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唯一王 最後まであらがう
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「逃がしませんよ──」
無表情でそうつぶやいたフリーゼ、そっと右手を上げた。すると前方にあった俺たちが通った門がゆっくりと閉じていっているのがわかる。
それでも俺たちはウェルキが先頭になって逃げ続けた。
ミュアが若干逃げ遅れている。彼女は裏方のサポート役で、運動神経に難がある。
息を荒げて全力で走っているのはわかるが、徐々にアドナたちと距離が徐々に開いている。
走るペースを見ていると、このままではウェルキ、アドナしか助からないだろう。
それを見たキルコがチッと舌打ち。
「チッ──、仕方ない」
そして彼女は機嫌が悪そうに右手を上げる。すると右手は強く光始めた。その光がミュアやキルコ自身に降り注ぐ。
「足が、速くなった?」
「しょうがないね。早く逃げるんだよ!」
恐らく脚力強化の術式だろう。ミュアとキルコの足が急激に速くなった。
ミュアは隣を走っていた俺をあっという間に俺を追い越し、キルコに追いつく。
二人とも、前を走っているウェルキとアドナに追いつきそうな勢い。
対して、俺だけが脚力強化の術式を受けていない。そして仲間は誰一人俺の方を振り向かない。
その時、俺は理解した。完全に俺を見捨てる気だった。助けるつもりなどなかった。すでに、俺は仲間ではないのだと。
──まずはアドナとウェルキが閉じていく門を潜り抜ける。
続いて数秒ほどたってから、ギリギリでキルコとミュアがギリギリで門を抜けてこの場から脱出していった。
そして……。
キィィィィィィィィ──、バタン!
俺が逃れようとした数メートル先で、無情にも門は閉じてしまう。
同時にカッカッと、ゆっくりと足音がこちらに向かっているのがわかる。
走らなくても、俺を仕留めるのは簡単だと理解しているのだろう。
「さあ、逃げても無駄です。立ち向かってきなさい。さあ、かかってくるのです。冒険者よ」
冷静な表情で、俺を見つめながら言い放ってくる。彼女と目があった途端、俺の体が震えはじめた。
なんとなくだけど、理解できる。
これは、自分の死だ。それが迫っていると、身体が警告しているんだ。
俺は 勘だけは鋭かった。
パーティーでは露払いの役を押し付けられることが多く、危機管理をしっかりしないと危険なトラップや、強力な敵に遭遇し命が危うくなってしまう。
そのために、いつも精神を研ぎ澄まし、その気配を感じ取っていた。だから理解しているのだ。
ここで降参しないと、死ぬぞ──、と。
全身が恐怖に染まっていく。身体が震えあがり、冷たく凍るような感覚が走る。
早く逃げろ。じゃなかったら──、死ぬぞ。
俺の心が叫び続けているのがわかる。いままででもダンジョンを攻略していく中でこの声はあった。
そしてその声は、すべてにおいて正解だった。その先には、必ず死と隣り合わせのトラップがそこにあった。
今回も、正解なのだろう。
だが、今回は逃げるという選択肢はない。軽く震える足で剣を構え、フリーゼと見合わせる。
「さあ、あなたの強さ、見させてもらいます!」
しかし、実力の差は歴然だった。
圧倒的な実力差の前に何度も攻撃を食らい、追い詰められる。
今まで見たことがないくらいの圧倒的な力。
そして俺はフリーゼに追い込まれてしまう。
「この程度ですか? 残念です。では、これで最後です」
そして彼女は剣先をこっちに向ける。剣先から今までにないくらいの魔力を感じ、そこから巨大な光線が向かって飛んできたのだ。
「星脈流星群<ステラ・エアレイド>」
その気配だけでわかる。よけられそうもない。そして俺の障壁ではとても守り切れるとは思えない強大な魔力。
打つ手などない。
その光景を見ながら、俺は今までの自分のことを思いだした。
