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ウェレン編

果たして、そうでしょうか

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 そして心の中で囁く。


「アリーツェ……、私何もわかってなかった。本当にごめんなさい──」



 イレーナはその様子を見てもうレイカに闘う意思は無いと感じる。そして槍を下に置きレイカのそばに駆け寄る。

 レイカの手をぎゅっとにぎる。

「イレーナ……、私」

 さっきまでとはうって変わってか細くかすれた声色。
 そしてレイカは倒れこむ。



「まあいい、もうこいつは絞りつくした後のボロ雑巾も同然。私はレイカの魔力も同時に使えるようになっている」





 ペドロが手をかざすとその手の前から紫色の球状の物体が現れる。大きさは手のひらと同じくらいでそこまで大きくは無いのだが。

 その数が見る見るうちに増えていくのであった。幸一はそれを見て顔が引きつり気味になり囁く。

「なんて数だ──」

 最初は十個くらいの数であったが、見る見るうちに数を増やしていく。正確な数は分からないが恐らくは100は超えるまでにはなっていた。

「これだけの数を出すのは私は初めてだよ。恐らく正確なコントロールは出来ないだろうねぇ。でもこれなら外さないよ!!」


「イレーナ、俺が防御する。だから俺の後ろへ」

「うん、わかった」

 イレーナはすぐに幸一の背後に移動、その瞬間ペドロからわずかな魔力が放出されるのが確認できた。それと同時にペドロの眼前にある無数の魔力を伴った球が幸一へ向かっていく。

 幸一は目をつぶり深呼吸をする。魔力を制御し意識を張り詰める。

 彼の前に突入した瞬間に全て一刀両断されていた。四方八方から襲ってくる無数の攻撃を目にもとまらない速さで次々と切り裂いていく。

「ケッ──。これが勇者の力ってやつか」

 ペドロは舌打ちをしながらつぶやく。見る見るうちに球状の物体が姿を減らしていく。そして残り十個くらいになったのを見て今度はイレーナが突っ込んできた。襲い来る攻撃を力でなぎ倒し一気にペドロの間合いに飛び込む。

 カッ──!!


 カァァァァァァァン!!

 ペドロも供給する魔力を上げて迎え撃つ。二人の力と意地がぶつかり合い火花が散る。
 イレーナが強い力を生かして押し気味に進めるがペドロは後退しながらうまくイレーナの攻撃をいなしていく。

「イレーナ」

 後方で拘束されているレイカが苦悶の表情を浮かべ始める。恐らくはペドロに力を吸収されているのだろうと幸一は推測する。

「飛んだミスだったねぇ。あんたの恋人さんはこれで終わりだよ!!」


 しかしイレーナがどれだけ力もちでも宙に浮いた状態ではどうする事も出来ない。

 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!

「イレーナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 無情にもペドロの攻撃がイレーナに直撃し大きな爆発音を上げる。レイカはそれを見て拘束されながら大きく悲鳴を上げる。

 爆発の場所から

 ペドロはもう魔力がないイレーナをみて笑みを浮かべ心の中で喜びを見せる。

(これでイレーナを倒した、あとはあの勇者だけだ!!)




「果たしてそうでしょうか?」




 ボロボロになり攻撃が直撃したイレーナがつぶやく、しかしペドロにとっては負け惜しみにしか見えなかった。

「嬢ちゃん。滅びなよ!!」


「残念だがその時は来ない!!」

「何ィィ??」

 予想もしなかった声に思わず振り向く、背後からの幸一の声。


「貴様!! いつの間に背後に???」

「油断したな?」

 幸一は読んでいた、老獪で経験深い彼女を正攻法で倒すのは困難に近いと。
 そんな彼女を倒すスキ、それは一つしかないと。

 それは今まで憎んでいた瞬間、自らの野望をかなうと確信した瞬間だった。

 まずイレーナならこの程度の攻撃で死ぬはずがないと信じていた。そして敵の一人を倒したとなれば必ず気が緩む。その気が緩んだときが唯一のチャンスだと、おまけに爆発の煙で視界は最悪。



 条件は整った。






「なんだとっ……!? イレーナは、囮だったのか?」

「イレーナはこんなんじゃ死なない。信じていたからな!!」


 そう、幸一はイレーナといつもともにいた。だから彼女の力量もわかる。この程度ならまだ大丈夫だと。

 そして彼は勝負を決めるために剣を振り上げ魔力を込める。その表情にペドロは表情をゆがませる。
 ──が背後に敵、空中で身動きも取れない、彼女はどうすることもできない。

 涅槃なる力、今世界を轟かせる光となり降臨せよ!!
 スピリッド・シェイブ・ハルバード

 幸一の詠唱とともにペドロの眼前には今まで見たこともないような途方もない量の魔力を伴った白い炎の攻撃が襲う。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 ペドロは術式をまともに食らい壁に叩きつけられる。意識を失いそのまま力なく地面に
 ぽとりと叩きつけられる。



「やったぁ」

「勝った……のか?」


 二人は意識が消失したペドロをじっと見る。それを見て二人は一瞬見つめ合い勝利を確信。弛緩した表情になる。

「幸君、やったね!!」

「──そうみたいだな」

 そして幸一はダメージを負ったイレーナに肩を貸す。イレーナはその姿に顔をほんのりと赤くする。さらに拘束されていた国王の拘束を解き解放。

「魔王軍との戦い、どうなってるかな?」

「わからない。状況次第では俺はまだ戦うことになりそうだな」

 そう、外ではまだ魔王軍と味方たちが戦っていた。こんなところで休んでるわけには行かない。

 幸一はまだ戦えるため加勢をしようと考えながらこの場を後にしようとする。







 スッ──。



 後方からの物音に幸一達の背筋が凍り始め恐る恐る背後を振り向き始める。
 それはあり得ないはずの光景。
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