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2章
どうして、ここに?
しおりを挟む話の内容によると、貿易の品についての会話のようだ。色々な物資のことについて、ひそひそと話しているみたい。よく耳を澄まして、何とか中の話を聞く。
「例の品物は──手に入りそうですか?」
「あぁ……秘薬と香辛料ですね。輸送路で何度かモンスターに襲われましたが、警備役の冒険者たちが守り切ったそうです。しかし、このままこういった襲われる事態が続くと、商人が輸送するのを渋るケースが増えるかもしれません」
「とりあえず、よかったです。しかし、輸送路の確保は要検討ですね。議会でも取り上げてみます」
「ありがとうございます。しかいメンデス様が言っていた、この──アオカビのコロニーからとれる薬。そこまで高値で売れるんですか?」
「はい。娼婦の人特有の病気に効くんです。これ以外に、彼女たちが生き残る道はありません。ですので、需要が途切れることはないし、こちらとしても収入減になります」
「あれ、専門の技術や知識がある人がいないと作れないんですよね。それでも、失敗して作れない場合もあるようで」
「それは聞いています。それでも、欲しいことに変わりはありません。調合の方を、引き続きお願いします」
なにか、商品について話をしていたという事か。
聞いたことがある、娼婦や彼らに下半身の世話をしている人の共通の病というものが。次第に顔が崩れていき、赤い腫瘍ができて最後には死に至るという病だ。高額だが、それを直す秘薬があると聞いたが、メンデスの領地でそれができる人がいたとは──。
確か、ローランド・ダンツィリ地方だっけ。歴史的に領有権で騒いでいると有名な。
しかし、どうしたものか。このまま立ち上がらないでここにいたことは内緒にした方がいいかもしれないわね。
そう考えた時──。
「待ってください」
そう言ったメンデス。そしてしばらく音が聞こえなくなる。
「え──あなた達」
キィィィィィィ──。
古びた造りの窓が開くと同時に真上から真上から顔を出したメンデスと視線が合ってしまった。
「あ~~バレちゃったか」
「気配だけはしてました。で、どうしたんですか?」
メンデスは一歩引いて怖がりながらもこっちを睨んでいる。当然だ、秘密裏にはなしていたはずがこうして聞かれていたのだから。
険悪な関係になるのはまずい、この後の政治にも影響する。
考えて、ちらりとミシェウに視線を置向けると、ミシェウはあわあわと手を振りながら言葉を返してきた。
「ああ、息抜きだよ息抜き、うちら遠征だったじゃん。それで疲労がたまってたから2人でお出かけしてたんだよね。んでメンデスを見かけたからさ──ちょっと声かけてみた」
「まあ、そんな感じです」
メンデスは、私達から目をそらし、オドオドしながら言葉を返す。
どうすればいいのか、やはり戸惑ってしまう。でも、逃げてばかりいてはだめだ。
国全体の動きを見なきゃいけない以上、宮殿にいる人間が怪しい動きをすれば警戒するのは当然の事。
人柄とか、そういう問題じゃない。本人は大丈夫でも、良心を悪用している可能性だって十分にある。動きを探るのは当然の権利なのだ。
「とりあえず、中に入ってください。ここでは色々と情報が洩れるリスクがあります」
「わかったわ」
私達は窓から部屋に入る。人が住まなくなって年月が経っているのか、埃被っている場所が多い。
その中で、比較的埃がかぶっていないソファーがあって、そこに4人座り込んだ。沈黙の時間。どうしようか考えて、答えを出した。
「メンデスさん、聞きたいことがあるんですがいいですか?」
「どうぞ」
受けに回ってばかりではダメ、こっちからも、質問していかないと。
「そちらこそ、どうしてこんなところにいるんですか?」
「あ、あ──」
「ずいぶん治安が悪い場所みたいですが、何か用事とかあったんですか?」
「えーと、それは──ですね」
「それで?」
その質問に、一瞬肩をビクンとさせてから答える。
「私達マーシャル家の領土。ローランド・ダンツィリ地方との交易の件について相談していました」
「交易?? この人は商人ってことなんですか?」
隣りにいる男の人は、眼鏡をくいっと挙げてから答える。
「商人ではありませんが、彼らの代表者といった感じです」
「彼、私たちの土地からの移民なんです。そして、彼らの言語が話せることを生かしてダンツィリ地方の人とコミュニティーを作り、困ったことなどの意見を取りまとめたり、情報の橋渡しをして要望などをしているんです」
「具体的に言うと、交易路に山賊などが時折現れ、損害が発生していること。それと、様々な妨害を食らっているので何とかしてもらえないかと要望をしているんです」
「というと?」
「こちらの許可がないと、賄賂を要求する人たちに足止めを食らったり、不当に金銭を要求して、値段の高騰の原因になったりしてしまうんです」
地方では珍しい話じゃない。王都では、何度も目を届かせてそう言ったことがないか私たちが見ているが、他の領主の地方まではさすがに見切れない。なので、王都から遠く、いくつかの領地をまたがなければならない場合安全な輸送というのは死活問題なのだ。
「メンデス様の重要な支持層の生活──というか生死にかかわることなので、ぜひともメンデス様など、マーシャル家の皆様の力添えが必要かと思いまして、こういった形で協力の要請をしているのです」
「えーと、あまり……そういった言い方は」
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