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ワイバーン

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 私は柔らかくて張りのあるミシェウのほっぺから唇を話した。

 顔を話して、ミシェウに表情を戻す。
 戸惑ってる表情も、とってもかわいい。まんざらでもない感じってことなのかな? あどけなさと、お姉さん的なかわいらしさが融合して、一生見続けてもいいくらいだと思う。

 周囲に目が私とミシェウに向いている。ちょっと、やりすぎたかもしれないわ。

 これから、私もやり方を考えなきゃいけないわね。

 これが正しいって行動して、おかしいことに妥協せずに口出ししたりしてばっかいたからどうしても、争いになってしまう。

 気が付けば「独裁的」だとか「強権的」だとかさんざんな始末。でも、言わないと国が間違った方向へ行きかねないし。
 なんとか、やり方を変えていかないと。




 そして、2回目の私だからわかる。そろそろくる時間──。

 ふと視線を窓の外へ移すと、すでに遠くの空に現れている。以前も、このタイミングで現れた。あの時と同じ世界ならば──。

 すぐに窓のほうへを歩を進めて北のほうへ視線を向ける。
 やっぱりいました。ごくりと息をのんで覚悟を決めた。

 遠くの空から、最初は小さい鳥のように小さく──。

「あれ、皆さん避難してください。何者かがこっちに攻めてきます」

 私が飛んでくる物体に指さして、周囲がそれに気づいてこっちに来る。物体を見るなり、近くにいた人々は動揺して次々に口にした。

「なんだあれ」

「こっちに来るぞ」

 数十秒もたつと、その大きさがわかるようになった。何十メートルもの巨体。
 こっちをにらみつけてくる目は吊り上がっていて、敵意を見せつけてきているのが一目でわかる。

 そして、この宮殿の上までやってくると天に向かって顔を上げ、大きく咆哮を上げた。

 グォォォォォォォォォォォォォォォォッッ

「なんだなんだ?」

「化け物か?」

 パーティーを楽しんでいた貴族たちも次々に状況を理解し始める。そして、


 ドォォォォォォォォォォォォォォン!!

 静寂な空気の中、突然大きな爆発音がこの場を包む。
 これも、来るのはわかっていた。貴族の人たちが騒然としていると、窓側にいた人が外のほうを向いて叫んだ。

「おいおい、外に何かいるぞ」

 その言葉に、ここにいる貴族たちは窓のほうへと移動していく。

 その王都の空には、大きな魔物が宙を舞っていた。

 謎の幻獣。何十メートルという巨体に、黒くて大きい羽。邪悪なオーラ、そして筋肉質な胴体。見つけた人間を見境なく襲い、攻撃を仕掛けてくる。
 いかにも邪悪そうな姿。

 あれは魔物の一種「ワイバーン」だ。獰猛で、よく人を襲うことが多い。

 普通の動物と違うのは、圧倒的な戦闘能力と視界に入るだけで周囲を震え上がらせるほどの圧倒的なオーラ。

「戦わないと──」

 今から魔物相手に戦える冒険者を集めていたのでは被害が拡大してしまう。私は深呼吸をして、詠唱を唱える。


「集いし希望の輝きが、新たな力を呼び起こす。降誕せよ ライトネス・ダスト・セイバー」

 左手に、大きな剣が出現。これが私が生まれながらに使用している武器。体が、淡い光に覆われる。力がみなぎってくる。
 最終決戦の時以来だ。といっても私にとってはついさっきなのだが。

 これで完了。しかし、まだ足りない。

 私ひとりでは、苦戦は必至だし、ここに冒険者たちはいない。戦えるのは、私ともう一人。
 ミシェウのほうを向いて、話しかける。

「戦いましょう。人々を守るため」

「えっ?」


「お願い、私ひとりじゃきついから──力を合わせて戦いましょ」

 大丈夫。ミシェウの性格はわかってる。正義感が強くて、こういう時に考えたり立ち回りを考えたりするとより先に正しいと思うことをするタイプ。

 今はまだ動揺を隠せてないけど、すぐに自分がなすべきことを理解できるはず。

 ずっとミシェウと戦ってきた。だから、攻撃のタイミングとか思考パターンとかよくわかる。

「わ、わかったわ……」

 きょとんとしているミシェウ。まあ、私とは時々顔を合わせるくらいで親しい関係でもない。
 今はそんな関係だけど、これからもっと親交を深めていくつもりだ。
 それに、占星術はまだ研究途中。戦えるといっても一人で戦うとなるときついものがある。

「お願いします。占星術、使えるんですよね」

「まあ……使えるけど」

 それでも、頭を下げた。でもミシェウは正義感の強い性格。絶対協力してくれる自信がある。

「まあ、国民のためだもの。わかったわ」

 騒然となるこの場。貴族の人たちは、半ばパニックになって、城のほうまで逃げて寄り合って体を震わせながら魔物を見つめている。

「一緒に戦いましょう! 国民たちを守るために」

「そうね」

 そして、私はミシェウと肩を並べて魔物と対峙する。

 大きく深呼吸をして、体内に魔力をため込んだ。
 右足で踏ん張りを入れてから、思いっきり両足に魔力をため込み爆発させた。私の体は飛び上がる形となり、そのまま上空へと舞っていく。

