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サヴィンビ編

残酷な結果

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 負けるとはみじんも考えないマンネルへイムの態度。

 そして二人の術式が衝突する。

 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!

 結果は明白であった。
 幸一の攻撃が打ち負け、へイムの攻撃に吸収されるかの如く見込まれていく。

(競り負けた? これをくらったら負ける、回避──)

「いいや、逃がさん!!」

 へイムの赤い水が幸一の青白い炎に蛇のように絡みつく。そして炎を矮小化させながら幸一に向かっていく。

 幸一がとっさに左に回避、しかし赤い水がそれを読んでいたかの如くその方向へと進路を変える。回避する手段など存在しなかった。


「ぐわあああああああああああああああああああああああああああああああ」


 水鉄砲のごとく強い威力で幸一に直撃し吹き飛ばす。そして吹き飛ばすだけでなく幸一に触れた部分から彼の魔力と体力を根こそぎ吸い取っていく。

(まずい、力が入らない。魔力が吸い取られる──)



 何とか立ち上がろうとする幸一。負けたくない、まだ戦わなきゃいけない……、しかしその想いは届くことはなかった。勝ち誇った表情でマンネルへイムが幸一に歩いてくる。そして倒れ込んだ幸一を見下しながら忠告する。

「お前にはまだ俺を倒すことは出来ない。今の攻撃は貴様に中では見事だった。だが俺にとっては付け焼刃にしか過ぎなかった。お前にはまだ足りないものも多い。経験も、想いも。また強くなって、俺にかかってこい!!」

「俺は、絶対にお前には従わない、いつかお前に勝つ」

 倒れこみながら幸一はへイムを睨みつける。

「お前のこの世界への想い。人々への心。確かに心では皆のために戦う。そう思っているかもしれない。しかしそれはそう考えているからであって心の底から発せられる想いではない。お前はこの世界に来て間もない。積み上げた物も俺から見れば塵に等しい」

 幸一は倒れながら、睨みつけながらへイムの話しを聞く。言い返せない、幸一はこの世界に来てから間もない。口では戦うと言っても心の底から発する様な想いまだそこまでの体験はしていなかった。

「ではさらばだ若き勇者よ。いつか志を共有できる日が来る事を楽しみにしている──」

 へイムの後姿を見ながら幸一は思考を働かせる。付け焼刃で力を授かっても決して勝つことは出来ないだろう。もっと強くなって、強い想いを身につけて、彼との差を埋める。そんな想いが彼の頭の中にひしめいていた。

 彼が去っていった後、イレーナ、サラ、青葉が倒れこんでいる幸一に駆け寄る。そしてイレーナが話しかける。

「幸君──」

 とっさに話しかけたはいいがどう話せばいいかわからない。とりあえずしどろもどろになりながら励まし始める。

「今回は、相手が悪かったよ。あの人に勝てる相手なんてこの世界に多分いないもん」

「そういうことじゃない、負けたら俺の言う事など効かなくなるようになることだって考えられる。これからそれをどうやって挽回するか──」

 励ましの言葉を耳にしても落ち込んだ表情は変わらない。力がすべてのこの世界。
 いくら正論を言っても周りの人達が頭を下げなければ通ることは無い。
 幸一とへイムで意見が食い違った時、この戦いを見た人は一体どちらを選択するだろうか

 横になりながら落ち込んだ気分でそんなことを考えていると青葉がゲキを飛ばし始める。

「一回負けたくらいで何しょけてるのよ!! 私だって負けたことくらいあるわよ。任務に失敗したことだってね。でもこうして私はいるわ。一回負けてくらいで──、まだ挽回するチャンスだってあるわ。私も力になるから、ここは立ち上がって──」

「私もそう、負けた事ぐらいあるよ。一回くらいでしぼんでちゃだめだよ!!」

 イレーナもここぞとばかりに幸一を励ます。

「ありがとな、おまえら」

 幸一の表情に笑顔が戻っていく。そうだった、まだやるべきことはある。守るべきものはある。一度負けたくらいで立ち止まってなんかいられない。

 座り込んでいた幸一がそっと立ち上がり空を見る。

「今の俺ができる事。やっていくしかないな……」

 そのつぶやき通りだった。確かに幸一は負けた、でもやるべきことはある。幸一は少しだけ自信を取り戻す。そして自分にできる事を探すためゆっくりとこの場を後にしていった。

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