上 下
124 / 221
巨大なる襲撃編

イレーナのドキドキデート大作戦

しおりを挟む
 ネウストリアに帰還してから一ヶ月後。イレーナはサラの部屋にいた。いつもより化粧にもファッションにも力が入る。


「サラちゃん、私の身だしなみ。どう? 洋服はどんなのがいいかな?」

「ばっちりだよ、服はイレーナちゃんらしい服がいいと思う。ちょっと私に任せて」

 そしてサラがタンスから服を引っ張り出してイレーナに着せる。そしてその服をイレーナが着る。そしてその姿を部屋の片隅にある鏡でまじまじと見てみた。

「うん、これいいよ!!」

 歓喜の表情をし始めるイレーナ。サラも改めておめかしをしたイレーナの姿を見てみる。
 彼女の髪の色でもある白を基調として淡い青や緑などがちりばめられた服。上はイレーナの髪に似あうような色の薄いワンピース。下はミニスカート。

 イレーナの長所であるスタイルの良さ、色気、上品さ。それらを殺すことなくバランス良く彩られている。

 サラのコーディネートのセンスの高さが生かされていた。

「イレーナちゃん、頑張って!!」

「うん!! サラちゃん、私頑張る!!」

 サラがイレーナに勇気づけの言葉をかける。イレーナはその言葉に答えるように自分の決意を叫ぶ。

「幸君、私絶対気持ち伝える」

 何を隠そう今日は幸一とのデートの日なのだ。このネウストリアに帰還した後、戦いや移動で疲弊した幸一達をねぎらうという意味で王国自らが彼らに休暇を与えられたというのだ。

 最初は幸一が四人で行きたいと言っていたのだが青葉が「ごめん、私とサラちゃんちょっと行きたいところがあるの。悪いけど二人でラブラブしながら出かけてくれない?」と言いだしたのだ。

 あとからイレーナが聞いたのだがあれはイレーナと幸一を二人にするための方便だったと言う。

「せっかくの休みなんだから、たまには二人でいちゃいちゃしてきなさいよ!!」

「えぇぇっ? いいの?」

 驚くイレーナだったが青葉は作り笑いをしながら言葉を返す。

「いいわ。二人っきりのデート、ちゃんと楽しんできなさい!! それと──」

 そして青葉はイレーナに急接近し耳打ちする。その言葉にイレーナは──。

「せっかくの二人っきりなんだから告白しちゃいなさい!!」

「こ、告白──、えええっ????」

 その言葉にイレーナは思わず動揺し頭が真っ白になる。青葉はそれを気にも留めずにさらにイレーナに進言。

「当ったり前でしょ。あんたの幸君に対する気持ち、知らないわけないでしょ。いつまでうじうじして片思いでいるのよ。いい機会だから、その気持ち伝えてきなさい!! 私との約束よ」

「う、うん。わかった……」

 青葉の策だった、煮え切らないイレーナの気持ち。それに踏ん切りをつけさせるために半ば強制的にイレーナに幸一への想いを伝えさせるというものだった。


 迷いこそあったものの青葉の指摘に反論できず顔を真っ赤にしながらイレーナはゆっくりと首を縦に振る。


 強く握り拳しながら決意する。今日のデートで自分の気持ちを伝えて幸一のハートをゲットすると。
 イレーナの挑戦が今始まった。








 昼前。太陽が昇ったころ。

 ここは街の中心から少し外れた郊外。噴水のあるこじんまりとした公園。市民達がベンチに腰掛けていたり子供たちがわいわいはしゃぎまわっていてにぎやかになっている。

 そこにイレーナはいた。愛しの幸君との待ち合わせ。少し早めに来ていてもじもじとしながら辺りをきょろきょろと見回している。
 いつもとは少し違うお姫様のような、上品さを感じられる淡い色のワンピース姿。
 イレーナの持つ魅力を引き立てるためにサラと一緒に考えたファッション。

