上 下
152 / 221
アストラ帝国編

この街の本質

しおりを挟む
海から来る優しい潮風。照りつける太陽の光、地平線まで続く海。

 南国ともいえる温暖な土地アストラ帝国首都ビロシュベキ・グラードの最大の特徴でもあった。

 そんな道を歩く三人。そして海沿いの道を曲がり街の中に歩を進めていく。

「この辺りの地域っす。目的の場所は、この辺りっす」

「しかし俺やルチアがいて怪しまれたり警戒されたりだいじょうぶか?」

「それは心配ないっす。自分スパイっすからね……。こういう潜入作業や隠密行動には慣れているっすよ。任せてくださいっす」

 ルチアに表情に不安の文字は無かった。自信たっぷりの笑顔。

「これは、事件のにおいはありそうだね」

「ええ、さすが勇者さん。気づくのが早いっすね。マフィアの温床なんっすよこの辺り」

 視線を街並みに映すとさっきとはうって変わってゴミゴミとした裏路地、ボロボロの家屋、スラム街という印象を受ける。
 そんな荒れ果てた石畳の道を進んでいく3人。

「時々マフィアたちの動向を探るため隠密作業をしているっすからね。彼らの行動範囲や考え、動きは私にとっては丸見えっす」


 リゾートに来た人はもちろんこんなところを出歩いたりしない。危険な場所だと知っているからだ。

 埃かぶり薄汚れた道、道沿いには酒場が連なっており時々酔っぱらった、くたびれた服装をした人物が千鳥足でこちらを歩いてくる。

「治安悪そうでしょ、この辺りっすよ」

 ルチアがノリノリな雰囲気で話しかけてくる。

「もう少しっす、そこの道を曲がって路地に入ると目的地っす」

 そして三人は路地を曲がる、その視線の先にあるもの。それは一件の居酒屋だった。
 その居酒屋の中に三人が入る。

「いらっしゃいませ」

「三人っす、それでえーと。あの人っす」

「えっ、あの人が??」

 ルチアが一人の人物指差す。指を差した先の人物を見て二人はびっくりして小声で話す。

「あの人がマフィアのボスっすよ」


 ルチアの言葉に二人は戸惑う。二人の視線の先にあるもの。それは小汚い店のカウンター、そこに座っているのはよれよれの古びた服を着たくたびれたおっさんだった。


「そりゃどこの世界でもそういう闇組織ってのはある。でもどう見てもあの人はマフィアのボスには見えないよ」

 それはそうだ、マフィアのボスならばもっと豪華な服を着たり、女をハーレムのようにはべらかしたり高価な宝石を見せつけるように身につけている人物というイメージだ。

「この国のマフィアの特徴っす。目立つ事を特に嫌うんっすよ、スラム街の小汚い店でどう見ても小汚いおっさんにしか見えない人物が豪華な別荘や車、ヨットを所持している巨大マフィアの幹部やボスなんてよくあることなんすよ」



 確かにあの姿を見て彼を巨大マフィアのボスだと考える者はいないだろう。




 それはこの国の歴史が関係していた。この国では昔から内輪もめが絶えず警察機能が機能不全になる時期がたびたびあった。
 政治の腐敗などで兵士も教会も当てにならなくなることが多い中そういった組織が裏社会で増えていった。

 今でも政治とのつながりが深く貴族や国王のパーティーに行くとマフィアの幹部などか当り前のように出席しているという。

「綺麗事だけではこの世は乗りきれないっす。それに誰もスラム街や の問題を自己責任で放置した結果でもあるっすからね」

「けど直接法王がマフィアと関わっているなんて事があったら世界中から信用を失うっす。だから私たちがいるっす。私たちがうまく声を聞いたり調整したり、時には武力行使をして彼らが一般人に危害を加えないようにしているんす。結構大変なんっすよこれ」

「いらっしゃい。ご注文は決まりで?」

 カウンター席に座ってルチアが話しているとタキシードを着た店主の人が話しかけてくる。
 何を頼むか三人は顔を合わせる。

「ああ、自分酒弱いっす。ミルク」

「俺とサラは──、ワインをお願いできるかな」

「ここ、酒屋なんだけどな──」

 ルチアのミルクという質問に戸惑いながらも店主が用意をし始める。

 そしてそんなやりとりにしているとマフィアの人物がこちらの存在に気付いたようで声をかけてくる。


「ああ、ルチアか。久しぶりだな、何の用だ?」

「ああ、ジェンコさん、お久しぶりっす」

 ルチアが気さくに話しかける、どうやら名前はジェンコというらしい。

「ああ、ちょっとお仲間が魔王軍に関する情報を集めているみたいっす。それで裏社会で何かへんなやりとりとか会ったら教えてほしいかなあって思ったっす」

 するとジェンコはポケットから葉巻を取り出し始める。そして葉巻を一服吸い一息つくと口を開き始める。


「今度闇市があるんだってよ。俺達の所にも参加状が来たよ、俺達はそんなもん毛ほどの興味もない。だがお前たちは欲しがっているんだろ、他のマフィアとか、魔王軍とかの情報をよ……」

「魔王軍──」



 その発した単語に幸一は背筋に電流が走る。確かに幸一は魔王軍と国家に関するつながりを調べようとしていた。しかしこうも簡単に見つかるのは想定外だったからだ。

「い、いや……、こうも簡単にその言葉が出てくるなんて思わなくて」

 ジェンコがその参加状をポケットから取り出す。

「魔王軍も俺達もいわば日陰もんの連中だ、だったら日陰同士手をつなぐのは当然の事だ」

「まあ、考えてみればそうですね──、でもあなたたちはいいんですか?」

 するとジェンコは正面を向き、葉巻を吸いながら言葉を返し始める。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

奥様は聖女♡

メカ喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。 ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。

王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。

克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...