パーティーからは、認められることはなかったが。それでも、精一杯戦った。
持てる力を駆使して、パーティーの雑用係だけど、彼らの攻撃を緩和させるために障壁を張り、先陣となってトラップを回避や駆除をした。
確かにこれらは、他の仲間たちの様に華々しい活躍とは違って目立たない。
それでも、技術も、経験もいる仕事。
だから、一度くらい認められたかった。
しかし、その瞬間が訪れることは永遠になかった。
今まで俺を支えてきた感覚が、俺の本能が叫ぶ。
不様でもいい、
全力であらがった。
俺はその声を──。
全力で否定し、反抗した。
「不様でも、それを乗り越えるために、ここまで戦ってきたんじゃないのか俺は──」
自分自身の妥協とあきらめ。その心が、いつだって様々な理由を行けて俺に囁く。
お前は運悪く、不遇なスキルを身に着けちまった。
そして他の奴らは強力な魔力とスキルを手に入れてしまった。
それでも今までSランクパーティーとして活躍してきたじゃないか。
それに、いまパーティーを追放されたとしても、「元Sランクパーティーのメンバー」としての肩書きはある。それなりに他のパーティに引く手あまたになるだろう。
アイツらが強すぎただけで、俺の人生は決して不幸だったわけではない。周囲が強すぎて、相対的に不遇となってしまっただけだ。
これは、仕方がない。
逃げ帰ったとわかれば、俺を見捨てたやつらは俺に向かって指を差して笑うだろう。
やはりこいつは「俺たち」が強いだけで光り輝いていただけの雑魚だと。
仕方がない。
俺のスキルは、不遇で、使えない。
俺の心が、いつものように納得する理由を囁く。今までの不遇だった人生に言い訳をするように。
黙れよ──!
そんな弱気になった俺自身。それに逆らうように叫ぶ。
俺がそれでも勝負に出るのは、そんな自分が嫌だから。
そして俺は思い出す、冒険者として通用しなくて、いつも俺に当たり散らしてきた父親の存在を。
いつも家で酒浸り。やることといえば文句ばかり言って周囲に当たり散らすだけ。
それも、俺を認めてもらえないギルドや冒険者が悪いと毎日のように文句ばかり言って。
もう冒険者なんてどうでもいいと言いながら、酒が入るとあいつは使えねぇとか、俺は本当はすごいんだとか。
そんな、自分の気持ちにふたをして、あきらめる理由ばかり探して。そんなのは、絶対なってたまるか。死んでもごめんだ。
だから、俺はあのパーティーに入って冒険を続けていた。
だったら、戦い続けるしかない。バカだと、無謀だとわかっていても──。
どんな悪路だって、障害だろうと、戦って、踏み超えていくしかない。
だから、どれだけ強い敵であろうと前へ。
たとえ力がなくなって、戦えなくても、その先へ──。
「こんなところで、負けてたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「む、無謀、ですわ──」
「グゥゥゥゥオラァァァァァァァァァァァァ──!」
そして俺は攻撃を受け止めていた剣で力任せに、攻撃そのものをはじき返す様に切りつける。
全力を出して彼女の攻撃を切り刻むようにしての反撃。フリーゼが驚愕しているのがわかる。今までの俺らしくない、感情に任せた反撃。
それは無謀な行為だ。大きな海の水をバケツですべて取り除こうとするようなものだ。
彼女の攻撃とは魔力が違いすぎる。
魔力が持つはずがない。
フリーゼもその行為に驚いた表情を見せ始め、やめさせようとする。
「体がもつはずがありませんわ。魔力が底をついてしまいますわ」
俺も心の底では理解していた。確かに彼女の言葉は、正しい。
それでも、やめるわけにはいかない。
それが、俺の最後の──不遇だった俺の、それでも運命に抗い、戦い続けてきた最後かもしれないから。
何度も何度も、自分の目の前にある障害を切り続ける。
無謀としか思えなかった攻撃、何度も切りつけるうちに、攻撃自体に無数の亀裂が生じる。
そして──。
ガッシャァァァァァァァァァァァァン──!
