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二つの王国編

第89話 元仲間

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「ちょっとその契約書、見せてもらえるかしら?」

「……分かりました」

 そしてカルノさんは一度部屋を出ていった。少しの時間が経って、書類の束をもって戻ってきた。

「──ありがとうございます」

 お礼を言って頭を下げた後、その契約書を慎重に確認する。
 普段なら見過ごすような文章を全て──。

 そして、紙束の最後の方に気になる文章があった。
 私は、その部分を指さして話しかける。

「カルノさん、これです」

 カルノさんとライナは身を乗り出してその文章に視線を向けた。
 私はその一文を指さしてなぞる。

 内容は、リムランドがカルノさん達「ティアマト」がバルティカへ所有権を移行するときのこと。

「この一文なんだけど──」

 文章の一番下の部分。普通であれば見逃してしまいそうになるような場所。
 バルティカが、何らかの理由で税務危機や国家的に危篤状態にあるとき、費用を買い戻す形で、契約を解除できるということだ。

「あれば……の話ですが、全くないというわけではないです」

(上等じゃない。まだまだ可能性はあるわ)

 この期に及んで前向きなセンドラー。
 そして、そのスキをつけば、まだ道は開ける。

(私に考えがある。バルティカとリムランドの中での、モノの動きを見てみるの。カルノさんの動きを見てみれば、そっちでも何か不審な点があるかもしれないわ)

(でも、どうやって?)

(いるはずよ。私とつながりがあって、それにそういったことをしてきた人が──この地に)

 センドラーのこの地にという言葉。記憶を頼りに何とか思い出す。

(ああ。ここ、アイツが左遷された場所ね)

(ご名答)

 そう、この街にはいる。私と近い価値観と正義感を持っている人、私の戦友とでもいう人が。その人なら、何かわかるかもしれない。
 そう考え、カルノさんと話す。

「わかった。信じてるよ、センドラー。あなたたちがそれなりに覚悟を見せてくれば、こっちも奥の手を使う」

 奥の手という言葉に、私はピクリと反応する。
 この段階ではわからないが、カルノさんには何かがあるのだろう。

「ありがとうございます。私、行ってきます」

「信じてるよ」

 カルノさんは快く送り出してくれた。
 覚悟を決めてくれた。その想い、絶対に無駄にはしない。


 そして街に出て、聞き込みをしながらその場所へと向かう。あの商会の場所へ。

「ああ、あの商会ね。それなら、東のエリアにあるよ」

「ありがとうございます」

 私は単身、街の中心でもやや貧困層が住んでいるようなエリアに移動。

 服がボロボロだったり、痩せこけている亜人達が街を歩いていて、スラム街のような雰囲気を醸し出している。

 そして、大通りの中に古びた3階建てくらいの建物がある。
 埃かぶって、小汚い階段を登って2階に、目的の場所はあった。

「ライムズ商会──ここで合ってるわね」

 コンコンと扉をノックする。

「誰だ」

 声が低い、男の声。
 ぶっきらぼうに帰ってきた声に、ただ真剣に答える。

「私、センドラーよ」

 しばしの間、声が帰ってこない。
 驚いているのだろうか。

 扉の向こうにいる人は、私の知り合い。けれど、ここにいるって情報は来ていないはずだからだ。数十秒ほどたってから、言葉が返ってきた。

「今開ける」

 かちゃりと鍵が開く音がすると、ドアが私達の方向に向かって開く。
 一歩引いて扉に視線を向けると、目的の人物はいた。

「お前、ラストピアに左遷されたんじゃなかったのか?」

 私は、フッと笑って首を傾けた。

「そうなんだけどね、事情があって今はバルティカにいるわ」

 相対したのはすらっとした長身で、整った髭を生やしているダンディーなおじさん。

「センドラー、久しぶりだな」

「そうね、コンラート」

 コンラート。
 私がラストピアにいたころからの知り合い。元リムランドの政治家で私の元で敏腕をふるっていた。

 正義感が強く、信頼できる存在。


 しかし私がリムランドを追い出されると、彼も私の後ろ盾がなくなり王宮を追放された。

 そして、国とつながりがあるライムズ商会に出向という名の片道切符を言い渡され、この地に追放されたのだ。

 ちなみにライムズ商会とはバルティカや他国と様々な物資の取引をしている商会。
 政府の要人が使うような高級家具やぜいたく品の取り扱いも行っているため、色々な国の政府とそれなりにパイプがある。

 それを見込んで、そしてコンラートなら私の頼みに乗ってくれるかもしれないと踏んで、ここに来たのだ。

「とりあえず入れ」

 その言葉通り、私は部屋の中に入る。

 中は、色々なものを取り扱っているらしくいろいろと物でいっぱいだ。
 木箱がいくつも積まれていて、そこにはいろいろな書類や絵画、小物類などが置かれていた。

「それで、何の用だ」

 コンラートが紅茶を入れてくれた。
 与えられた紅茶を一口口に入れると、話が始まる。

「実はね……」

 私が今置かれている状況をすべて話す。バルティカとマリスネスの関係。
 バルティカの動きに不審な物があること。そして今まで私達との間に、何があったか──。
 話していくうちにコンラートの表情が、真剣なものになる。その表情から、理解できる。コンラートも、バルティカに対して思うようなことがあるのだろうと──。

「ちょっと待ってろ」
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