「なんだあれ、空を飛んだぞ」

「知らないの? あれがシャマシュの得意技だよ。王国でも、あれできるの数えるほどしかいないんだよねぇ」

 貴族の人たちの言葉を尻目に上空で体制を変え、ワイバーンとご対面。
 私が使える制空系の上級魔法の一種、宙を舞い上下左右に移動ができる効果がある。


 こうして宙を舞う魔物相手に戦うには必須の魔法ではあるが、あまりにも魔力消費が激しく、数十秒しか持たない。

 だからうかうかしていられない。一気にワイバーン間に突っ込んでいく。

 ワイバーンもそれに合わせるかのように一気に突っ込んできた。
 急接近して、殴りかかってくるワイバーン。

 私は、ひらりと体を横移動させワイバーンのこぶしをギリギリにかわしていく。

 ゴォォォ──と豪快な音が鼻先を撫でる。少しでも距離感を間違えれば私の顔が粉砕されていただろう。

 鼻先をワイバーンの体毛が撫でるくらい回避がギリギリだったのは、近い距離から切りかかるため。
 私はこのチャンスを逃さず、無防備となった胴体に切りかかる。
 うん、体の動きは最後の決戦の時と同じ。

 集いし光の結晶が、新たな想いを力に変える セイバー・スラッシュ・アルカディア

 何度もワイバーンを切り刻み、右の翼の骨を折る。ワイバーンは、落下しそうになるが左の翼を今まで以上に大きく動かし、何とかこの場にとどまろうとした。

 ここで、私の体がぐらぐらしてくる。そろそろ着地しないと魔力が持たない。ワイバーンも体制を回復してきて、ダメージを受けながらもこっちを向いて反撃のそぶりを見せる。

 ここまでくれば、ミシェウでも大丈夫。

 魔力を少しずつ切って落下していく私。後ろを振り向いて、大きく叫んだ。

「ミシェウ、大きな一撃お見舞いできる?」

「まかせなさい」

 ミシェウはにこっと笑って親指を立てると左手をこっちにかざす。私はうまく残った魔力をコントロールしてうまく着地しようとする。

 ミシェウが大きな杖をポケットから取り出し、ワイバーンに向けた。

 占星術 ──アストログラフ・フレイム──

 淡いオレンジ色の光。以前も見たけどとても神秘的に感じる。

 ミシェウが杖を前に向けると、オレンジの光から大きな火の玉が5個ほど出現。まだ完全ではないけど、今のミシェウの実力なら、ワイバーン程度なら倒すことができる。

「さあ、何でここに来たかわからないけど──吹き飛べ!」

 大きな火の玉を地上になげうってくる。街を破壊しようとする化け物め、私たちが、絶対に倒す。

「ふざけないで。私がいる限り、この街は絶対に守り通して見せる」

 そう叫んだミシェウ、杖を大きく振りかざすと、すべての火の玉がワイバーンに向かっていく。ワイバーンは火を吐いて対抗しようとするが、火の玉はそれを押し破ってワイバーンに直撃。

 まだ発展途上だというのに、すさまじい威力なのがわかる。さすがはミシェウ。

「うあああああああああああああああああああ」

 ドォォォォォォォォォォォォォォン!!

 大きく爆発する魔物。ワイバーンは大きくのたうち回り、うめき声をあげた後、大きく爆発。
 爆散するワイバーンを見て、周囲の貴族たちが歓喜の声を上げる。

「うおおおおお」

「2人ともすごいな」

「流石はおてんば娘。こういう時は頼りになる」

 私たちに、称賛の言葉が集まるが──正直このままでは世界は守れないというのがわかる。

 今回はあまり強くなかったからよかったが、あれは魔物でも普通にいる強さ。

 もっと強い魔物はこの世界にいくらでもいる。これから、もっと強い魔物が何十匹もの数を連れて襲ってくる。

 そういった時に、もっと対抗できる力がないといけない。
 もっと私も王国もミシェウも強くならないといけない。

 この未熟な強さのまま魔物たちとの戦いに突っ込んだ結果、以前の世界は守り切ることができなかった。

 そんなことを考えて、後ろを振り向く。

「とりあえず、敵は片付けました。パーティーを続けましょう」

 そして、私はミシェウのほうに向かっていった。

「お疲れ様です。さすがは私の婚約者ですわ」

「あ、ありがと」

 まだ、深い関係じゃない2人。これから、深い関係になって一緒に愛し合える関係になろうね。

 そして、私たちはパーティーを再開した。
 とはいえ、あんなことがあった以上さっきまでのようにはいかない。どこかぎこちなく、気まずい雰囲気となった。

 さらに婚約破棄の件、パーティーの会話の半分ほどはその話でもちきりとなり、これから王国はどうなっていくのか。

 背景にどんなことがあったのか、貴族たちはこれから自分たちがどうすればいいか動いていくことになるのだ。
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