上 下
205 / 221
オリエント編

私達の想い、受け取って!

しおりを挟む
 アブディールの渾身の一撃を防いだのは、メーリングだ。

「しまった……ですわ」

 この状況で、メーリングの面倒を見るのはシャムシールの仕事だ。
 さっきまで彼女がルナシーの方に行かないように、警戒はしたものの、ルナシーが前線に突っ込んだ時に一歩引いていたせいで、対応しきれなかったのだ。

「メーリングさん、すいません」

「いいえ、あなたが勇気を出したおかげよ」

 メーリングが、フッと微笑を浮かべる。

 確かに二人は、出会ったのは先日。たまたま一緒に戦うことになっただけで、コンビネーションは未熟。


 しかし、それでも理解しあっていた。

((私は、この世界を救いたい))

 そんな強い想いを胸に、二人は一瞬目を合わせた後。ルナシーが大きく手を上げる。

「これは何ですの?」

 アブディールが叫ぶ。空中には、星の形をした魔法陣が展開し、ルナシーの杖が強く光始める。

「まずいですわ!」

 シャムシールが、ルナシーの作戦に気付き、襲い掛かるが時すでに遅し。
 アブディールは、メーリングの攻撃を防いでいるため、頭上の攻撃を止めることができない。

「これで、おしまいよ!」

 スッと、メーリングが一歩引く。

 無念の結晶よ。今こそ希望を紡ぐ力となり、世界の未来を切り開け!
 アストログラフ・スターエアレイド

 そして杖から、魔力を帯びた光線がアブディールの頭上にある星型の魔法陣に突き進む。
 魔法陣は、光線から力をもらったように一瞬強く光った後、すさまじい轟音を上げながら強いエネルギーを持って魔法陣と同じ形の光線を吐き出す。

(まずい!)