フリーゼの放った攻撃が、俺の無謀な斬撃に耐えきれず、崩壊、四方に爆散する。
その光景を見て、あぜんとする彼女。
「私の攻撃を、打ち破ったのですか?」
無表情でそうつぶやいたフリーゼ、そっと右手を上げた。すると前方にあった俺たちが通った門がゆっくりと閉じていっているのがわかる。
それでも俺たちはウェルキが先頭になって逃げ続けた。
ミュアが若干逃げ遅れている。彼女は裏方のサポート役で、運動神経に難がある。
息を荒げて全力で走っているのはわかるが、徐々にアドナたちと距離が徐々に開いている。
走るペースを見ていると、このままではウェルキ、アドナしか助からないだろう。
それを見たキルコがチッと舌打ち。
「チッ──、仕方ない」
そして彼女は機嫌が悪そうに右手を上げる。すると右手は強く光始めた。その光がミュアやキルコ自身に降り注ぐ。
「足が、速くなった?」
「しょうがないね。早く逃げるんだよ!」
恐らく脚力強化の術式だろう。ミュアとキルコの足が急激に速くなった。
ミュアは隣を走っていた俺をあっという間に俺を追い越し、キルコに追いつく。
二人とも、前を走っているウェルキとアドナに追いつきそうな勢い。
対して、俺だけが脚力強化の術式を受けていない。そして仲間は誰一人俺の方を振り向かない。
その時、俺は理解した。完全に俺を見捨てる気だった。助けるつもりなどなかった。すでに、俺は仲間ではないのだと。
──まずはアドナとウェルキが閉じていく門を潜り抜ける。
続いて数秒ほどたってから、ギリギリでキルコとミュアがギリギリで門を抜けてこの場から脱出していった。
そして……。
キィィィィィィィィ──、バタン!
俺が逃れようとした数メートル先で、無情にも門は閉じてしまう。
同時にカッカッと、ゆっくりと足音がこちらに向かっているのがわかる。
走らなくても、俺を仕留めるのは簡単だと理解しているのだろう。
「さあ、逃げても無駄です。立ち向かってきなさい。さあ、かかってくるのです。冒険者よ」
冷静な表情で、俺を見つめながら言い放ってくる。彼女と目があった途端、俺の体が震えはじめた。
なんとなくだけど、理解できる。
これは、自分の死だ。それが迫っていると、身体が警告しているんだ。
俺は 勘だけは鋭かった。
パーティーでは露払いの役を押し付けられることが多く、危機管理をしっかりしないと危険なトラップや、強力な敵に遭遇し命が危うくなってしまう。
そのために、いつも精神を研ぎ澄まし、その気配を感じ取っていた。だから理解しているのだ。
ここで降参しないと、死ぬぞ──、と。
全身が恐怖に染まっていく。身体が震えあがり、冷たく凍るような感覚が走る。
早く逃げろ。じゃなかったら──、死ぬぞ。
俺の心が叫び続けているのがわかる。いままででもダンジョンを攻略していく中でこの声はあった。
そしてその声は、すべてにおいて正解だった。その先には、必ず死と隣り合わせのトラップがそこにあった。
今回も、正解なのだろう。
だが、今回は逃げるという選択肢はない。軽く震える足で剣を構え、フリーゼと見合わせる。
「さあ、あなたの強さ、見させてもらいます!」
しかし、実力の差は歴然だった。
圧倒的な実力差の前に何度も攻撃を食らい、追い詰められる。
今まで見たことがないくらいの圧倒的な力。
そして俺はフリーゼに追い込まれてしまう。
「この程度ですか? 残念です。では、これで最後です」
そして彼女は剣先をこっちに向ける。剣先から今までにないくらいの魔力を感じ、そこから巨大な光線が向かって飛んできたのだ。
「星脈流星群<ステラ・エアレイド>」
その気配だけでわかる。よけられそうもない。そして俺の障壁ではとても守り切れるとは思えない強大な魔力。
打つ手などない。
その光景を見ながら、俺は今までの自分のことを思いだした。
パーティーからは、認められることはなかったが。それでも、精一杯戦った。
持てる力を駆使して、パーティーの雑用係だけど、彼らの攻撃を緩和させるために障壁を張り、先陣となってトラップを回避や駆除をした。
