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2章

過酷なこの地

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「それは羊のミルクです。個性的な味してますよね」

「遠征の醍醐味ですよね。食べたことのもないものを食べるのって」

「まあ、当たりはずれあるんだけどね」

「それはわかります」

 本当にそう。美味しいものに当たるといいんだけど、まずいものに当たるとすごい気が落ちる。ましてやそれ以外にろくに食べ物がないような場所だってある。おまけに、そういうときに限って外交上拒否できないようなときだったりして──何とか我慢して食べ終わった記憶がある。

 それから時間になって、マリーとはいったん離れることとなった。
 警戒心が強く、すでにこっちを見張っている可能性だってある。一緒にいているところを見られるのはよくない。

「離れたところから隠れて見ているわ」
「わかりました」

 そして、私たちはバラバラに行動する。

「じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい。くれぐれも、身の安全を第一に考えて。無理はしないでね」

「相手は裏世界の人間、どんな手を使ってくるかわからないわ」

「ありがとうございます」

 マリーがこっちを振り返って、真剣な表情でごくりとうなづいた。
 そして、扉を開けて部屋を出ていく。

 一応、マリーと一緒のタイミングで外に出ていくのは避けたい。しばらくしたら、私たちも部屋を出よう。これから、細かいところにも気を付けないと。変なところで疑われたらもったいないし。


 数分ほどして、私たちも外へ出ていく。きょろきょろと周囲を見回してみたが怪しい動きをしている人はいない。日は完全に落ちてあたりはすっかり暗くなっている。
 キレイで澄み切った夜空の夜。取引自体は夜遅くから始まる。少し、この街の様子を見ておこう。
 背景を知ることも任務のうちだ。

 繁華街で商人の人と会話を楽しむ。

「最近は水不足でねぇ、作物は不作だし川が干上がってきてるし心配だよ」

「大変ですね」

「全くだ。水が不足してくると、少ない水をめぐって争いがおこる。それで貧しくなった人が裏社会へあふれたりしてさ。大変なんだよ」

「ああ……」

 その言葉に、マリーのことを思い出した。確かに、海から離れた永遠と平地が続くこの地方は──過酷な気候だ。

 夏は40度、冬は氷点下になることだってある。何カ月も雨が続く雨期に、半年以上雨が降らない乾季。農業に向かない土壌。

 年によっては雨期に十分雨が降らず少ない水をめぐって争いになったり。

 だから、ああいったことに手を出してしまったのだろうか。
 考えても答えは出ない。そろそろ時間だ。

「じゃあ、行きましょ」

「ええ」


 暗くなった街の外れ。遠くからは繁華街特有のにぎやかな声が聞こえてくる。人通りはあまりない。

 酔っ払いが楽しそうに何か歌っていたり、ゲルというテントの家から知らない言葉の歌声が聞こえる。楽しそうで家族みんなで歌っている感じ。

 ちなみに民族衣装を買ってきて、現地人であるかのように装っている。デールと呼ばれる、青を基調としたロングスカートみたいな服装。

「言葉は大丈夫?」

「OK!」


 さらには言葉。ここまでの移動中にマリーから教わっていて簡単な言葉なら話せるようになった。

 そこからしばらく歩いて、廃墟のようなぼろぼろの家屋が何軒も連なっているような場所。
 家と家の間には使われなくなった木の箱がいくつか捨ててありごちゃごちゃした空間になっている。この辺りだったわね。

 隠れるのはうってつけの場所。木箱が連なっている間に、2人で体育すわりで隠れる。取引の場所は、背中越しにある家屋。

 幸い、上に窓がある。カーテンで隠れているから少しだけ窓を開ける。ここから音を聞いて、何かあったら捕まえに行こうか。
 コンコンとノックの音が鳴り響いて、さっと扉が開く。

 少し間が空いて言葉が返ってきた。

「よく来たな」

「約束、破るわけにはいきませんから」

「だな。そしたらこの世界では生きていけん。次に会ったら八つ裂きだったな」

 2つの声がする。一つはマリーの声。声が震えていて、どこか恐怖を感じているのがわかる。それからもう一つは男の人かな、低くてちょっとぼそぼそしたような声。

 いよいよ始まるんだ。こっちの地方の言葉だと片言しかわからないけど大体のことはわかる。

「わかります。そうなった人を何度も見てましたから」

「懸命だな。こんなことに手を出して裏切った奴の末路はそんなもんだ」

 それはわかる。私も、街の裏社会のことを調べたが──彼らは裏切ったり足抜けするような奴には容赦ない。ただ殺すだけでなく、磔にしたり殺して身体をバラバラにして惨殺したりとそれはもう凄惨な光景としか言えなかった。

 どこかで押さえなきゃ──でも、こういうやつってGみたいに危機察知能力が高くて少しでも変な空気を感じたらすぐ逃げられるし、逃がしたらマリーの安全だって危うくなる。

 慎重にいかないと。相手に気づかれないように、気配を消して。決して物音を立てないようにして耳を澄ます。

 後、2人の会話から色々と情報を知りたい。とりあえず、今は話を聞いておこう。


「とりあえずさ、これがエイボンはどれだけ売れた?」

「今回は──運が良かったです。全部捌けました」

「そうか。いいセンスしてるな。素晴らしいよ」

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