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2章

砂の身体

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 体を変化させる術式。確か聞いたことがある。

 砂以外にも、水だったり──炎だったり。体を変化させるほかにも、それをこっちに放って攻撃してきたり。戦い方は人によってさまざま
 ほとんどの共通点は物理攻撃が当たらないという事だ。だから、ダメージを負わせたり倒すには物理ではなく魔法攻撃による火力頼みになる。

 物理攻撃が聞かない以上接近戦は無意味という事。
 反対にこいつはどれだけ接近して無謀な攻撃を仕掛けても魔力が切れない限り致命傷にならないとい。

 だから思いっきりの良い攻撃ができる。だって、私たちが攻撃を食らえば致命傷になるような傷でも、こいつにとっては魔力を多少消費するだけで済む。だからこいつは、これからどんどん接近戦を挑んでくるだろう。

「だが、それでだけでは半分──どうやってそれを攻略するかな?」

 その予想通り、ヴァシリーは急接近したのちに防御を無視して私の何度も攻撃を仕掛けてきた。

 力任せの攻撃、必死に神経を研ぎ澄まし攻撃をかわしていく。後退しながら攻撃を受けるがやはり防御だけだと限界がある。

 どこかで攻めないと、サンドバッグのように一方的にやられるだけ。

 距離を取りながら、ヴァシリーが前がかりになった時にこっちは身を屈む。そして無防備になっているヴァシリーに突っ込んだ。

 思いっきりわき腹に突き刺す。突き刺したのだが──ヴァシリーは一瞬苦悶の表情を浮かべるだけで一歩も引かない。

「だからそれは──無意味だっつってんだろ!!」

「ぐっ!!」

 ヴァシリーは私の剣が脇腹に突き刺さったまま銃を振りかざす。やはり自分の犠牲をためらわずに攻撃するつもりだ。

 私が剣を握っている腕の手首を抑えて、私の動きを封じてくる。しまった、これだと距離をとれない。


 ヴァシリーが銃を下ろしてから、私に向かって振り上げてくる。
 慌てて身をよじり、無理やり下がって攻撃をかわす。振りかざした瞬間に押さえつけていた力が弱くなったおかげで、その瞬間に力を入れて何とかヴァシリーから離れて距離をとって、肩にかすっただけで済んだ。
 かすり傷を負った肩を抑えながら、ヴァシリーを睨みつけて剣先を向けながら言った。

「痛みを、感じないんですか?」

「よく気付いたな」

 そう、体を何かに変換する術式。感覚自体を遮断できるわけではない。傷つかないにしろ痛みは受けるはず。体を突き刺すくらいの痛みなら苦悶の表情を浮かべるなど何かしらリアクションがあるはず。でも、今のヴァシリーにはそれが全くない。体はビクンとも動かないし、表情が全く変わらない。

「この地に生まれたという意味を知らないらしい」

「どういうことですか?」

「暴力沙汰など──日常茶飯事だった。この地は資源や食料に乏しく、ひとたび雨が降らなくなればわずかな資源をめぐって争いの日々」

「こっちの歴史については、理解してます」

「話は早い。争いのたびに人が死に、俺たちは常に死と隣り合わせになった。強くなければ、自分より先に相手を殺さねば自分が殺される世界──何度も死にかけた俺にとって、この程度の痛みなど日常なのだよ」

「つまり、痛みに対する感覚がマヒしてるという事ですね?」

 ヴァシリーは建物の外へ。
 私も、ついていくかのように外へ。これ以上暴れると建物が壊れる。夜とはいえ、人目についてしまうが仕方がない。それに、このまま戦いを続けていると建物の下敷きになる可能性が高い。

「貴様──相当上流育ちだろ」

 なんでわかる? 相手に悟られたくないから表情を変えずにじっとヴァシリーを睨む。

「ふん、服装は騙せても、素振りや歩き方──戦い方を見れば十分にわかる」

 力が強くなっている──まるで攻撃1つ1つに魂がこもっているようだ。

「貴様がどうしてここにいるかは知らんし興味もない。しかし──貴様のような身分の物を見ると、殺意が全身から湧き上がってくる。見ているだけで貴様の全身を引き裂いて家畜の餌にしてやりたいくらいだ」

「随分恨まれてるわね」

 苦しみながら、ミシェウがにやりと笑う。

「私もいるよ」

 そしてヴァシリーの背後に突っ込んできた。

「私もいるよ」

 それから、ヴァシリーの背後に突っ込む。こっちが巻き込まれるのを承知で。
 2対1になるが、強敵だとどうしても相手のことを気にしなければならず、ミシェウの方まで意識しきれなくなる可能性がある。

 だから今までミシェウは戦いに突っ込まなかった。ただ人数をかければいいという事ではない。

 しかし、ここまで押されていると、そうも言ってられない。リスク承知で戦いに加わってきた。

「天候は──雷」

 ミシェウの魔法攻撃が雷となってヴァシリーに向かっていく。ヴァシリーは気にも留めなかった。雷が直撃したが──。

「俺には効かんのだよ。残念だったな」


 全く効いていない。さっきとはまるで違う、ダメージすら入っていない様子だ。

「うそ……」

 それからも、私たちはあきらめずに突っ込んでいく。引いたら、こいつはそれだけ攻撃してくる。

 だから無理にでも攻撃を行わなくてはならない。しかし、傷を受けても体に損傷は生じないヴァシリーの攻撃は激しく、徐々に押されてしまう。


「当たり前だ──俺たちは、常に死と隣り合わせだった。戦いだけじゃない、ひとたび砂嵐が来れば部族丸ごと消滅。砂漠を旅すれば、出会う死体は10や20ではすまされない」

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