上 下
69 / 221

いつもと違う戦い

しおりを挟む
「それなら例え数が足りなくても戦える人たちだけで戦った方がいいってことね──」

 青葉の答えに幸一が同調する。

「そういうことだ。イレーナ、青葉、サラ、ルト、今回はいつもと違う戦いになる。数が足りない中心してかかってほしい」

 その言葉にイレーナ以外の全員が首を縦に振る。イレーナはどこか了承できない様子で握りこぶしをしながら幸一に聞き返す。

「わかってる、幸君の言葉が的を射ているというのも。それが今一番正しいって言うのも──」

 幸一はイレーナの声に黙って耳を傾ける。

「でも、なんか納得できない。本当に……何とかならないの?」

 イレーナの必死の訴えにこの場が沈黙する。ルトがすぐに言葉を返そうとする、しかし幸一はすぐに言葉での説明をやめるように言い聞かす。

 正論を言ってもイレーナは納得しない。幸一はどうすればイレーナが納得できるかを考える。

 そしてそれを考えつき口を開き始める。


「考えてみればわかる。自分達の私利私欲のために魔王軍との戦いを放棄した上に身体を張って敵と戦う冒険者相手に家族を人質に取るようなやつだ」

「魔王軍と手を組んでいる可能性だってあるわ、地位のためなら何でもするなら強大な力は必須だもの」

 青葉もそれに乗じて言葉を発する。青葉には幸一が何を考えているのか分かってきたからである。

「はなっから国民のことなど頭にないのだろう、あるのは自分たちの権力欲と名誉。そしてそのためなら奴は何でもするだろう……。後にどんな憎しみを植えつけることも──。奴には別の方法で対抗する。こんな時に国を二分にするようなことはしたくない」



「本当に悪いのはごく一部だ。大半は自分たちの利益のために力のある奴についているだけだろう」

 今までいろいろな国の実情を見てきたルトが口を開く。

「それは僕も思う」

 ルトは今までいろんな人と接してきた、そしてその体験を胸に話し始める。
 大半の貴族達は自分たちに利益や生存権を与えてくれるのならば誰がこの国の指導者になっても問題はないと考えている。

 まだまだ魔王軍との戦いが続く中、その貴族たちすべてと戦っている暇などない。
 ごく一部の悪質な貴族達をピンポイントで追放して他の派閥をなくして残りの貴族達にも救済を行いその代わりとして自分たちに従わせた方がいい。

 無理に戦ったところで冒険者達も兵士たちも賛同するとは思えないことも理由である。

「それもそうね、なんか幸君らしいわ」

 同調する青葉と幸一、サラ、それにつられてイレーナも賛成に回り話し合いが終わる。








 三日後、魔王軍の襲撃の日となった。

 しかし今日はいつもの魔王軍との戦いと違うところがある。

 どこか少ない。それもそのはず、今は普段の六割ほどしか魔王軍と戦う冒険者がいない状態になっていた。

 前日の幸一や青葉の話し合いの直後
 強引だと言う理由づけで魔王軍との戦いを不参加とすることを決定。


 その動揺は冒険者たちにも広がっているようで、彼女たちを見ていると不安そうな表情や周りをキョロキョロした顔つきで会話をしているのを所々で見た。

 不安になる幸一達、こんな状態で果たして彼女達は強力な魔獣たちと戦えるのか──。
 そんな雰囲気にイレーナとサラが

「うん、本当は私たち必死になって魔獣と戦う冒険者たちが全力を出せるように準備しなくちゃいけないはずなんだけど──」

「けど完全に足引っ張ちゃってますよね──。雰囲気がいつもと全然違います」

 呆れた表情で青葉も思わず愚痴を漏らす。

「無駄な政争争い、足の引っ張り合い。しまいには魔獣との戦いをボイコット……。政治家たちはどこを向いて政治をしているのかしら? 自分たちのプライドと国民の命、どっちが大切なのかしらね?」

 勇気づけるように 幸一が言葉をかける。少しでもみんなが前を向けるように──。

「俺達だけでも頑張ろう──、俺達を見て、みんなが自分も戦おうってここにいる人たちが決心できるように」

 その言葉に触発され青葉も少し元気を取り戻す。

「そうね、何があったって私たちのやることは変わらないもの。冒険者たちと一緒に魔王軍たちと戦ってこの世界に平和を届けるってね」

「うん、そうだよね──」

 青葉の言葉に気落ちしていたサラとイレーナが元気を取り戻す。
 考えてみればそうだ。周りがどうあれ自分たちがやることは変わらない。
 全力を尽くして戦って守るべき人達を守る。

「来たわ!!」

 イレーナが前方を指差す。青空だったはずの空が少しずつ紫色に変色していく。
 するとそこには魔王軍の兵士の首なしの騎士「デュラハン」の大軍があった。

 紫色と黒色の中間の色の体と暗黒のオーラ。再び始まる魔王軍との熾烈な戦い、皆の表情が真剣なものに変わっていく。

 ダッ!!

 デュラハン達が冒険者を視界にとらえるそして一斉に彼らが襲ってくる。

 周りの冒険者たちもデュラハン達と一斉に戦闘を開始していく。
 その姿にさっきまであった戸惑いや困惑といった雰囲気はもう感じられない。



 周りがどうであろうと自分たちがやることは変わらない。目の前の敵に臆することなく立ち向かい戦っていく。そして自らの手で平和を勝ち取っていく。そんな思いでの戦い。


 ズバァァァァァァァァァァァァァ!!

 ドォォォォォォォォォォォォォォォォン!!

 あちこちから冒険者たちが敵を切り裂き、爆破していく音が聞こえ出す。
 幸一とイレーナも一緒にデュラハンの大軍たちと戦っていく。


「魔力が尽きたり戦えなくなったら無理をせずにすぐに撤退しろ、命だけは絶対に守ってくれ」


 今回は対抗派閥たちのボイコットにより彼らの地域の冒険者がこの戦いに参加できなくなっており、いつもより人数が少ない。

 そのため1人当たりの負担がいつもよりも多い。
 なので無理に戦いを続けて命にかかわるような事態にならないようにいつもよりそういった注意を勧告していたのだが──。

「大丈夫。私たち、まだ戦えるから!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ただしい異世界の歩き方!

空見 大
ファンタジー
人生の内長い時間を病床の上で過ごした男、田中翔が心から望んでいたのは自由な世界。 未踏の秘境、未だ食べたことのない食べ物、感じたことのない感覚に見たことのない景色。 未だ知らないと書いて未知の世界を全身で感じることこそが翔の夢だった。 だがその願いも虚しくついにその命の終わりを迎えた翔は、神から新たな世界へと旅立つ権利を与えられる。 翔が向かった先の世界は全てが起こりうる可能性の世界。 そこには多種多様な生物や環境が存在しており、地球ではもはや全て踏破されてしまった未知が溢れかえっていた。 何者にも縛られない自由な世界を前にして、翔は夢に見た世界を生きていくのだった。 一章終了まで毎日20時台更新予定 読み方はただしい異世界(せかい)の歩き方です

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。

克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...