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2章
紛糾
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シャマシュが話しかけてくる。
「荒れるでしょうね、この会議」
「まあね。ヒートアップして話が進まなくなったら、何とか抑えないと」
「そうね」
多分、感情のぶつかり合いになると思う。そうなったら、何とか止めないと。私とシャマシュはぎゅっと手をつなぎながら会議室へ。
冷たくてやわらかいシャマシュの手、ずっとつないでいたいくらいだ。
階段を上がって、王宮で一番広い大広間の前へ。
「とうちゃーく」
キィィと扉が開くと、なんだか重苦しい雰囲気で、場違い感がある。そりゃあそうだよね……あんだけ犠牲者が出て。被害を被って。
細長い机の、一番奥にいるカイセドとメンデス。どこか複雑そうな表情。
私とシャマシュはその隣の席。
ほどなくして、メイド服の女の人が紅茶を持ってきて会議が始まる。紅茶に角砂糖を1つ入れて1口飲むと、向かい側の人が立つなり感情任せに叫んだ。
「家畜達だっていっぱい川に流された。これから春だってのに畑を耕すのに家畜たちはなくてはならないのにどうするつもりだよ」
それに続くように、今度は一番ドア側にいる中年の男が叫ぶ。
「うちの地区の奴らだけなんでこんなに犠牲者が多いんだよ。これから国境警備に支障が出るぞ。どうするつもりだ」
どこかよれた服を着ている。確か、南部に領地を持つ下級貴族の人。
辺境の地方で人口に困っていたんだっけ。若い人というのは労働力であっただけに、死活問題になっているんだわ。おまけに貧しい土地ときたもの──彼らがいなかったら、老人や女性まで生活ができなくなる恐れがあるのだから。
「うるさい、もとはといえばお前たちが冒険者や兵士に十分な教育をしてないのが悪い。進軍速度は遅い、戦いは弱い。統率力もない。お前たちの教育が生ってないから悪いんだ」
「ふざけるな。教育はしている、だがこんな過酷な戦場や家畜の運搬や補給など想像できるか!」
「そこまで想定するのが貴様の役目だろうが──」
「なわけあるか。草原の家畜をジャングルで歩かせる奴があるか」
まずいな──彼が怒鳴った途端、みんながそれに反応するようにホーネルカーに向けて怒鳴り散らした。
確かに気持ちはわかるけど、これじゃあ糾弾会になって物事が何も進まなくなっちゃう。
ホーネルカーや参謀の人たちも誰一人頭を下げるどころか立ち上がって言い返している。
誰一人責任を取ろうとしない。全員が罵声を浴びせあっているような状況。
当の一番の責任者のホーネルカーも、周囲からの罵声に反省の色もなく言い返す始末。
「この野郎。こっちだってうまくいくはずだったんだよ、仕方ねぇだろ」
「そうだよ、こっちだって必死こいて戦ってってのによ」
「んなもん知らねぇよ。弁償しろ」
一気にヒートアップするこの場。確かにこいつらが悪いのには同意だけど、ただ感情をぶつけあっても全く話を進まない。何とかして冷静さを取り戻させないと──。でもどうすれば、私が何を言ったところで誰も言うことを聞かないだろうし。心になかであたふたしていると──隣のシャマシュがあきれたかのようにため息をついた。
「ふぅ──ちょっと、言い返します」
冷静だが、棘のある口調でぼそっと呟いている。感情的にこそなっていないが、相当怒っているのがわかる。
そして、ゴゴゴと効果音つけたくなるような雰囲気で立ち上がった。幼い顔つきなのに、どこか迫力を感じる。
無表情のまま、ホーネルカーに視線を向けた。
「シャマシュ──なんだよ、言いたいことがあるなら早く言えよ」
シャマシュは動じない。じっと周囲を見回して、視線がこっちに集中したのを確認してから全体に向かって話始める。
「当たり前です。自分の考えたことがうまくいかないなんて当然じゃないですか。相手だって、戦場の霧だってある。そんな中でどうやって状況を解決していくか、被害を食い止めるか。限られた手段の中で最善を尽くすのが私たちのなすべきことじゃないですか」
強い表情で、シャマシュが言い放つ。真剣な表情で、強い気持ちをもっているのがわかる。
やっぱり、こういう時のミシェウの迫力はすごいものがある。
だって、あんな小柄で子供っぽい外見なのに男たちに言い負けないんだもん。強く言われても、臆さず向かっていてるし。まあ、シャマシュは何でも戦場で強い敵や過酷な状況で戦っているしこんな平和なところでの口論では恐怖なんて感じないのよね。
「とりあえず、ホーネルカー。わかっていますね?」
「なんだよ。言いたいことがあるならさっさと言えよ」
「責任者な以上、結果が出なければその責任を負うのは当然です。それが負けた指揮官の務めというものじゃないですか。まあ、もうあなたは終わりですが。絶対に、指揮はとらせません」
「ふざけんなよ」
それからも、罵声の繰り返し。シャマシュは一歩も引かない。う~~ん、話が進まなくなっちゃった。話したいこととかいっぱいあったんだけどなぁ。