 アブディールはすぐに強力な障壁を頭上に展開、何とか直撃を逃れようとする。

 ──がそれは無駄な努力だった。

 ルナシーの出した攻撃が、アブディールの繰り出した障壁ごと、押し潰す。

 眩しくて、目が見えなくなるくらいのまばゆい光がこの場を包む。

 そしてしばらく時間がたち、光が和らいでいく。メーリングがその場所に視線を注ぐ。

「勝負は、どうなったの?」

 そしてメーリングが見たものは──。

「皆さん。私、勝ちましたよ──」

 ボロボロながらも、ニコッと微笑を浮かべながら突っ立っているルナシー。そしてその隣で、完全に魔力を喪失し、倒れこんでいるアブディールの姿。

 シャムシールが、その光景を見て驚愕し、口元を覆っている。

「私たち天使が、負けた? 俗物でしかない人間に──。本当ですか?」

 その言葉通り、ルナシーは、天使であるアブディールを、打ち倒したのだ。
 予想もしなかった現実に、シャムシールは、パニック状態になる。

 ──が、ルナシーも無事ではなかった。ルナシーは、急にその場でふらふらとし始め、ばたりと力が入らなくなったようにひざを折ってしまう。

「ほぼガス欠ですね。私はここまでです、あとはルナシーさん。これが私の、置き土産です!」

 ルナシーも、天使を相手取るのに、ギリギリの戦いをしていた。今までの無いくらいの攻撃を何度も受けた後、自分のすべてを出し切るような術式を繰り出したのだから当然だ。

 もう戦うことはできない。彼女にできることはただ一つ。

 ルナシーは両手をメーリングに向けた。

「私の残りの力、受け取ってください!」

「え──。いいの?」

 そう言う間にも、メーリングは自分の体内に、温かくて、優しいものが充満しているのを理解する。
 それがルナシーの最後の力だというのも。

 戸惑うメーリング、すでにボロボロのルナシーが自分に魔力を与えたら、彼女は魔力の無いただの人になる。

「何でそんなことするの? 私が負けたら、逃げられなくなるわ。人質にされる可能性だってあるわ」

 慌てて言葉を返す。しかし、ルナシーは動じない。

「大丈夫。私だって勝てたんだもの。あなただって絶対勝てるわ。一緒にいる時間はわずかでも、その想いは本物だってわかるもの」

 にこやかに微笑を浮かべる。ルナシーとメーリング。村でもほとんど接点はなく。一緒に戦ったのは、今が初めてだ。

 それでも理解できる。その気持ちの強さ、平和への、同じ思い。
 だから、メーリングの勝利を心から願い、自分の力をすべて明け渡したのだ。

 戦いを通じて、信じあったからこそできた代物だった。

 ルナシーの龍の力、それを受け取ったメーリングは感じる。

(ルナシー、確かに私はあなたとはあったばかりで、どういう道を歩んできたのかはよく知らない)

 体を回転して、天使たちに振りかざす。




(けれど、あなたのこの戦いに賭ける思いは感じることができる。だから、その想いを共有して、あなたの力を受け取って、この一撃を込めることはできる)

「私と、ルナシー。その想いがこもった一撃を、くらいなさい!」

「あなたこそ。私達も覚悟、想い。すべて受けて消滅するがいいわ!」

 メーリングかその剣の切っ先をシャムシールに向ける。負けじとシャムシールも切っ先を向けた。

 お互いに理解していた。次の一撃で、決まる。
 駆け引きのつもりでも、それから逃げたら切り刻まれて終わり。

 ──自分のすべてを、この場で出し尽くすだけだと。


 そして互いに自分のすべての魔力をその剣に集中させる。

 互いに息を合わせたように、一気に間合いを詰め、相手に最後の一撃を振りかざす。

 悠久なる力の結晶よ。今永遠に咲き誇り、未来を示す一閃となれ!
 ダイクロイック・プリズム・アブソルート・スラッシュ!


 勝負は一瞬、互いの攻撃が相手の攻撃に衝突──。




 ドサッ──。

 メーリングが、倒れこみそうなところで剣を地面に突き刺し──。



 シャムシールが攻撃を全身に受けて倒れこむ。

「負け、ましたわ……」

 勝負は、一瞬だった。メーリングの攻撃がシャムシールの攻撃を打ち破り、彼女の体を切り裂いた。

「素晴らしい戦いぶりでしたわ。私達の負けです」

 メーリングは息を荒げながら、体制を変え女の子すわりでシャムシールを向き、じっと見つめる。

 シャムシールは目に涙を浮かべながら訴える。

「私たちは、誓いましたわ。この世界を変えると──。平和な世界にすること。それは、かないませんでしたわ。約束、してくれますか。私達では成し遂げられなかった夢、平和で幸せな世界。作るために、戦ってくれると」

 メーリングは微笑を浮かべながら言葉を返す。

「当然よ。約束するわ──」

「ありがとう。天使たちの想い。受け取るわ」

 さっきまで敵対しても、やり方や考えは違っても、この世界を想う心は、目の前の人を助けたいと思う心は一緒。
 メーリングも、ルナシーもそれは理解していた。だから、天使たちを絶対悪だとは考えられなかった。

 その想いを継ぐために、戦っていこうと決意した。

「幸君、サラ。あとは無事かしら──」

 他の仲間たちの心配をしながら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ただしい異世界の歩き方!

空見 大
ファンタジー
人生の内長い時間を病床の上で過ごした男、田中翔が心から望んでいたのは自由な世界。 未踏の秘境、未だ食べたことのない食べ物、感じたことのない感覚に見たことのない景色。 未だ知らないと書いて未知の世界を全身で感じることこそが翔の夢だった。 だがその願いも虚しくついにその命の終わりを迎えた翔は、神から新たな世界へと旅立つ権利を与えられる。 翔が向かった先の世界は全てが起こりうる可能性の世界。 そこには多種多様な生物や環境が存在しており、地球ではもはや全て踏破されてしまった未知が溢れかえっていた。 何者にも縛られない自由な世界を前にして、翔は夢に見た世界を生きていくのだった。 一章終了まで毎日20時台更新予定 読み方はただしい異世界(せかい)の歩き方です

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。

克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...