上 下
4 / 203

唯一王 見捨てられる

しおりを挟む
 彼女はとくに詠唱をするわけでもなく、スッと、剣を彼に向けた。


 いでよ、星脈聖剣<ステラブレード>!

 そしてフリーゼとウェルキの剣が刃を交える。しかし──。

「か、かってぇ──、何だこの魔力……」

 ウェルキは彼女に何とかダメージを与えようと、力を入れるが、彼女の剣は全く動かない。

「どうしたのですか、お遊戯ですか? 本気を出してください。それとも、すでに本気を出しているのでしょうか」

 フリーゼは全く表情を変えず、涼しげな表情をしている。
 ウェルキの攻撃など、彼女にとってはお遊戯同然なのだろう。

「う、う、うるっせぇ! こんなの手加減してるだけだぁ!」

 ウェルキはムキになり叫んだあと、さらに反撃を続ける。
 それに対してフリーゼ。

 ウェルキの槍が今までにないくらい強く紫色に光始めた。彼の属性は「エスパー」、その力をありったけ込めているのがわかる。

 そして一気にその槍を振り下ろす。見たことがないくらい気迫に迫る表情。本気でフリーゼを倒しに来ているのがわかる。

 そんな全身全力ともいえる彼の一撃。フリーゼはその攻撃に対して反撃しようとも、よけようともしない。

 じっと彼の振り下ろす攻撃を見た後、そっと人差し指をかざす。





「ぬるいですわ。所詮あなたたちではこの私に一撃を与えられることなどできるはずがないのですわ」

 ウェルキが全力で振り下ろした一撃。その攻撃はフリーゼの指に触れた瞬間、その指に吸い付いたように止まってしまったのだ。

 驚いて目を丸くするウェルキ。何とか彼女にダメージを与えようと、槍に力を入れて押し通そうとしている。

「この野郎。ナメたマネしやがってぇぇぇぇぇぇ!」

 が、彼の槍は彼女の指の先から一ミリも動くことはなかった。アドナは、ただ彼女をじっと見ている。今のやり取りで、完全に実力の差を理解したのだろう。

「なめてなどいませんわ。そなたこそ、もう少し本気を出してください」

「ふざけんじゃないわよ! ミュア、いくわよ、合体技!」

「う、うん」

 キルコは杖を、ミュアが両手を目の前にかざす。
 キルコの杖から黒い波動を、ミュアの両手から魔力を伴った水が放たれる。そして互いの魔力が合体し強大な球状の波動弾となっていった。

「「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」

 いつも見ていた俺だからわかる。これも二人の全力だということを。しかし、現実は非情だった。
 フリーゼは自らに向かってくるその攻撃。それを、そこにいるハエを払うような軽いそぶりで手を払う。
 二人の攻撃は、その手にはじかれ消滅していった。

「皆様、その程度ですか? 全力を出してくださいと言ったでしょう。それとも、すでに本気を出しているということですか?」

 あまりの実力の違いに絶望しきっているアドナ達。表情が見る見るうちに絶望に染まっていくのがわかる。


「それでは、今度はこちらの番です」

 そうつぶやいたフリーゼは左手を天に向かって上げる。そしてその手から今までにないくらい強力な魔力を感じ始めた。


「みんな、こっち来て!」

 ミュアが周囲に向かって叫ぶと俺たちは彼女の元に走っていく。そして全員が自分の背後に対したのを確認したミュアがフリーゼに向けてパッと両手をかざす。

 神なる聖水の導きよ──、私達を護る障壁となれ!
 ウォーター・ウォール・スターライト

 水でできたミュア最強の障壁。今までどんな強力な攻撃をもはじき返してきたこの国一番の強度を誇るといわれる障壁。

 もちろん俺の魔力も入っている。これが俺達の出せる最も強い障壁。

 フリーゼはミュアの方向に体を向ける。そして魔力をともっている左手を俺たちの方向に向けてくる。

 そしてその手から緑色の波動弾は俺たちに向かって襲い掛かってきた。
 ミュアはその攻撃を防ごうと障壁に魔力を込め、強固にしていく。


 だが──。

「甘いですわ!」

 ガッシャァァァァァァァァァァァァン!!

「うそ……、でしょ。私の障壁が──、敗れたの?」

 衝撃の事実に唖然とするミュア。

 障壁がガラス細工だったかのように一瞬で粉々になり、打ち砕かれた。
 それだけではない、フリーゼの攻撃の勢いは全く衰えず、俺たちに向かってくる。

 ミュアの防御でだめなら俺たちにこの攻撃を防ぐ手立てはない。

 俺たちにフリーゼの巨大な波動弾が衝突。
 波動弾は大爆発を起こし、俺たちは空中に吹き飛ばされてしまう。

 それぞれが吹き飛ばされ、肉体が壁にたたきつけられる。
 ミュアは、その強さの違いに絶望しきっている。

「こ、こんなの──、勝てるわけない……」

 その後も、アドナやキルコ、ウェルキが果敢に突っ込んでいくが、結果は一緒。ダメージ一つ与えられず、ただダメージを受けるだけ、体力を消耗し疲弊していくだけだ。

「なんだこいつ、強すぎだろ」

 絶望しきったウェルキの顔。彼らの心が敗北で染まっていくのがわかる。
 俺だけじゃない、全員の顔が恐怖に染まっていく。
 リーダーのアドナは絶望しながらも、冷静な心を取り戻し、決断をした。彼はパーティーを束ねるリーダーだけある。

「仕方がない。逃げろ!」



「勝てねぇ、なんだこいつ、化け物じゃねぇか。し、仕方ねぇ。」

 言葉を交わさなくても、互いに表情を見てこいつは戦えるような相手ではないと、相互理解を始めた。

 ウェルキさえも、圧倒的な力の差に闘志が失っているのが一目でわかる。


 そして俺たちは全員一斉に逃げ始める。俺たちの頭の中に、恥やプライドなどという言葉はとうに消え去っていった。

 しかし、現実は非情である。


「逃がしませんよ──」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜

あーもんど
ファンタジー
1プレイヤーとして、普通にVRMMOを楽しんでいたラミエル。 魔王討伐を目標に掲げ、日々仲間たちと頑張ってきた訳だが、突然パーティー追放を言い渡される。 当然ラミエルは反発するものの、リーダーの勇者カインによって半ば強制的に追い出されてしまった。 ────お前はもう要らないんだよ!と。 ラミエルは失意のドン底に落ち、現状を嘆くが……『虐殺の紅月』というパーティーに勧誘されて? 最初こそ、PK集団として有名だった『虐殺の紅月』を警戒するものの、あっという間に打ち解けた。 そんなある日、謎のハッカー集団『箱庭』によりゲーム世界に閉じ込められて!? ゲーム世界での死が、現実世界での死に直結するデスゲームを強いられた! 大混乱に陥るものの、ラミエルは仲間達と共にゲーム攻略へ挑む! だが、PK集団ということで周りに罵られたり、元パーティーメンバーと一悶着あったり、勇者カインに『戻ってこい!』と言われたり……で、大忙し! 果たして、ラミエルは無事現実へ戻れるのか!? そして、PK集団は皆の英雄になれるのか!? 最低で最高のPK集団が送る、ゲーム攻略奮闘記!ここに爆誕! ※小説家になろう様にも掲載中

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

処理中です...