確かにこれらは、他の仲間たちの様に華々しい活躍とは違って目立たない。
それでも、技術も、経験もいる仕事。
だから、一度くらい認められたかった。
しかし、その瞬間が訪れることは永遠になかった。
今まで俺を支えてきた感覚が、俺の本能が叫ぶ。
不様でもいい、
全力であらがった。
俺はその声を──。
全力で否定し、反抗した。
「不様でも、それを乗り越えるために、ここまで戦ってきたんじゃないのか俺は──」
自分自身の妥協とあきらめ。その心が、いつだって様々な理由を行けて俺に囁く。
お前は運悪く、不遇なスキルを身に着けちまった。
そして他の奴らは強力な魔力とスキルを手に入れてしまった。
それでも今までSランクパーティーとして活躍してきたじゃないか。
それに、いまパーティーを追放されたとしても、「元Sランクパーティーのメンバー」としての肩書きはある。それなりに他のパーティに引く手あまたになるだろう。
アイツらが強すぎただけで、俺の人生は決して不幸だったわけではない。周囲が強すぎて、相対的に不遇となってしまっただけだ。
これは、仕方がない。
逃げ帰ったとわかれば、俺を見捨てたやつらは俺に向かって指を差して笑うだろう。
やはりこいつは「俺たち」が強いだけで光り輝いていただけの雑魚だと。
仕方がない。
俺のスキルは、不遇で、使えない。
俺の心が、いつものように納得する理由を囁く。今までの不遇だった人生に言い訳をするように。
黙れよ──!
そんな弱気になった俺自身。それに逆らうように叫ぶ。
俺がそれでも勝負に出るのは、そんな自分が嫌だから。
そして俺は思い出す、冒険者として通用しなくて、いつも俺に当たり散らしてきた父親の存在を。
いつも家で酒浸り。やることといえば文句ばかり言って周囲に当たり散らすだけ。
それも、俺を認めてもらえないギルドや冒険者が悪いと毎日のように文句ばかり言って。
もう冒険者なんてどうでもいいと言いながら、酒が入るとあいつは使えねぇとか、俺は本当はすごいんだとか。
そんな、自分の気持ちにふたをして、あきらめる理由ばかり探して。そんなのは、絶対なってたまるか。死んでもごめんだ。
だから、俺はあのパーティーに入って冒険を続けていた。
だったら、戦い続けるしかない。バカだと、無謀だとわかっていても──。
どんな悪路だって、障害だろうと、戦って、踏み超えていくしかない。
だから、どれだけ強い敵であろうと前へ。
たとえ力がなくなって、戦えなくても、その先へ──。
「こんなところで、負けてたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「む、無謀、ですわ──」
「グゥゥゥゥオラァァァァァァァァァァァァ──!」
そして俺は攻撃を受け止めていた剣で力任せに、攻撃そのものをはじき返す様に切りつける。
全力を出して彼女の攻撃を切り刻むようにしての反撃。フリーゼが驚愕しているのがわかる。今までの俺らしくない、感情に任せた反撃。
それは無謀な行為だ。大きな海の水をバケツですべて取り除こうとするようなものだ。
彼女の攻撃とは魔力が違いすぎる。
魔力が持つはずがない。
フリーゼもその行為に驚いた表情を見せ始め、やめさせようとする。
「体がもつはずがありませんわ。魔力が底をついてしまいますわ」
俺も心の底では理解していた。確かに彼女の言葉は、正しい。
それでも、やめるわけにはいかない。
それが、俺の最後の──不遇だった俺の、それでも運命に抗い、戦い続けてきた最後かもしれないから。
何度も何度も、自分の目の前にある障害を切り続ける。
無謀としか思えなかった攻撃、何度も切りつけるうちに、攻撃自体に無数の亀裂が生じる。
そして──。
ガッシャァァァァァァァァァァァァン──!
フリーゼの放った攻撃が、俺の無謀な斬撃に耐えきれず、崩壊、四方に爆散する。
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