こういう時に、自分が引くことを嫌がるのが玉にキズよね。日頃は口数が少ないけど、ほんとは血の気が多いというか。
「荒れるでしょうね、この会議」
「まあね。ヒートアップして話が進まなくなったら、何とか抑えないと」
「そうね」
多分、感情のぶつかり合いになると思う。そうなったら、何とか止めないと。私とシャマシュはぎゅっと手をつなぎながら会議室へ。
冷たくてやわらかいシャマシュの手、ずっとつないでいたいくらいだ。
階段を上がって、王宮で一番広い大広間の前へ。
「とうちゃーく」
キィィと扉が開くと、なんだか重苦しい雰囲気で、場違い感がある。そりゃあそうだよね……あんだけ犠牲者が出て。被害を被って。
細長い机の、一番奥にいるカイセドとメンデス。どこか複雑そうな表情。
私とシャマシュはその隣の席。
ほどなくして、メイド服の女の人が紅茶を持ってきて会議が始まる。紅茶に角砂糖を1つ入れて1口飲むと、向かい側の人が立つなり感情任せに叫んだ。
「家畜達だっていっぱい川に流された。これから春だってのに畑を耕すのに家畜たちはなくてはならないのにどうするつもりだよ」
それに続くように、今度は一番ドア側にいる中年の男が叫ぶ。
「うちの地区の奴らだけなんでこんなに犠牲者が多いんだよ。これから国境警備に支障が出るぞ。どうするつもりだ」
どこかよれた服を着ている。確か、南部に領地を持つ下級貴族の人。
辺境の地方で人口に困っていたんだっけ。若い人というのは労働力であっただけに、死活問題になっているんだわ。おまけに貧しい土地ときたもの──彼らがいなかったら、老人や女性まで生活ができなくなる恐れがあるのだから。
「うるさい、もとはといえばお前たちが冒険者や兵士に十分な教育をしてないのが悪い。進軍速度は遅い、戦いは弱い。統率力もない。お前たちの教育が生ってないから悪いんだ」
「ふざけるな。教育はしている、だがこんな過酷な戦場や家畜の運搬や補給など想像できるか!」
「そこまで想定するのが貴様の役目だろうが──」
「なわけあるか。草原の家畜をジャングルで歩かせる奴があるか」
まずいな──彼が怒鳴った途端、みんながそれに反応するようにホーネルカーに向けて怒鳴り散らした。
確かに気持ちはわかるけど、これじゃあ糾弾会になって物事が何も進まなくなっちゃう。
ホーネルカーや参謀の人たちも誰一人頭を下げるどころか立ち上がって言い返している。
誰一人責任を取ろうとしない。全員が罵声を浴びせあっているような状況。
当の一番の責任者のホーネルカーも、周囲からの罵声に反省の色もなく言い返す始末。
「この野郎。こっちだってうまくいくはずだったんだよ、仕方ねぇだろ」
「そうだよ、こっちだって必死こいて戦ってってのによ」
「んなもん知らねぇよ。弁償しろ」
一気にヒートアップするこの場。確かにこいつらが悪いのには同意だけど、ただ感情をぶつけあっても全く話を進まない。何とかして冷静さを取り戻させないと──。でもどうすれば、私が何を言ったところで誰も言うことを聞かないだろうし。心になかであたふたしていると──隣のシャマシュがあきれたかのようにため息をついた。
「ふぅ──ちょっと、言い返します」
冷静だが、棘のある口調でぼそっと呟いている。感情的にこそなっていないが、相当怒っているのがわかる。
そして、ゴゴゴと効果音つけたくなるような雰囲気で立ち上がった。幼い顔つきなのに、どこか迫力を感じる。
無表情のまま、ホーネルカーに視線を向けた。
「シャマシュ──なんだよ、言いたいことがあるなら早く言えよ」
シャマシュは動じない。じっと周囲を見回して、視線がこっちに集中したのを確認してから全体に向かって話始める。
「当たり前です。自分の考えたことがうまくいかないなんて当然じゃないですか。相手だって、戦場の霧だってある。そんな中でどうやって状況を解決していくか、被害を食い止めるか。限られた手段の中で最善を尽くすのが私たちのなすべきことじゃないですか」
強い表情で、シャマシュが言い放つ。真剣な表情で、強い気持ちをもっているのがわかる。
やっぱり、こういう時のミシェウの迫力はすごいものがある。
だって、あんな小柄で子供っぽい外見なのに男たちに言い負けないんだもん。強く言われても、臆さず向かっていてるし。まあ、シャマシュは何でも戦場で強い敵や過酷な状況で戦っているしこんな平和なところでの口論では恐怖なんて感じないのよね。
「とりあえず、ホーネルカー。わかっていますね?」
「なんだよ。言いたいことがあるならさっさと言えよ」
「責任者な以上、結果が出なければその責任を負うのは当然です。それが負けた指揮官の務めというものじゃないですか。まあ、もうあなたは終わりですが。絶対に、指揮はとらせません」
「ふざけんなよ」
それからも、罵声の繰り返し。シャマシュは一歩も引かない。う~~ん、話が進まなくなっちゃった。話したいこととかいっぱいあったんだけどなぁ。
こういう時に、自分が引くことを嫌がるのが玉にキズよね。日頃は口数が少ないけど、ほんとは血の気が多いというか。
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