃たれ死んでしまった。 自身の人生にいいことなどなかったと思っていると、目の前に神と名乗る男が現れて……。 辛い人生を送ったOLの2度目の人生、幸せへまっしぐら! ーーーーーーーーーーーーーーーーー のんびり書いていきますので、よかったら楽しんでください。

【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453 の続きです。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

精霊王達は人間達を翻弄する

りん
ファンタジー
この世界は、人間、精霊、エルフなどなどいろんな種族が住んでいる。ところが、人間が契約を破り、精霊たちを使役することによって、精霊王を怒らせた。怒った精霊たちによる、半分遊びながら、人間達を翻弄させていく!それは他種族をも巻き込んで!?

えっ!? 聖女として命がけで国を守ってたのに婚約破棄&追放ですか!!? 悲しみの聖女は精霊王の溺愛を受けてます!!!

星ふくろう
恋愛
 ラグーン王国は北の大地に栄える人類国家。  風の精霊王様の加護を受けて、北国なのに温和な気候が与えられ、繁栄していた。  それも全て、精霊王の聖女の結界魔法のおかげ。  聖女の寿命と引き替えに、この国は繁栄してきた。  ある日、聖女になって二年目のリブル公爵令嬢アリアは幸せな日を迎えようとしていた。  王国のショーン王太子殿下との婚約が決まり、翌日は挙式というその前夜。  アリアは見てしまう。  ショーン王太子殿下と彼女の親友、アベンシス公爵令嬢ラーナの浮気現場を。  そして言い渡される婚約破棄と出て行けの一言。  アリアは激怒した。  なら、出て行きます。ついでに、結界魔法も解除しますから。  王太子殿下は好きにしろ、そう言った。  いいんですね!? 好きにしますよ?  凍土の極寒地獄で滅びろこのクズ男!!!  アリアはそう決意して精霊王の元へと向かう。  王国に対して自身が下した決断の悲惨な結末の是正、多くの神や精霊との交流を得てアリアは風の精霊王の妻になり、そして空席だった水の精霊女王になる。  新しい臣下や異世界の神々との確執を乗り越えて、夫婦は愛をはぐくむのだった。  小説家になろうでも別作者名義で出させて頂いております。  表紙イラストは、  ayuzukko様(twitter @zOZo3AZeN1AsqrP)  に描いていただきました。  

精霊王の番

為世
ファンタジー
 黒髪の青年は、守護霊を操り霊獣を狩る”冒険者”である。  青年は東の国の片田舎で安寧の日々を過ごしていたが、彼の日常は街の要人を狙う襲撃事件が発生し一変する。そして事件に巻き込まれていく中で、その裏側にとある組織の存在が浮かび上がる。  やがて青年は、自身を狙う組織との因縁を晴らすため旅に出る事を決意する。  黒髪の青年が出会うのは、実力の底を見せない養父、死を予見する女、頑なに真意を悟らせない謎の男に、人嫌いの少女。  そして青年は、冒険の裏で渦巻く野望に巻き込まれていく。  暗躍する者達や組織、或いはその陰謀との対立。  ”全知”を求める秘密結社、救済を騙る宣教師、平和と競争を天秤に掛ける司法官、神話に語り継がれる二人の王と、そこに連なる民衆達。  個人との対立、組織との対立、国との対立、思想との対立、故人との対立!  そして、”龍”は誕生する。  この物語は、青年が自身の“在り方”を認めるに至るまでの顛末、そして見届ける彼の”運命”、その一部始終をここに記す。  作者より、これを手にした全ての読者に感謝と尊敬の意を表して。 ───為世

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

処理中です...