上 下
68 / 221

戦いの結末、突然の展開

しおりを挟む
幸一は彼の剣さばきに感服し、模擬戦がしたいと思い交渉する。ルトは少し戸惑い苦笑いしながら口を開く。

「ああ……、考えておくよ」

「その時はよろしくな」

 さらに幸一はルトに話しかける。

「俺は宮殿に帰るけどルトはどうするの?」

「僕はまだここにいたい」

「まだ何かあるの? 協力するよ」

 幸一の言葉にルトは首を横に振りながら答える。

「いいや、違う。ちょっと見てみたいんだこの街を──。こんな平和な風景、何か僕好きだから」

 ルトは今までいろいろな風景を見てきた。
 いい風景ばかりではなかった、戦場では兵士たちのしがいが並んでいる姿。スラム街で貧困に苦しんでいる姿。
 いい風景ばかりではなかった。

 そういった残酷とも、現実ともいえる光景を見続けてきたからこそ、どこか好きなのだ、こういった平和に国民たちが暮らしている姿を見るのが。
 そしていつも決心する。世界のすべてがこんな風景になったら──と、そのために自分は戦う……、と。

 時間はすっかり夕方になり日が暮れ始めていた。

 二人は互いに挨拶をして別れていく。

「じゃあね」

「また今度手合わせしような!!」

 また同じ目的のために戦う、そんな思いを胸にしまいながら……。


 そんな余韻に浸っているとこっちに向かって誰かが走ってくる。

「あれ、青葉だよな?」

「幸君、ルト君。大変なことになっちゃった!!」

 青葉だった。それもいつもと違いかなり動揺して慌てている。どうしてそんな様子になっているのかを幸一が聞いてみる。すると驚きの言葉が返ってきた。

「対抗派閥のヴァロワ家達が魔王軍との共闘を放棄するって主張しちゃったの」

 完全に寝耳に水であった。
 三貴族と言われ地方領主の貴族の中でも有力で広い国土を持つ影響力の強い家系。

 自分の管理する土地の人達を私物としか考えず、暴力や収奪は当たり前、悪評しかない貴族達。
 幸一もこの世界に来たときにその説明を受けていた。

 話は先ほどの議会にさかのぼる。
 途中までは予算や国政に関することなどいつも通りの審議を続けていた。しかし議会の終盤になって突然声を上げる者が現れる。

 ヴァロワ家の当主であるヴァロワ=ローランスが突然声を上げ始めた。

 今の国王や勇者幸一のやり方が抑圧的で独裁者のように横暴だと主張しこのような人物とは共に魔王軍と戦うことは出来ないと主張。

 一方的に戦いを拒否、議会をボイコットしてその場を去ってしまったのであった。
 国王は突然の出来事に何が起きたか理解できない様子で頭が真っ白になってしまう。
 すぐに彼らのもとに行ってしどろもどろになりながら必死に説得を行う。魔王軍との戦いは国家全体で行わなければいけない。国会での対立や私的な感情を入れるべきではない──と。

 しかしローランスはその声を気にも止めずに立ち去ってしまった。
 にやついた笑みを見せながら──。


「本当に? 目的は何なの?」

 イレーナが動揺しながら質問をするとサラが推測を始める。

「まずは恐らくは魔王軍との戦いで俺達を疲弊させてその後に自分たちがこの国の中で主導権を握ることが目的でしょう」

 それに乗じて今度は青葉が口を開く。
「国王の権限を失墜させることも目的だと思うわ。そして失墜させた後に自らが実質的な新しい権力者になろうとしているのでしょう」

 それに対して幸一は一つの疑問を抱く。

「でもなんでローランスはそんな強気に出られるんだ? いくら権力者と言っても何だってできるわけじゃない。いくら上の奴が不参加を表明したって冒険者が戦うって言って独断で参戦を決めたら奴な何もできないぞ」

 それはそうだ。いくら権力者だからと言ってあまりに冒険者の意思に背いたことなどできない。彼らに裏切られたら政治基盤そのものを失い失脚させられかねない。
 幸一の世界でも軍隊に裏切られ失脚、ひどい時には処刑にまでなった指導者だって存在している。

「奴らだってそれはわかっているはずだ。特に自らの保身を第一に考える奴らの様なタイプであればある程だ──」

 だが現実として彼らは魔王軍との戦いへの不参加を表明している。
 すると青葉はきりっとした表情で幸一の問いに答える。

「それなんだけどね、私も不審に思って調べてみたの──。彼らの領地にすんでいる冒険者の人達に聞いてみてすぐわかったわ」

 青葉の顔つきが深刻になる。
「奴ら、故郷にいる家族達を人質にしたのよ。彼らの安全を確保してほしければ、自分たちの意見に従えって」

「そういうことか──。確かに武力では魔法が使える冒険者には勝てない。だから人質を使って──」


 突然の知らせに幸一は動揺し、考える。冒険者たちを守り、どうやって魔獣と戦うか。そしてこれからどうするかを──。

 五分ほど重い雰囲気と沈黙がこの場を支配する
 そしてようやく幸一が口を開き始める。


「いいよ、冒険者たちは撤退させろ」

 襲撃まで時間があるならやつらの領土へ行って敵たちを全滅させることもできた。しかし今回は襲撃までもう時間が無い。奴らの忠告を無視して戦わせたところで冒険者も魔王軍相手に集中して戦うことは出来ない。

 恐らく人質にされている故郷の家族達がちらついてしまうだろう。

「それなら例え数が足りなくても戦える人たちだけで戦った方がいいってことね──」

 青葉の答えに幸一が同調する。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

破滅する悪役女帝(推し)の婚約者に転生しました。~闇堕ちフラグをへし折るため、生産魔法を極めて平穏に生きる!~

鈴木竜一
ファンタジー
「ようやくおまえの婚約者が決まったぞ。なんと公爵家令嬢だ」  両親からいきなりそう告げられた辺境領地を治める貧乏貴族の嫡男・アズベル。 公爵家令嬢との婚約により王家とかかわりが持てて貧乏を脱却できると浮かれる両親であったが、ロミーナという相手の名前を聞いた瞬間、アズベルに前世の記憶がよみがえる。   この世界は彼が前世でハマっていたゲームの世界であり、婚約者のロミーナはのちに【氷結女帝】と呼ばれるボスキャラとなり、人々から嫌われる「やられ役」だったのだ。おまけに、主人公に倒された後は婚約者である自分も消滅してしまう運命であることも…… しかし、そんな女帝ロミーナも幼い頃は大人しくて優しいヒロイン級の美少女であると判明する。彼女は常人離れした魔力量を有しているものの、それをうまく制御することができず、力を恐れた貴族たちは次々と婚約話を断り、最後に回ってきたのが辺境領主であるアズベルのウィドマーク家だったのだ。  さまざまな闇堕ちフラグを抱えるロミーナを救わなくてはと決意したアズベルは、自身が持つ生産魔法と前世の知識をフル活用して領地繁栄に奔走し、公爵令嬢である彼女に相応しい男となって幸せにしようと努力を重ねる。  次第に彼の生産魔法によって生みだされたアイテムは評判となり、いつしかロミーナの悪評よりもアズベルが生みだす画期的な魔道具の数々が人々の注目を集めていくように。 「えっ? 俺が革命児?」  推しキャラで婚約者のロミーナと辺境領地で静かに暮らすつもりが、いつしか王家や原作主人公からも頼られる存在に!?

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

処理中です...