 顔をほんのりと赤くして愛しの彼の事を待つ。そして──。


「イレーナ、待たせた??」

「い、い、い、いや待たせてなんかないよ!!」

 聞き慣れた声、待っていた人がやってくる。あこがれの人、分かっていてもその声の主に気が動転、顔を真っ赤にし手をぶんぶんと振る。
 彼もまた青葉とサラに自分たちは二人で出掛ける、イレーナが幸君と行動したいと言われ一人でここに来たのだった。


「あ──、そうなんだ。わかった、じゃあどこに行来たいとかある??」

「う~ん。幸君が行きたい所ならどこでもいいよ」

 どこでもいい、その言葉に幸一は悩む。周囲を見回しどうすればいいか考えていると視線の先にイレーナが喜びそうなものを見つける。

「あ、じゃあまずあれにしない??」

 幸一が指差した先にはパフェの露店があった。時々公園にやってきてはお手頃な値段でパフェなど甘いお菓子を子供たちに売っている。イレーナもそれを見て笑顔になり首を縦に振る。

「う、うん。私食べたい!!」

「じゃあ決まりだね」

 屋台に向かって歩きパフェを二つ購入。屋台で買ったパフェを片手で二人が食べ始める。
 そしてもう片手でイレーナと幸一は手をつなぎ始める。触れた途端イレーナから笑顔があふれ始める。


「おいし~~」

 バナナやオレンジなどのフルーツが入っていてクリームがてんこ盛りのパフェ。
 とてもおいしくにっこりとした笑顔でご満悦になるイレーナ。

「ねえねえ、あれ勇者さんじゃない?」

「本当だ、隣にいるのは。王女様のイレーナさん?」

「うん、そうだよ。パレードとかで見たことあるから私わかる」

 周りが二人が手をつないでいる姿を見てひそひそと話をし始める。
 その姿に流石の二人も視線を感じ始める。

(ばれちゃった、みたいだな)

「勇者さん、噂に聞いたけどやっぱりイレーナちゃんと付き合ってるんだね??」

「おふたりさんラブラブだねぇヒューヒュー」

「絶対付き合ってるよ。イレーナさん顔真っ赤で幸せそうだもん」

 周りからは二人をはやし立てるような声がこだまする。
 幸一は顔を赤くして照れ始める。イレーナはその言葉に思わず口元がにやける。

(カップル、恋人──、幸君と……)

 幸一もどうすればいいかわからずやれやれと言った素振りをしてしまう。しかしいつまでもここにいるわけにもいかずイレーナの手を握りここから移動しようと考える。

 綺麗な洋服でも買おうか、それとも宝石店や飾りものを扱う店に行ってみようか。二人はどうやってこの貴重な時間を過ごそうかと思考を張り巡らしている。


 すると──。



「イレーナ。あの子どうしたのかな?」

 幸一が視線の先に指をさす。その指先には一人の男の子。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ただしい異世界の歩き方!

空見 大
ファンタジー
人生の内長い時間を病床の上で過ごした男、田中翔が心から望んでいたのは自由な世界。 未踏の秘境、未だ食べたことのない食べ物、感じたことのない感覚に見たことのない景色。 未だ知らないと書いて未知の世界を全身で感じることこそが翔の夢だった。 だがその願いも虚しくついにその命の終わりを迎えた翔は、神から新たな世界へと旅立つ権利を与えられる。 翔が向かった先の世界は全てが起こりうる可能性の世界。 そこには多種多様な生物や環境が存在しており、地球ではもはや全て踏破されてしまった未知が溢れかえっていた。 何者にも縛られない自由な世界を前にして、翔は夢に見た世界を生きていくのだった。 一章終了まで毎日20時台更新予定 読み方はただしい異世界(せかい)の歩き方です

器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。 光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。 目を開いてみればそこは異世界だった! 魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。 あれ?武器作りって楽しいんじゃない? 武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。 なろうでも掲載中です。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

奥様は聖女♡

メカ喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。 ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。

克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...